転職活動時によく聞かれる「マネジメント経験」とは?

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 20代の若者を中心に、出世したくない人が増えているといわれていますが、転職活動時には、部下や後輩の指導、管理経験である「マネジメント経験」の有無を聞かれることがあります。

 マネジメント経験があると転職活動の選考で有利になるといわれていますが、具体的にはどのような能力を指すのでしょうか。「部長」「課長」といった役職に一切就いていない人が後輩の指導を担当した場合、マネジメント経験としてアピールできるのでしょうか。

 今回は、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた人事コンサルティング会社「人材研究所」の代表・曽和利光さんが、転職市場で求められるマネジメント経験について、解説します。

転職活動で「マネジメント経験」は希少価値

 20代の若者を中心に、出世したくない人が増えているといわれています。少し古いデータになりますが、2017年に三菱UFJリサーチ&コンサルティングが新入社員に実施したアンケート調査によると、「出世したい」「出世しなくても好きな仕事を楽しくしたい」の二者択一の質問で、前者は46.6%、後者は53.4%でした。

 この傾向は2014年以降からずっと続いているもので、やはり今の若者は、出世というものに徐々に興味がなくなってきているようです。

 ただ、一般的な企業の場合、管理職に就いている社員は、全体の約2割といわれています。残り8割の社員は管理職になれないわけなので、それほど心配ないかもしれません。

管理職の割合はなぜ2割?

 管理職が約2割というのは、ある程度意味があります。人が人をマネジメントする際、面倒を見ることができる人数の限界を「認知限界」といいますが、さまざまな研究や実践によって6人程度といわれています。

 機械的に計算すると、6人の組織なら1人の管理職(つまりトップ)、36人の組織なら6人の中間管理職と1人のトップ、216人の組織なら36人の初級管理職、6人の上級管理職、1人のトップという感じで必要な管理職の人数は増えていきますが、割合を考えると、どんな人数であっても約2割になります。管理職になっている人の数とちょうど合います。

 ただ、それはあくまでも単純計算であって、管理職にもそれぞれ能力差がありますし、難易度の高い仕事などでは、認知限界が6人よりも少ない場合もあることでしょう。そのため、世の中では管理職の適任者は不足しているようです。

 実際、私はさまざまな会社で人事コンサルティングをしていますが、組織課題を聞いていると、「うちにはマネジメント経験のある人材が少なくて困っている」とよく言われます。そのため、マネジメントの未経験者を何とか管理職にするためにトレーニングを熱心に実施している会社は、少なくありません。

 転職活動時に「マネジメント経験」の有無を聞かれることがよくあるのは、マネジメント経験を持っている人材は、希少価値が高いからなのです。ある程度、マネジメントを経験しておくことは、転職活動においてはアドバンテージになることでしょう。

マネジメント経験になることは?

 では、マネジメント経験とは、どのようなことを指すのでしょうか。「部長」「課長」といった役職に一切就いていない人が後輩の指導を担当した場合も、マネジメント経験に含まれるのでしょうか。

 一般的には、役職よりもマネジメント経験と言えるような仕事を実際にしてきたのかどうかが問われるため、自分がそれに該当するような仕事をしてきたのかを考えてみましょう。マネジメントとは2つに大別されます。それは「タスクマネジメント」(仕事に関するマネジメント)と「ピープルマネジメント」(人に関するマネジメント)です。

「タスクマネジメント」とは?

「タスクマネジメント」とは、仕事を小さなタスクに分解して、誰にどのタスクを割り当てるかを決めて、進捗(しんちょく)を管理し、納期までに与えられた予算で求められるクオリティーの成果を出す作業です。これは、「プロジェクトマネジメント」とも呼ばれます。

 このマネジメント経験を問われている場合、管理職という役職を担っていなくても、部分的な仕事ではなく、何かキリのよいひと固まりの仕事を任されて、それを複数人のチームで成し遂げた経験があるのであれば、「マネジメント経験あり」と言ってもよいでしょう。

 実際、ITや建設など、複雑なタスクを大勢で作り上げる仕事の多い業界では、タスクマネジメントの難易度が高く、その経験は高く評価されます。

「ピープルマネジメント」とは?

「ピープルマネジメント」とは、仕事を通じて人のモチベーションを高めたり、能力開発をしたりして、人を育てることを意味します。人を評価したり、それをフィードバックしたりすることも含まれます。いわゆる人事的な側面のマネジメントと言ってもよいかもしれません。

 多くの場合は、管理職と呼ばれる役職に就いた際に任される役割ですが、会社によっては、正式な役職に就いていない社員に対して、「○○さん(後輩など)の世話を見てあげてね」といったミッションを任せることがあります。この場合、転職活動時に「マネジメント経験あり」と言ってもよいかもしれません。

 ただ、一般的には、「役職に就いていない=マネジメント経験ゼロ」というイメージがあるため、転職活動時にピープルマネジメントをアピールする際は、誤解を生まないように丁寧に説明しなければなりません。

会社によって求められる能力は異なる

 転職活動時は、募集企業がどちらのマネジメントを求めているのかによって、必要な経験が違ってきます。日本企業の場合、どちらかといえばピープルマネジメントを含むマネジメント経験があるかが問われることが多いようです。

 しかし、自律的なプロフェッショナルばかりが集まっているような外資系企業などでは、「成長は個人の役目」であり、厳しい「タスクマネジメント」ができれば十分というようなところもあります。自分がやりたい仕事のほか、自分が入りたい業界や会社が、どちらのマネジメントを重視しているのかを考えた上で、転職の面接でのアピールや、自分の能力開発に役立ててみてください。