「みんな平等に」出社要請した会社のまさかの末路
働き方も多様化する時代、パフォーマンスアップさせる3つのアイデアを紹介します(写真:jessie/PIXTA)
新型コロナウイルスの5類移行に伴い、原則出社を要請されたり、週1出社を求められたり、私たちの仕事の風景は大きく変わった。そんな中、在宅ワークを選択する「引きこもり部下」に関する相談が増えている。
単なる「在宅引きこもり」ではない。
自宅の作業スペースから、思いもよらぬ成果を出し続けるのである。そんな部下たちは、マネジャーたちの悩みの種だ。
在宅で仕事習慣のないベテラン社員たちは、どのように効率よく成果を出しているのか理解できないからだ。
出社を強いられる人から見れば「不公平」
ある製造メーカーの営業で、そのような「引きこもり部下」がいた。
この会社は、コロナ5類移行前から「基本出社」という方針を打ち出していた。ところがその部下は頑なに在宅ワークを続けると言って、応じない。
以前は成績が低迷していた。しかしコロナ禍になり、在宅ワークでオンラインを使った営業活動に慣れると能力が開花。顧客との効率的なコミュニケーションスタイルを自ら生み出し、今では部内ナンバーワンの営業成績をたたき出している。
上司が手をこまねいていると、同じ部署の部下たちからは、「不公平だ」との声が上がりはじめた。出社を強いられながら働く彼らから見れば、自宅から成果を上げる「引きこもり部下」は特権階級に見えるかもしれない。
「私も在宅ワークさせてください」
と言いだす部下が複数出はじめた。こうした現象に対し、組織の統率がとれなくなってきていた。この問題にどう対処したのか? そしてどんな結末が待っていたのか?
問題が深刻化すると、組織のマネジャーたちは会議を重ねた。本社の総務に問い合わせたところ、
「基本出社ではあるものの、組織ごとに柔軟に対応すべき。強制ではない」
という曖昧な回答が返ってきたからだ。
そして深刻な問題の解決に取り組んだ。その問題とは、「在宅で働く超優秀な部下」と「出社を求める会社の方針」の間のギャップであった。
最初は、「多様な働き方を推奨する」という会社の姿勢を肯定する声が多く聞かれた。だから、「強制的に出社させるのはどうなのか?」と疑問を投げかけるマネジャーもいた。
しかし、
「そうは言っても、在宅ワークは効率が悪い」
「見ていないと、家で何をしているかわからない」
という意見が増えていくと、次第に会社の新たな方針──「出社を基本とする」への転換を支持する声が高まった。
それらの声は、部署内で見かける不公平感、また組織としての一体感を重視していた。強くなる出社派の声に対し、在宅派の意見は少数派となり、結局、翌日から本人に出社を促すようになった。しかし、この意思決定は、想像以上に悪い結末を迎えた。
3年近く在宅で引きこもっていた部下は、渋々とオフィスに足を運んだ。しかし、彼が以前のように輝くことはなくなった。効率的に営業活動ができず、成績は下降していった。
さらに悪いことに、彼のやる気もみるみるうちに下がった。自宅で働くことができず、1日中人間関係に疲れ、業績を出すための自由な発想ができなくなった。
強制的にかごの中に入れられた鳥のようだと言えばわかりやすいだろうか。以前は、外を元気に飛び回っていた鳥だったのに。
この状況を目の当たりにしたマネジャーたちは、自分たちの決断がどれほどの悪影響を及ぼしたかを痛感した。
本来なら業績を引き上げるはずの優秀な部下を、ただの1人の無気力な部下に変えてしまったのだ。
忘れてはならない3つのパターン
今は多様性の時代だ。多様な働き方を認めるべきだという風潮は定着している。この会社も基本的な姿勢として「多様な働き方を推奨する」と明言しているのだ。
忘れてはならないポイントがある。次の3つのパターンが存在するということだ。
1、在宅だと成績優秀
2、在宅だと成績不振
3、どちらでも成績不振
これらすべてのパターンを把握せず、個人個人ときちんと向き合っているか。決めつけてしまってはいないか、ということだ。
在宅だと成績優秀だが、出社だと成績不振になる人は、集中力や時間管理能力が高い。逆に、人間関係や社内の雑務など、出社時の余計な負担がパフォーマンスを下げてしまう。
在宅だと成績不振だが、出社すると成績がアップする人は、人と直接会うことでモチベーションが上がったり、オフィスの環境が集中力を引き出すタイプだ。
どちらでも成績不振の人は、在宅でも出社でも結果が出せないということは、そもそもの仕事に対する意欲やスキルが足りないのかもしれない。おそらく基礎教育をやり直したほうがいいだろう。
このように、個人個人が違う背景や特性を持っている。それを無視し、全員を同じ枠組みに押し込めるからこそ問題が起こるのだ。ではどうすればいいのか?
