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「社長が知らなかった」はウソ?

ビッグモーターの保険金不正請求は2023年7月18日にビッグモーターの公式サイトの中で調査報告書が全公開され、様々な悪事が明らかになっている。

【画像】ビッグモーター、行ってみた 騒動後の店舗の現状は?【現地より】 全14枚

しかし、7月25日に突如として開催された兼重社長(辞任)会見ではこれらの不正請求への関与に関して、「板金部門が勝手にやったことで会社の上層部はこの件をまったく知らない」というスタンスを貫いた。


会見で辞任を発表した兼重宏行社長(2023年7月25日)

以下は、社長会見における核心に触れる部分の兼重宏行前社長の発言であるのでまずはここを紹介しておく。

「6月26日に報告を受けて、耳を疑った、こんなことをやるのかと愕然としましたね。その時初めて現場に入ってよく見とけばよかったなと、その内容は大事な大切なお客様の車をお預かりしてこれから修理する人間が傷をつけて水増し請求する! ありえんですよ。本当に許しがたいと」

「特に悪質な案件が5つあると書いてありました。その中でも、もう本当に衝撃的でこれはもう一線を越えてるなというのがゴルフボールを靴下に入れて振り回してひょう害車の損傷範囲を広げて水増し請求する。もう本当にこれは許せません。ゴルフボールで傷をつけるゴルフを愛する人に対するほんと冒涜ですよ」

「これは今事実関係を確認中ですけども分かり次第刑事告訴を含む厳正な対処をしたいと考えております」(刑事告訴については後に撤回)

その後、数多くのメディアが兼重社長含む上層部が保険金不正請求のことを知っていたのかを検証し、筆者も多数のテレビ番組や週刊誌等からそのことでコメントを求められた。

そこで筆者はどのメディアにも以下のように答えていた。

「幹部社員が知っていた可能性は高いが、社長の耳には入らないようにしていたのではないか。内部告発があった時も、あまり詳しい内容を伝えず、社長はそれほど深刻な問題とはとらえなかった可能性がある」

「もし、社長が詳しく知っていれば、もっと早くこの件は調査に動いていたのではないか」

この件について実際に板金工場の責任者にも数名取材をしており、水増し請求をするための不正な作業を数多く目撃したという証言が得られた。

また、上層部、中には損保会社の担当者から直接、指導を受けていたという工場もあった。

「板金部門だけでやったこと」ではないだろうと思っていたが、社長自身は本当に知らなかったのではないかと筆者は思っていたのだが……。

それが大きな間違いだったことが分かった。数日前、筆者に様々な情報を提供してくれる関係者から驚きのメールが届いた。

「過去の兼重社長の指示です」

「2006年だったと思います。西日本にあるビッグモーターA店(メールには実名記載)で販売店の店長会議があり、全国から店長や工場長などが出席しておりました」(情報提供者)

「その時に、B店の店長(工場長だったかもしれません)から保険修理の話が上がりました」

「それは事故でぶつけたボディパーツを保険修理した際、新品ではなくリユース品(中古品)を使用した事例の紹介でした。中古品を使ったことで利益が上がったという報告だったのですが、その報告を受けた兼重社長(当時)は嬉しそうに、次のように言っていました」

「請求は(新品として)保険でやればいい。お客様にはリユースだろうが新品だろうがきれいに色を塗って仕上げればわからんじゃろ。どんどん、リユース部品、リビルト商品を使いなさい」(当時の兼重社長の発言)

情報提供者は続ける。

「当事、わたしは営業部門にいたのと、入社してからまだ日が浅かったため板金修理のことはよくわからなかったんですが、お客様や保険会社には新品として修理して、実際には中古品を使う……そんなことが許されるんだろうか? と思いながら、兼重社長の指示を聞いておりました」

「今思えば立派な保険金詐欺の指示ですよね。おそらく、この会議での指示以降、保険金不正請求が始まったのではないかと思っています。このようなことも、今回調査が入ればわかりそうですね」

