ニュースなどでは、何らか飛翔して飛んでいく兵器についてミサイルあるいはロケットと呼ばれます。このふたつの違いはどこにあるのでしょうか。

ロケットは無誘導が基本

 戦場の様子を伝えるニュースなどを確認すると、なんらかの推進剤を使って発射される兵器のことを、ミサイルあるいはロケットと呼びます。このふたつの名称を何気なく使っていますが、違いはどんなところにあるのでしょうか。軍事用語として使う場合はアメリカなどの北大西洋条約機構(NATO)構成国や日本が属す、いわゆる「西側陣営」では、明確に分類が分かれています。


高機動ロケット砲システムHIMARS(画像:アメリカ陸軍)。

 なお、ここでは、車両や航空機に搭載しているロケットとミサイルのみに限定し、宇宙へ行くロケットは除外します。このロケットは原理としては大陸間弾道弾ミサイルと同じで、推進剤を使い打ち上げて大気圏を超えて宇宙に出るのか、すぐに放物線を描いて大気圏へ再突入し、目標に着弾するかの差しかないためです。

 アメリカなど西側の国では、噴射して飛んでいく飛翔体の中で、誘導装置を装着していないものをロケットとしています。第2次世界大戦から本格的に使われるようになった兵器で、元々ロケット弾は地上や艦船、航空機から大量に発射し、地上物を破壊、あるいは面制圧するというものでした。

 使い方としては野戦砲の砲弾とほぼ変わりませんが、砲弾を発射するのには頑丈な砲身が必要なのに対し、ロケット弾は簡素なパイプやレールのようなものからでも発射できるという利点がありました。

 第2次世界大戦中にはバズーカ砲やパンツァーファウストなど、対戦車用の歩兵携行火器としてもロケット弾が使われるようになり、これらの兵器は戦後も発展していき、紛争地帯などでもお馴染みの携行火器であるソビエト連邦製のRPG-7に進化していきます。

実はロシアでは全部“ロケット”扱い

 ミサイルは、ロケットのように推進剤で噴射して飛んでいく兵器のうちで誘導装置があるものを指します。誘導方法が熱源探知でも、電波でも、レーザーによるものでも全てミサイルです。


自走多連装ロケット砲BM-21(画像:ロシア国防省)。

 元々英語でミサイルは投石など、広い意味での「投射物」を指す言葉だったそうですが、1947年にアメリカ空軍が発足した際に、それまで誘導式ロケットや誘導飛行型爆弾と呼ばれていた武装などを分けやすくするために「ミサイル」と命名したそうです。

 当時は東西冷戦の真っ只中。西側陣営のボス的ポジションのアメリカがそう命名したということで、他の西側の国もそろって誘導式の飛翔する兵器をミサイルと呼ぶようになったわけです。

 先ほどから西側陣営では、ということを強調していますが、それはソビエト連邦を中心とした東側陣営が、その分類方法を使わなかったからです。ソ連は第2次大戦後、誘導兵器が出始めても、分けることはせずに、ロシア語でロケットに相当する「ラケータ」という言葉を使い続けます。それはソ連崩壊後のロシアも同じで、現在でも例えば巡行ミサイルのことを“翼つきラケータ”や“有翼ラケータ”と「羽根つき餃子」みたいなノリで呼称しています

 そして2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻では、アメリカ製のHIMARS(ハイマース)多連装ロケットにGPS誘導型ロケット弾が搭載されたり、ロケットどころか砲弾すらも、GPS誘導型のM982「エクスカリバー」という特殊な砲弾が登場し、アメリカ供与を受けたウクライナ軍が使用したりするなど、再びロケットとミサイルの定義が曖昧になっています。