クルマの場合はガソリン、ディーゼル、EVと車両の駆動方法を選ぶ選択肢は多いですが、戦車や装甲車など軍隊が使う車両は、ほぼディーゼル燃料一択です。それはなぜなのでしょうか。

軍用車はほとんどディーゼルです!!!

 一般的な自動車には、ガソリンを燃料に使うガソリン車、軽油を使うディーゼル車、電気で動くEVなどがありますが、軍用車は違います。戦車や装甲車など、そのほとんどはディーゼル燃料を使います。それはなぜなのでしょうか。


大戦中ディーゼルエンジンを搭載した有名な戦車T-34(画像:ロシア国防省)。

 単純に燃料の調達費がガソリンよりも安いという理由もありますが、それ以上に大きな理由として“引火のしにくさ”があります。ガソリンは可燃性の蒸気が発生する引火点がマイナス40度と低く、地球上のどこでも、火元があればすぐに燃えます。しかも、気化したガソリンが多い場合は爆発を伴う激しい炎上を起こします。

 一方、軽油の引火点は60〜100度とされており、仮に敵の攻撃を受け車両が撃破された場合でも、運がよければ漏れた燃料は燃えません。爆発を起こす可能性も低いため、車両に乗っていて生き残った人員が逃げることができる可能性が高まります。

 第2次世界大戦中までは戦車に関しては、ガソリンエンジンを使っていた国が主流でした。単純に高出力を出し易いという理由のほかに、当時は航空機も燃料にガソリンを使用していたため、馬力の高いそれらのエンジンを戦車用に流用できるという利点があったからです。しかし、ガソリンエンジンを使っている場合、どんなに防御しても燃えやすいのは仕方なく、条件によっては火炎ビンなどの攻撃でも燃料タンクに引火し撃破されてしまう可能性もあるということで、戦後はディーゼルエンジンが主流になっていきます。

旧日本軍の戦車もディーゼルだった!?

 そうしたなか他国に先駆け、第2次世界大戦中に高出力のディーゼルエンジンを実現した戦車が、ソビエト連邦のT-34中戦車です。燃えにくい燃料に加え、傾斜装甲により防弾能力も高く、幅の広い履帯(キャタピラ)を用いた走行能力にも優れていたため、当時の相手国ドイツに大きな衝撃を与えました。

 実は、九五式軽戦車や九七式中戦車など、旧日本陸軍の戦車も他の国に先駆けてディーゼルエンジンを使用しており、その技術は戦後の国産ディーゼル車にも活かされたといわれています。

 戦後の軍用車では、ディーゼル燃料の燃えにくい特性を活かし、ソ連のBMP-1歩兵戦闘車のように、あえて燃料タンクを外にさらして、液体の入った防弾板代わりに使う車両なども出てきます。これは車両そのものの軽量化にもつながっています。

 また、戦後しばらくすると、アメリカとソ連がガスタービンエンジンを戦車の新たな動力とする動きも出てきます。ガスタービンの場合は、ディーゼルと同じく燃えにくいジェット燃料を使っているため、航空機との共用もできるという利点はありますが、かなり燃費が悪く、戦車の燃料をガスタービンエンジンに1本化しているのは2023年現在、アメリカ陸軍のみになっています。


「防衛技術博物館を創る会」が動態保存する九五式軽戦車。同戦車も大戦中ディーゼルエンジンを搭載した戦車(斎藤雅道撮影)。

 ちなみに、アメリカ陸軍では偵察や基地内の移動に使っている一部軍用車をディーゼルエンジンからEVに置き換える計画も検討されています。ついに軍用車ディーゼル一強時代も終わるかもしれません。