京阪グループが中之島線の延伸について検討を始めました。万博後に夢洲で計画されているIRの需要を取り込む狙いですが、これまで延伸計画は幾度となく浮上してきました。利用が低迷する中之島線の起爆剤にできるのでしょうか。

「京都と大阪湾岸むすぶ」京阪中之島線の延伸検討へ

 京阪ホールディングス(HD)は、懸案だった京阪電気鉄道中之島線の延伸構想について、2023年7月に検討委員会を立ち上げました。計画区間は中之島〜九条間2kmで、九条駅では大阪メトロ中央線と連絡し、京都に通じる京阪沿線と大阪湾岸を結ぶアクセスルートになることが期待されています。


中之島駅。現在は日中、普通列車が1時間に4本設定されている程度(乗りものニュース編集部撮影)。

 地下鉄中央線は、2025年の大阪・関西万博にあわせて、会場のある夢洲(ゆめしま)まで延伸することになっています。

 夢洲は、大阪湾に浮かぶ総面積390ヘクタールの埋立島で、東京臨海副都心に匹敵する広さです。万博終了後、統合型リゾート施設(IR)の整備が進められることが今年4月、国から認定されました。カジノやホテル、商業施設、見本市会場、国際会議場、リゾート施設などが予定され、年間2000万人の集客を見込んでいます。

 数字だけで見れば、コロナ前のユニバーサルスタジオジャパンの入場者数が年1400万人でしたからそれを上回ります。2029年オープン予定とされる夢洲IRが実現すれば、大阪湾岸は大きく変貌するに違いなく、京阪は夢洲への輸送需要に期待しているのです。

 京阪本線の天満橋駅から分岐して中之島駅に至る3.0kmの中之島線は、2008年の開業から15年経ちます。大阪都心の真ん中を貫く地下線ながら、利用の低迷にあえいでいます。

 京阪は1日あたり7.2万人の利用者数があると見込んでいましたが、2008年度で2.4万人、2018年度で2.8万人、コロナ下の2020年度は2万人を割り込みました(「大阪市統計書」記載の乗車客数の2倍)。中之島線の建設主体である第三セクター鉄道、中之島高速鉄道には線路使用料として年間20.6億円(2020年度)を払っており、経営の重荷になっています。

 その京阪中之島線を活性化させるための施策が、この九条延伸線なのです。当初は此花区桜島地区が目的地とされ、その後、夢洲までの延伸が構想されるなど、二転三転してきました。

もともとは「新桜島」への延伸だった

 中之島線の延伸計画が最初に発表されたのは、開業前の2004年、近畿地方交通審議会の答申でした。ここで「中之島新線延伸」として、中之島〜西九条〜千鳥橋〜新桜島間6.7kmの新線構想が示されます。大阪環状線西九条駅を通り、北港通の地下をいくルートです。

 新桜島は、此花区のJR桜島線桜島駅の北1kmにある臨海部で、ユニバーサルスタジオにも隣接している場所です。大阪市は北港テクノポート線コスモスクエア〜夢洲〜舞洲〜新桜島の計画を持っており、中之島新線と新桜島駅で連絡する手はずでした。

 しかし、大阪市は財政難もあって臨海部での大規模開発を次々と中止し、北港テクノポート線も凍結してしまいます。

コロナ前に「地下鉄をまず夢洲へ」が決まってしまった

 事態が変わったのは2014年になってからです。大阪府と大阪市が夢洲でのカジノなどのIRの整備構想を打ち出しました。翌年には夢洲での万博開催構想も浮上します。

 大阪市は、夢洲へのアクセス鉄道整備について比較検討に入りました。地下鉄中央線延伸、JR桜島線延伸、そして京阪中之島線延伸の3案です。中之島線の延伸線については、中之島〜新桜島〜舞洲〜夢洲間約11kmが示されました。新桜島〜夢洲間は北港テクノポート線計画を引き継ぐイメージとなります。

 夢洲と大阪都心・京都が直結される点が評価されましたが、事業費に3500億円かかる上、用地取得が必要になるため万博とIRの開業に間に合うか懸念されました。最終的に、府と市は地下鉄中央線の夢洲延伸を先行させることにしました。

これに対し京阪は、独自に中之島線延伸構想を検討し、2017年7月、メディア向けに中之島〜九条間2kmの整備構想を示します。九条駅で地下鉄中央線と接続し、地下鉄経由で夢洲の万博・IR会場へとつなげようというものでした。

 ほかにも九条駅からJR西九条駅までさらに1km延長すると報道されたこともあります。JR桜島線と大阪環状線との接続を意図したものです。中之島新線と地下鉄中央線とで相互直通運転も検討するとの発言もありました。

 京阪HDは、2018年5月の長期戦略構想で湾岸地域への延伸への意欲を示します。2019年3月期決算で最高益を記録し、課題であった鉄道事業もようやく回復し始めました。2025年の大阪・関西万博には間に合わないので、夢洲〜中之島間でバスを走らせることになりました。

 ただ、国による夢洲IRの認定が先送りされたうえに、コロナ禍もあり新線構想の議論は止まります。


夢洲への鉄道アクセスは大阪メトロ中央線の延伸でまかなう(画像:内閣官房)。

 そして2023年、京阪HDは、IR認定を受け再び九条駅検討を始めました。開業はIRオープン直後の2030年ころを想定し、2023年度末までに延伸の可否を決めたいとしています。

 実現すると、観光列車の運行も検討されているようです。京都と中之島線を直通する3000系快速急行が再び復活するのでしょうか。大阪メトロ九条駅との乗り換えがどれだけ便利になるのかがカギになると思います。九条駅では阪神なんば線とも連絡しますし、尼崎・西宮・神戸方面への新しいルートにもなります。両社の提携も期待したいですところです。

「京阪のひとり相撲」にならないかがカギ?

 課題は、建設費です。2kmの新線整備にかかる事業費は1000億円。新桜島延伸より安く済みますが、キロあたりで考えると他の地下新線より割高です。

 そこで気になるのが、IRの推進役でもある大阪市と大阪府の意向です。市と府は、京阪とともに中之島高速鉄道の主要株主です。九条駅への延伸線建設が決定したなら、同社を使って上下分離の枠組みで整備するのでしょう。

 中之島線延伸構想について、これまで京阪HDは熱心にメディア向けのアピールを繰り返してきました。ただ、大阪市議会で中之島線延伸が話題になったことはほとんどありません。

 市と府は2014年から北大阪急行延伸線など鉄道新線の検討を始めて、3路線の整備に着手しましたが、中之島新線は対象から外れました。大阪の有権者としても地方議員としても、「夢洲と京都を結ぶ役割があります」と言われても、正直、関心を持ちにくいのでしょう。ゆえに、京阪HD以外ではあまり盛り上がらないのです。

 京阪HD会長は産経新聞のインタビューで、新線は上下分離方式、かつ補助金も必要で、「府・市とは(延伸で)行く話を、具体的に進めている」と発言しています。事前の調整は済んでいるのでしょうか。

 長年、利用が伸び悩んだ「未完の大器」京阪中之島線。九条駅延伸で新たな需要を創出できるのか。IRへの輸送需要が本当に期待できる量があるのか。精査が必要でしょう。