アイスにも「ヒートショック」? 味&品質が徐々に劣化 存在しない「賞味期限」など、江崎グリコとロッテに疑問を直撃
気温が高い日が続き、アイスを食べたくなることがあります。中には、アイスの買いだめをする人もいるとは思いますが、そんなときに気になるのが賞味期限や消費期限です。そもそも、アイスに賞味期限や消費期限はあるのでしょうか。アイスを保存するときは、どのようなことに注意すべきなのでしょうか。
アイスの適切な保存方法などについて、江崎グリコ(大阪市西淀川区)とロッテ(東京都新宿区)の担当者に聞きました。
冷凍庫の頻繁な開け閉めはNG
まず、ロングセラーアイス「ジャイアントコーン」の商品開発を担当する、江崎グリコ乳業事業部商品開発部の佐土原英司さんに聞きました。
Q.市販のアイスに賞味期限や消費期限はあるのでしょうか。購入後、1年以上経過したアイスを食べても問題ないのでしょうか。
佐土原さん「消費者庁の食品表示基準の規定により、『アイスクリーム類にあっては、期限およびその保存方法を省略することができる』と定められているため、市販のアイスのほとんどは、賞味期限や消費期限がありません。
法令により日付表示が義務付けられていないため、業界団体が定め、消費者庁および公正取引委員会が認定した『アイスクリーム類および氷菓の表示に関する公正競争規約』では、賞味期限を省略する場合は、品質劣化を防ぐために『要冷凍(マイナス18度以下保存)』などの注意書きを表示することが定められています。
アイスはマイナス18度以下の場所で保存をすれば、保存が長期にわたった場合でも、衛生上、人の健康を損なうような危害が発生する可能性が著しく低い食品とされています。そのため、アイスクリーム類や氷菓といったアイスの種類にかかわらず、適切に保存をしていれば、購入してから1年以上経過した製品を食べても、衛生上の問題が生じるケースは少ないです。
ただし、フローズンヨーグルトは、アイスクリーム類ではなく『発酵乳』に分類されているため、法令により品質保持期限の表示が義務付けられています」
Q.市販のアイスは購入後、何日以内に食べるのが望ましいのでしょうか。
佐土原さん「先述の通り、アイスを適切な温度で保存していれば、衛生上問題が生じるケースは少ないですが、食材の出し入れなどのために頻繁に冷凍庫を開けると、アイスが一時的に緩む『ヒートショック』が生じます。これが繰り返されると、アイスの味や品質が徐々に劣化していきます。
具体的には、アイスの滑らかさが失われ、シャリシャリとした氷の食感が目立つ『氷結晶粗大化』、コーンやもなかが、湿気によりグニャリとした食感に変わる『吸湿』などが挙げられます。そのため、商品によっては、おいしく食べられる期間として、賞味期限が表示されていることがあります。具体的な目安はありませんが、アイスの購入後は、できるだけ早めに食べた方が良いと思います」
Q.店舗で購入後、持ち帰ったアイスが溶けかけていた場合、そのまま冷凍して食べても問題ないのでしょうか。それとも、食べるのを控えるべきなのでしょうか。
佐土原さん「一度溶けてしまったアイスは、再度冷凍しても元の味には戻りません。アイスの溶けの程度にもよりますが、味が低下するほか、シャリシャリするなど食感も低下するため、品質の保証ができません。
溶けの程度がひどい場合、微生物が繁殖していることが考えられます。アイスは砂糖や乳成分などが含まれているため、マイナス18度以上の場所に置かれた時間が長いほど、衛生上の問題が発生します。この場合、おなかを壊すことがあるため、食べるのを控えた方が良いと思います」
Q.アイスを冷凍庫で保存するときの注意点について、教えてください。肉や魚といった生鮮食品の冷凍品の近くに置かない方がよいのでしょうか。
佐土原さん「先述の通り、冷凍温度帯で保存されている限り、アイスは、衛生上、品質上の影響をほとんど受けない食品とされています。そのため、肉や魚といった生鮮食品の近くに置いても、冷凍温度帯であれば、アイスで細菌が増殖するリスクはありません。味や品質についても、同様に影響を受けにくいと考えられます。
しかし、先述の通り、頻繁に冷凍庫を開閉してヒートショックが生じると、味や風味に影響が出てしまうため、冷凍庫の開閉時間や開閉の回数を減らすのをお勧めします。また、冷凍庫の奥側にアイスを保存した方が、開閉時のヒートショックの影響が少なくて済みます」
Q.品質の良い商品を提供する上で、工夫していることはありますか。
佐土原さん「当社は2020年から、生産日から10日以内のジャイアントコーンを全国の消費者にお届けする『できたて企画』を不定期で開催しているほか、2022年からはできたてのジャイアントコーンが当たるキャンペーンを実施しています。ジャイアントコーンの『できたて』の価値を体験していただくことで、ファンづくりを図っています。
最近ですと、6月24日、25日の2日間にわたり、東京駅の構内で“できたてのジャイアントコーン”が食べられるイベントを実施しました」
溶けたアイスは“腐敗”の可能性も
続いて、「雪見だいふく」「爽(そう)」などのアイスを製造・販売する、ロッテのコーポレートコミュニケーション部の担当者に聞きました。
Q.市販のアイスに賞味期限や消費期限が表示されていないのは、なぜでしょうか。
担当者「一般的に、アイスクリーム類や氷菓は、『マイナス18度以下』という非常に低い温度で保存されますが、その環境下では微生物が増殖しないため、保存中の品質劣化は極めてわずかです。
『微生物の増殖などによる人の健康を損なうような危害の発生は、考えにくい』『長期間、品質が劣化しにくい』ことから、消費者庁の食品表示基準で賞味期限や消費期限といった、期限表示の省略が認められています」
Q.市販のアイスを長期間保存する際の注意点について、教えてください。
担当者「保存状態が良ければ、長期間、保存していても品質的に問題ないと考えられます。ただし、冷凍庫にたくさんの商品を入れていたり、冷凍庫の扉の開閉頻度が高かったりした場合、冷凍庫内の温度変化が起きやすい状態になります。
こうした状態の冷凍庫で保存していると、アイスクリームの表面がいったん溶け、再凍結することで氷の結晶が大きくなるため、シャリシャリしてアイス本来の滑らかさや風味を損ねる場合があります。
商品本来のおいしさを味わっていただくためにも、購入後はなるべく早めに食べることをお勧めしております」
Q.店舗で購入後、持ち帰ったアイスが溶けかけていた場合、そのまま冷凍して食べても問題ないのでしょうか。
担当者「アイスが溶けると本来の品質が損なわれ、冷凍庫で再凍結しても元の品質には戻りません。また、溶けた状態で放置されたアイスは、品質が変化しているだけでなく、変敗や腐敗などの品質劣化を起こしている可能性があるため、食べるのを控えてください」
アイスを適切に保存するには、「冷凍庫を頻繁に開け閉めしない」「冷凍庫に食べ物を詰め込み過ぎない」がポイントだということです。日頃からアイスをよく食べる人は、冷凍庫の使い方を見直してみてはいかがでしょうか。