旧西武百貨店が1940年(昭和15年)に開業した西武池袋本店。地元の豊島区などは池袋の「顔」として百貨店業態の存続にこだわる(撮影:梅谷秀司)

「西武池袋本店の改装プランは、そごう・西武が自分たちで作ったことにしろ」

発言の主は、セブン&アイ・ホールディングスの井阪輶一社長。事情に詳しい関係者によれば、今年6月初め、そごう・西武の林拓二社長を呼び出し、そう言い放ったという。

セブン&アイ傘下の百貨店、そごう・西武。その売却劇が新たな局面を迎えている。

セブン&アイがそごう・西武の売却を決断したのは2022年2月。2度の入札を経て同年11月、アメリカの投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに、そごう・西武の全株式を2000億円超で売却する契約を結んだ。

だが、西武池袋本店(池袋西武)をめぐって、フォートレスと組んでいる家電量販大手・ヨドバシホールディングスとの条件交渉が難航。今年に入り売却実行の時期は2度も延期され、ついには「無期限延期」になったまま今に至る。

既存テナントの「強制移転」が火種

しかし、5月25日にセブン&アイが定時株主総会を終えると、事態は静かに動き始める。「ヨドバシSCプラン」と呼ばれる改装案を作成し、関係者への根回しに走っているというのだ。

このほど東洋経済は、ヨドバシカメラ入居に伴う「池袋西武の改装プラン」を独自に入手した。この概略が次ページの図となる。池袋西武の本館(北・中央・南)を抽出している。

まず目につくのが、地下1階から地上6階までの大部分を占めるヨドバシカメラの店舗面積だ。店舗内での「一等地」といえる池袋駅直結の北側、中央のほとんどを陣取る計画だ。

ヨドバシは多額の資金を拠出して池袋西武の不動産を取得する方針で、低層階への出店をかねて主張していた。しかし、この「低層階出店」が混乱の火種となっている。玉突きで既存テナントの「強制移転」を伴うからだ。

最大の懸念点は、ラグジュアリーブランドのルイ・ヴィトンの移転だろう。現在店舗を構える北側1〜2階は、2022年10月に6年ぶりの大規模改装を終えたばかり。にもかかわらず、計画では中央〜南側に移転させることになっている。

「池袋西武とルイ・ヴィトンは10年以上かけて信頼関係を築き、その結果今回の改装やメゾネット(2階)増設が実現した。すべてをないがしろにする計画だ」と、そごう・西武関係者は憤慨する。

ほかの業界関係者も、「大規模改装直後の移転で(ルイ・ヴィトンの親会社である)LVMHの反発は不可避。訴訟を起こされてもおかしくはない」と口をそろえる。


ヴィトン以外のラグジュアリーブランドも移転となる。現在は本館の中央に位置するシャネルなどが駅から遠い南側へ、グッチに至ってはさらに離れた別館に移す計画になっている。

「ラグジュアリーブランドの配置は机上の空論。ただの『面積合わせ』にすぎず、ブランドからの了承は到底得られないのでは」。前出と別のそごう・西武関係者はそうみる。

改装案の右下、地下2階の端にまとめられた総菜売り場への影響も懸念点だ。

「おかず市場」と名付けられた池袋西武の地下1階総菜売り場は、スイーツと並ぶデパ地下の「ドル箱」。総菜や弁当は自宅への帰りがけなどに購入されるケースが多い。総菜売り場が改札階から分断されれば、顧客の利便性が落ちるのは明らかだ。

また、西武百貨店が展開する紳士・婦人服売り場もほぼ消滅している。この改装案が現実化すれば、池袋西武はもはや百貨店の体をなさない館となることは想像に難くない。

6月中旬の説明会は反発の声が予想

このように事実上の「百貨店崩壊」を招きかねない計画を、当事者であるそごう・西武が自ら作るのだろうか。ここで、冒頭の発言が飛び出したわけだ。

事情に詳しい関係者によれば、6月初旬、まずセブン&アイの常務執行役員の小林強氏らが、そごう・西武の林社長に同意を求めた。小林常務執行役員はセブン&アイで金融関連と百貨店・専門店事業を統括している。

しかし、そごう・西武は拒否。すると今度は井阪社長が林社長を呼び出し、改装計画をそごう・西武自らが作成したものにしろと迫り、受け入れないのであれば退陣まで求めたという。

5月25日にはセブン&アイの定時株主総会が行われ、井阪社長の再任など会社側の出した議案がすべて可決された。経営陣は株主の承認を得たことをチャンスと見て、総会終了後すぐにそごう・西武売却案件に着手したというわけだ。

関係者によれば、セブン&アイは6月中旬のうちにフォートレスやヨドバシホールディングス、地元の豊島区、そして地権者の西武ホールディングスなどを招集し、説明会を開催。こうした改装計画について説明するという。

だが、この会議でも参加者たちの反発は必至だろう。というのもJR池袋駅東口一帯は、2027年をメドに再開発を予定している。再開発計画の中核である池袋西武が百貨店の体をなさなければ、再開発自体が成立しなくなるからだ。

混迷を極めるそごう・西武の売却劇。セブン&アイが作った改装プランが火に油を注ぎ、さらに迷走しそうだ。

(山粼 理子 : 東洋経済 記者)