隣の駅ならば最も安い運賃で行ける――とは限らないのがJR線です。ある“特例”により、隣の駅よりも乗り換えに乗り換えを重ねた駅までの方が運賃が安い、ということがあります。

尾久駅「150円のきっぷ」の謎

 JR線では、列車に乗って次の駅が、その駅から最も安い運賃とは限りません。乗り換えて数駅先の方が安い、ということがあるのです。


尾久駅。隣駅は「上野」と「赤羽」だが…(乗りものニュース編集部撮影)。

 そのひとつの例が、宇都宮線・高崎線の列車(上野東京ライン)が停車する尾久駅(東京都北区)の運賃です。駅名標に書いてある隣駅は「上野」と「赤羽」で、いずれもきっぷの運賃(以下同)は170円。ですが、同駅ではなぜか、150円のきっぷを販売しているのです。

 尾久から150円で行けるのは、実は日暮里駅です。いったん上野へ行き、山手線か京浜東北線に乗り換えて2駅の日暮里駅が、最安運賃で行ける場所なのです。ちなみに、この経路で日暮里のひと駅手前、鶯谷駅までなら170円になります。

 きっぷに限らず、ICカード利用時も同様。各種の乗換案内アプリでも、尾久〜上野より、尾久〜日暮里の方が安いという結果になります。一体どういうことなのでしょうか。

 これは、尾久駅が東北本線の支線上に位置するための“特例”です。この支線の起点は日暮里駅に設定されているのですが、同駅に宇都宮線・高崎線のホームはなく(かつては存在した)、尾久から日暮里へ行くには必ず乗り換えが必要になります。そこで、尾久〜日暮里の移動に際して「日暮里〜上野の運賃は計上しない」というルールがあるのです。

 これは「特定の分岐区間に対する区間外乗車の特例」といい、JR線のいくつかの区間で設定されています。なかでも、このルールが驚くほど複雑かつ広範囲に設定されているのが、横須賀線とJR・相鉄直通線の扱いでしょう。

「真の隣駅」までは38.6km!?

 JR・相鉄直通線で相鉄との境目になるのが羽沢横浜国大駅です。同駅のJRの運賃表は、明らかに不思議なことが、開業当時はよく話題になりました。

 隣駅の武蔵小杉までは320円なのに、同駅から2路線も3路線も離れた京浜東北線の「鶴見駅」が180円、鶴見線の各駅も180円〜230円、京浜東北線の新子安や東神奈川も230円、といった具合です。

 これも、武蔵小杉駅や羽沢横浜国大駅が東海道本線の支線上に位置するための特例です。横須賀線が品川〜横浜間で経由する通称「品鶴線」や、JR・相鉄直通線の設定上の起終点は、鶴見に設定されています。つまり運賃計算上、羽沢横浜国大の隣駅は鶴見なのです。しかし、どちらの運転系統の列車も鶴見駅は通過するだけとなっています。


羽沢横浜国大駅。2023年3月に相鉄新横浜線が開業したことで分岐駅となり、「武蔵小杉(JR線方面)」の上に「新横浜」の記載が加わった(乗りものニュース編集部撮影)。

 このため、「羽沢横浜国大〜武蔵小杉」の1駅16.6kmが320円なのに対し、「羽沢横浜国大〜武蔵小杉〜(横須賀線)〜横浜〜(京浜東北線)〜鶴見」の38.6kmという大移動で、横須賀線と京浜東北線の乗車区間を運賃計上しないという特例が働き、180円で行けてしまうのです。鶴見線の各駅や新子安、東神奈川の運賃も、鶴見からの続きになっています。

 こうした特例は紹介した区間以外にも存在し、横須賀線やJR・相鉄直通線にかかる扱いについても、様々なパターンが想定されています。