街中でよく見かける救急車。その値段はいくらぐらいなのでしょうか。実は一見すると普通の救急車と見紛うような特殊な救急車の方が、「スーパーアンビュランス」よりも高いことがわかりました。

よく見かける一般的な救急車の値段は?

 消防署や消防団など日本の消防組織が運用する救急車は、かかるコストが全て税金で賄われているため、呼んで乗車したとしても使用料などがかかることはありません。しかし、消防署などに配備するには購入費がかかります。いったい救急車は調達するのにいくらぐらいかかっているのでしょうか。東京消防庁に聞きました。


東京消防庁に配備されている救急車(乗りものニュース編集部撮影)。

 救急車のうち最もよく見かけるのがトヨタ「ハイエース」や日産「キャラバン」といったワンボックス仕様のロングバンをベースにしたものです。なかでも9割以上を占めるのが「高規格準拠救急車」、いわゆる高規格救急車と呼ばれるモデルです。

 トヨタでは「ハイメディック」、日産では「パラメディック」と命名されているこれら救急車の調達価格は1台約1400万円とのことでした。

 救急車の場合は、患者室内に搭載する各種医療機器によって値段が上下するものの、おおむねこの金額が一般的な救急車の基準のようです。そこで最も高価な救急車も聞いてみることにしました。

 基本的には車体が大きく、搭載する医療機器の数も多くなればなるほど値段も上がるだろうと考えれば、日本の救急車史上最大の大きさを誇る「スーパーアンビュランス」が最も高いはず……。これはいくらなのでしょうか。

スーパーアンビュランス実はそんなに高くない?

 そもそも「スーパーアンビュランス」は通称であり、正式名称は「特殊救急車II型」といいます。

 ボディサイズは全長11m、全幅2.5m、全高3.78mと中・大型トラック並みの大きさを誇ります。ちなみに前出の高規格救急車のボディサイズが全長5.69m、全幅1.89m、全高2.54mのため、段違いのボリューム感であることがわかるでしょう。

 車両総重量は約1万8950kg、乗車定員は10名。そのため、運転にはとうぜんながら大型自動車免許が必須です。


東京消防庁が1台保有するスーパーアンビュランス(乗りものニュース編集部撮影)。

 ただ、このボディサイズには理由があります。それは現場で救護所として使用できるようになっている点です。ボディの左右両側面が拡張する機構があり、ここを広げることで最大40平方メートルのフラットな床面を持つ室内空間が生まれます。

 これにより車内には8床の処置台が設置できるほか、傷病者搬送のために、メーンストレッチャーを2基積載できるようになっているそうです。

 2023年7月現在、東京消防庁は1台保有しており、大田区京浜島に拠点を置く第2方面消防救助機動部隊に配置されています。なお、類似の車両として京都市消防局には「高度救急救護車」が、日本赤十字社熊本県支部には特殊医療救護車「ディザスターレスキュー」などが存在します。

 救急車としては破格の大きさであるスーパーアンビュランス、その価格は約7900万円とのこと。前出の高規格救急車約5.6台分のため、十分高価といえますが、東京消防庁にはこれを上回る値段の救急車があるといいます。

特注だから高い、特殊な救急車たち

 スーパーアンビュランスよりも高価格な救急車、それは「EV救急車」と「陰圧式救急車」です。

 EV救急車は2020年3月に導入された車両で、その名の通り、EV(電気自動車)仕様の救急車です。

 ベース車両は日産のパネルバン「NV400」で、特注の電気自動車仕様を救急車として架装しています。メリットは2つあり、エンジン車と比べて低振動・低騒音のため、搬送する傷病者の負担軽減が可能なこと、そして排気ガスが出ないことです。

 2023年7月現在、EV救急車は池袋消防署に配備されています。ただ、導入事例はこの1台のみ。前述したように特注車で、かつ電動ストレッチャーなどを備えているため、その調達価格は約8100万円です。今後、普及し台数が増えれば、徐々に価格が下がるかもしれません。

 そして、このEV救急車よりも調達価格の高い救急車というのが、「陰圧式救急車」になります。


東京消防庁の池袋消防署に配備されているEV救急車(乗りものニュース編集部撮影)。

 陰圧式救急車は、感染力の高い結核や新型コロナ、SARS(重症急性呼吸器症候群)、水痘、麻疹などに罹患した傷病者の搬送を想定して導入された特殊救急車です。

 ベースにはいすゞの小型・中型トラック「エルフ」の4輪駆動仕様が用いられています。運転室と患者室のあいだは隔壁で隔てられており、患者室を密閉し、車外と気圧差を生じさせることで、空気感染を防ぐことができます。また患者室への空気の出し入れはフィルターを通して行う構造となっています。

 なお、メーカーである株式会社赤尾の説明によると、製作にあたっては気密性を高めるため、手作業でひとつひとつ小さな隙間を埋めながら造っていくそうです。

 ほかにも、体重の重たい力士や高身長の外国人でも搬送できるようになっており、それに合わせてストレッチャーも重体重対応型のものが備えられています。

 こうした特殊な構造ゆえに、陰圧式救急車の調達価格は約8600万円と「スーパーアンビュランス」よりも700万円ほど高くなっています。

 全国の消防本部には、合計すると非常用を含め約6500台もの救急車があります。これらのうち前出したような特殊救急車はごく少数ですが、もしかしたら今後の情勢次第では増備されるかも。そのような形で製造台数が増えたら、EV救急車や陰圧式救急車もコストダウンが図られるかもしれません。