衝撃の内容であった。

2006年と言えば、前副社長の兼重宏一氏(1988年生まれ)はまだ高校生〜早稲田大学に入るかどうかのころであるから、当然、不正に関わるはずはない。

テレビを中心としたマスコミ報道では、宏一氏が「戦犯」としてやり玉にあげられているが、実際は2006年に「実際は中古品を使って綺麗に仕上げて新品パーツと同じ金額を保険会社に請求する、客にももちろん言わない」というあくどい作業はすでに始まっていたことになる

この件について大手損保会社の幹部2名に尋ねたところ匿名での回答ならということでコメントをくれた。

「兼重社長がそんなことを!」

「兼重社長がそんな事を言われたとは、われわれには到底信じられません。リサイクル部品の使用は損保でも推奨していました。エコかつ低廉な修理費で損害率も抑えられるからという理由です」(大手損保ビッグモーター担当者)

「当然、リサイクル部品を使用して修理をおこなう場合にはお客様の同意が必須となります。黙って交換することなど絶対にしないはずです。ましてや、新品と偽って中身はリサイクル品だったなんてことは絶対にあってはならないことです」と続ける。

また別の担当者はこのように話す。

「兼重社長は自動車保険のことを『お客さんに感動を与える存在』としてとても大切に考えてくれていました」

「事故をおこして多大な損害を受けたとしても、保険があったから良かった。何百万円の修理代も保険のおかげで支払わずに済んだ…。そんな感動を与えられるのが自動車保険だと」

「わたしたち損保の人間にとってこんなことを言ってくれる存在は中古車販売会社の経営者としてはまずいません。みんなで感動しましたよ」

「不正行為について兼重宏行社長は特に厳しかったんですが……」

筆者は別途取材を進め、当時の事情を知るビッグモーター元板金部門社員にもその話を聞いてみた。

中古部品を使え! 工場長はヤフオクとにらめっこ

「中古部品を使えとはよく言われていました。それが言われるようになった時期も合致していたと思います。2007年以降でしょうか」(ビッグモーター元板金部門社員)

「しかし、実際の請求や利益の計算などは工場長など責任がある立場の人がおこなうため、平社員のわたしはただただ、エコのためにとか修理代が安くなるようにとか、そういう理由で中古部品を使うんだろうと思っていましたね」

「工場長がパソコンの画面とにらめっこで、中古パーツの販売サイトで色々探していた姿も覚えています。ヤフオクなどでもパーツを探していましたよ」

「なお、中古部品といっても、なんでもかんでも安くなるわけではないみたいです。一番安いのは板金で修理することなんです。中古パーツであっても」

さて、2023年7月28日金曜日。国交省はビッグモーターが損害保険会社に保険金を不正請求していた問題で全国34の拠点へ立ち入り検査に入った。

この検査は板金工場を持つ店舗を中心に調査が入っているとのことで板金作業員1人ずつから事実確認をしていたとされる。長いところでは11時間に及ぶ立ち入り検査になった。

分解整備や電子機器の再設定等にも関わってきそうだ。国交省の立ち入り検査の結果もやがて公開されることを期待したい。

ビッグモーターに関しては、保険金不正問題以外にもたくさんの不正行為が発覚している。元社員、現社員、元幹部……そして、ビッグモーターで中古車を買った人、売った人、車検を受けたひと、元下請け業者に至るまで多数の被害報告が筆者のところには届いている。

冠水車としての告知義務に違反し堂々と販売し、返金には応じないばかりか代車のレンタカー代まで請求されている例もある。

またビッグモーターにクルマを売却したが、「修復歴が見つかった」など難癖付けられて泣く泣く減額交渉に応じて手放した例も後を絶たない。本来ならこのような不当な減額交渉に応じる必要はないのだが「キャンセルができない」などとして脅され、150万円の買い取り額が90万円になった例もある。

さらにそのクルマは少し経ってビッグモーターの店舗にて「修復歴なし」として販売されていたという。完全な詐欺ではないか。

ビッグモーターに騙された人はいったい全国で何万人いるのだろうか。すべての被害者に対して納得いく救済をすることが「再生」への第一歩であると筆者は考える。