筆者なりに考えた新しい時代にパフォーマンスアップさせる3つのアイデアを紹介したい。
働き方の選択肢を増やす、これが第1の提案だ。
現在は「在宅か出社か」の二者択一となっている。だから現場のマネジャーも迷うのだ。マネジメントのしやすさで考えてはならない。あくまでも「相手目線」が重要だ。
「ハイブリッド勤務」は多くの企業で採用されている。
ある日は在宅で、ある日はオフィスで働く。その日のタスクや状況、自分の心理状態に応じて働き方を選ぶのもいいし、社内行事に合わせて変えてもいい。
今回の「在宅引きこもり部下」のケースでは、部内会議、ミーティング、上司との面談などは、基本出社とすればよかったのではないか。たとえオンラインでできたとしても、あえてリアルで会うようにするのだ。そうすれば1週間に1度や2度の出社で済む。
次に、考えられる働き方は「時差出勤」だ。これは、全員が同時に出社するのではなく、個々の生活スタイルや効率のいい働き時間に合わせて出社時間を調整するやり方だ。
大人数がいる中では、過度にストレスがかかる人は多い。混雑する通勤時間を避けたり、自分の最も活動的な時間に働くことができるのは、大きなメリットになるだろう。
ムダにかかるストレスが減り、その分、仕事にエネルギーを注ぐことができる。
2つ目は「成果主義の徹底」
第2の提案は「成果主義の徹底」だ。
もちろん「成果第一主義」ではいけない。しかし働き方がどうであれ、最終的な成果に焦点を当てる働き方を望む声は大きい。
現代のビジネス環境は非常に多様だ。一企業が「基本出社」としても、取引先が同じ方針を掲げているとは限らない。この流れはアフターコロナでも変わらない。
テクノロジーの進化スピードは加速度的に速まっている。2〜3年の間に、作業現場でさえリモートでできるようになる。
だから、それぞれがどのように働いているかではなく、最終的に何を達成するかに組織はもっと焦点を当てるべきだ。
なにより成果主義を導入することで、働き方の多様性と公平性を両立させることが可能になる。
つまり、自宅で働く人もオフィスで働く人も、結果を出せば評価され、そうでなければ改善を促される。
もちろん100%成果のみで評価すべきではない。成果評価だけでなく、能力評価、情意評価、この3種類をどのように重みづけするかを問うのだ。
第3の提案は「メンタルサポートの強化」だ。
多様な働き方を推奨した場合、メンタルヘルスの問題もまた多様化していく。そのため、企業はメンタルヘルスの専門家を雇う、カウンセリングの機会を増やすなど、心のケアを手厚くしなければならない。
例えば、部下が在宅で働くことを選択した場合、その部下が孤独感を感じ、ストレスを抱える可能性がある。また、オフィスで働く部下が在宅勤務の部下に対して不公平感を抱く可能性もある。
これらの問題は表面上は働き方の問題のように見えるかもしれないが、実際には深層心理に根ざしている。
今回取り上げたケースのように、大人数の人と触れていると、人一倍負荷がかかるという人もいるのだ。
日本のある大手IT企業がメンタルサポートの一環として「心の相談室」を設けている。この「心の相談室」では、従業員が自由にメンタルヘルスの専門家と話すことができ、悩みやストレスを相談することができる。
また、別の企業では、カウンセリングの機会を増やすために、全従業員に対してオンラインでのカウンセリングサービスを提供している。
以上のように、企業がメンタルサポートを強化することで、働き方の多様化による新たな問題に対応することができる。こうすることで、すべての従業員がより高いパフォーマンスを発揮できる環境を整えることができるだろう。
働き方を一律に制約するのは時代遅れ
働き方を一律に制約するのは、もう時代遅れだ。画一性ではなく多様性の時代である以上、働き方もまた多様であるべきだ。
そうでなければ、女性や高齢者の活躍促進など夢のまた夢である。組織マネジャーは、自分のマネジメントスタイルに部下の働き方を合わせようとすべきではないし、今いる部下だけに意識を向けるべきでもない。
相手目線に立ち、個人個人の多様性に向き合うクセをつけよう。これは、組織の生産性向上だけでなく、従業員の満足度や離職率の改善にもつながるだろうから。
新しい働き方を試行錯誤し、最善の解を見つけていこう。それが、これからの組織マネジメントのあり方である。
(横山 信弘 : 経営コラムニスト)