大切なペットの元気がないな…と感じたら、「気象病」が原因かもしれません(写真:らい/PIXTA)

梅雨時期になると、気圧の変化によって体調が悪くなることがあります。これを一般的には「気象病」と呼んでいます。気象病は、気圧の変動や湿度の上昇などの気象条件が人体に与える影響によって引き起こされる症状の総称です。

人の気象病の主な症状は、頭痛、めまい、倦怠感、眠気、食欲不振、イライラなど。これらの症状は、気圧の変化によって血管や神経に影響が及ぶことにより発生します。体内の血液や組織の圧力も変化し、それに適応するための体調調整が必要ですが、体がうまく動かないと、このような症状が生じます。

低気圧の時になんとなく「元気がない」

人で、このような気象病があるのですが、はたして、犬や猫にもこのような気象病があるのでしょうか。

猫を飼っているある女性は先日、台風が接近していた際に、いつもは元気な猫が、食欲がなく、ソファの下にずっと隠れていたのが気になったと言います。過去にも激しい雨の日など気圧の低い日に「ぐったり」していたことを思い出し、猫の気象病を疑ったそうです。

もっとも、獣医療では、「気象病」という言葉はそれほど、浸透していません。しかし、臨床をしていると、気候の変化によって、体調が悪くなる犬や猫は多くいます。飼い主は「気圧が下がっているので、この子の調子が悪いのではないか」と言われます。

臨床現場では、気圧の変動や天候の変化によって影響を受ける犬や猫がいることに遭遇します。以下では、気圧の変動によって引き起こされる症状に焦点を当てて3つ解説します。

【気圧の変動による発作】
気圧が急激に下がると、てんかん発作などを持っている子は、薬を内服していてもすぐれず、ウロウロする場合があります。落ち着かず、寝たかな、と思って見ていると、すぐに場所を移動したりします。犬や猫の頭痛は、わかりにくいのですが、気圧の低下により、頭痛などになる可能性があります。また、落ち着きがなくなる場合は、抗不安剤などを内服します。

【胃腸の不調】
気圧の変動は、一部の犬や猫にとって胃腸の問題を引き起こすことがあります。血液検査をして、アミラーゼや炎症反応などは正常値なのですが、食べないという子もいます。血液検査の結果は悪くないのですが、気圧が下がると、腸の運動が低下し、消化不良や腹痛を引き起こす可能性があります。このため、ペットはうずくまり、食欲が低下することがあります。

【天候の変化による行動変化】
犬は、雷や雨の前に飼い主にはわからない変化を察知します。その場所は、晴れているのに、ずいぶん前からわかっている子もいます。気圧の変動や静電気の増加などの前兆により、犬は不安や恐怖心を感じることがあります。この不安感から、犬はよだれを垂らし、小刻みに震えて部屋の隅に隠れる行動をとることがあります。犬によっては、部屋を走り回ったり、家具をかじったりすることがあります。

少し前になりますが、2005年に「Applied Animal Behaviour Science」誌に掲載された論文によると、激しい雷が起こると犬の血中コルチゾール濃度は40分にわたって270%も上昇するといいます。コルチゾールは「ストレスホルモン」と呼ばれることもあり、ストレスを感じたときに分泌量が増えます。

また、「Psychology Today」誌によると、雷が起きているときの犬の行動は「接地を求めるため、すなわち、電気ショックを避けるための行動」の可能性があると指摘しています。

気象病の症状は個体によって差がある

これらの気象病の症状は、個体によって異なる場合があります。また、犬や猫にとっては不快な状態であり、十分なケアが必要です。

犬や猫の気象病の症状を軽減するためには、以下の対策を考慮することが重要です。

【室内環境の調整】
室内の温度と湿度を一定に保ち、快適な環境を提供します。また、適切な換気や空気清浄機を使うことでも改善できます。

【ケアの仕方】
犬や猫には安心感を与えることが重要です。気象病に対処するために、以下の方法が役立ちます。

ひょっとして気象病かも?と感じたら

・安全な場所の提供
犬や猫が気圧の変動や天候の変化によって不安を感じる場合は、落ちつける場所を提供しましょう。狭いスペースやベッドの下など、自分が守られていると感じる場所を見つけてあげることが大切です。

・リラクゼーション
犬や猫にはリラックスしてもらうことも大切です。例えば、マッサージや静かな音楽、リラックスできる環境を提供しましょう。

・飼い主のサポート
犬や猫は飼い主の存在に安心感を得ることがあります。気象病の症状が現れる際には、飼い主がそばにいて落ち着かせることが重要です。穏やかな声で話しかけたり、撫でたりすることで、犬や猫の不安を和らげることができます。

そうは言っても仕事で、家にずっといない場合は、前もって、獣医師に気圧の変化で具合が悪くなることを相談して、薬を処方してもらうのもいいです。

気象病は、特に敏感な犬や猫に影響を与えることがありますが、適切なケアと獣医師のサポートによって症状を軽減できます。犬や猫が、気圧の変化が激しいときに食欲が落ちる、動きが鈍いなどがあれば、ひょっとして、それは、ペットの気象病かもしれません。そのような適切な対処の仕方を知っていることも大切です。

(石井 万寿美 : まねき猫ホスピタル院長、獣医師、作家)