現代の就活に親のサポートは必要不可欠とはいえ、手を出してはいけない領域もあります(写真:mits/PIXTA)

6月に入ると、早ければ内定を獲得する学生も出てきます。本人だけでなく、わが子が就活生という親にとっても緊張が高まるシーズンです。

もちろん就活は子ども自身が乗り越えるもの。しかし、現代は7人に1人は「就活うつ」になる時代。いわゆる「一流ホワイト企業」から内定を得るためには、過保護でも過干渉でもなく、親のサポートが不可欠だと語るのは、人材戦略コンサルタントで就活塾ホワイトアカデミー代表の竹内健登氏です。

本稿では、実際に親は子どもの就活でどのようなサポートが求められているのか、竹内氏の新刊『子どもを一流ホワイト企業に内定させる方法 改訂新版』より一部抜粋・編集のうえ、お届けします。

一流企業対策を大学に頼むのには無理がある

多くの親御さんと接する中で、困っていることがあります。それは、「大学の就職課・キャリアセンターを妄信している親御さんが多く、その実態を説明してもわかってもらえない」ということです。

「大学が開催している親向けのセミナーに行きました。就職率はかなり高かったですし、サポート内容も万全の印象だったのですが」と、取り合ってくれないのです。一方、学生たちに大学の就職課・キャリアセンターについて尋ねると、出てくるのは、

「大学は就活の役に立たない」

「大学のキャリアセンターは使えない」

という愚痴ばかりです(笑)。大学の就職課・キャリアセンターと学生、親御さんの間に、どうしてこのような齟齬が出てしまうのでしょうか。

学生が就職課やキャリアセンターに不満を持つ理由は、大きく3つあるようです。

まず1つめは、目的の違いです。大学のキャリアセンターの目的は、就職率を上げること。乱暴な言い方をすれば、1人の学生が中小企業でもブラック企業でもどこでもいいので1つ以上の内定を取ることがまず大事だ、ということです。

もちろん、一流企業に入ってもらえれば大学としては実績となり、入学者数の増加につながるでしょう。しかし、キャンパスによっては、何千人もの学生を数名の職員で対応している状況です。

そんな激務の中で、「(すでに1社内定しているか、選ばなければ1社は内定を取れそうな学生が)よりよい企業から内定を得るためのサポート」よりも、「(内定のない学生が)とにかく内定を得るためのサポート」が優先されるのは仕方のないことだと思います。

とくに、うつや自殺未遂など、精神的に重度の悩みを抱えた学生が訪れた場合は、その方々の優先順位は必然的に上がります。実際、当スクールの学生がキャリアセンターを訪れたところ、隣のブースからすすり泣く声が聞こえてきて、自分の相談事に集中できなかったと言っていました。このように、早急な対応が必須の学生がいれば、一般の学生の優先順位は低くなりがちです。

結果、大学のキャリアセンターで行なうことは、1人ひとりへのきめ細かい一流企業の選考対策ではなく、最低限の底上げの対策がメインになります。これでは、一流企業を目指す多くの学生には「頼りにならない」と感じられるでしょう。

学生が就活について相談できる場所は「ほぼない」

2つめの理由は、サービス内容への不満です。

個別の企業対策をしてくれないとなれば、学生がキャリアセンターを利用する目的は、「OB・OG名簿」「求人票」「個別相談」がメインになるでしょう。

しかし、当スクールの学生によると、キャリアセンターのOB・OG名簿の多くはほとんど機能しておらず、求人票はだいたいが学生には聞いたことのない企業のものだといいます。時折ブラック企業が混じっていることさえあるようです。

また、相談をしても、的確なアドバイスが返ってこないことも多いと言っていました。この背景には、大学のキャリアセンターのスタッフの多くが民間企業での勤務経験がない人で占められていたり、派遣社員・嘱託社員で運営されていたりする、ということがあるようです。

3つめは、大学のキャリアセンターは無料のため、予約がパンパンでなかなか相談できないとのこと。

要するに、多くの学生は、キャリアセンターや就職課を、「そもそもサービス自体が受けにくく、受けられても目的の情報は得られない。自分の期待するサービスがない」と評価しているわけです。

私自身もキャリアセンターの実態を確かめようと、いくつかの大学のキャリアセンター職員と面会しました。大学やキャンパスによってその実情は異なるようですが、おおむねどこも、学生が満足できるサービスを提供できる環境が整っているとはいえない状況でした(このテーマに関しては、『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話』(沢田健太著)が、大学のキャリアセンター職員の立場から書かれていて参考になります)。

大学側が提示するデータは、個別の事情や納得度を考慮したものではないため、学生の感覚と親御さんの認識との間に齟齬が生じてしまうのです。

このように、大学には学生が自身の就活について相談できる場所は、「ほぼない」というのが現実です。親御さんがサポートに回ることの意義は、こんなところからも見えてくるのではないでしょうか。

就活は、親にとっての「子育ての総仕上げ」

これまでお話ししてきたように、親御さんの学生の頃とお子さんとでは、時代背景も就活の状況も違います。しかしそれを踏まえたうえでも、私は、お子さんの就活のサポートは、親御さんがするのが一番だと考えています。

それは、親御さんこそがお子さんを一番よく理解しているから。そして就活こそがお子さんの独り立ちーー子育ての〆であるからです。

多くの親御さんはきっとたくさんの愛情と時間、そしてお金をお子さんにかけてこられたことでしょう。これまでに、学費も相当かかっているはずです。そこまで手をかけてきたお子さんだからこそ、いい企業にいって、いい社会人人生を歩んでほしいというのが親心ではないでしょうか。

また、キャリアの最初をどこで過ごすかーー就活の結果次第で、生涯賃金は最大で3億円ほど変わってくるともいわれています。年収も学歴や企業のランクと同じで、高ければすなわち幸せというものではありませんが、評価されないよりはされたほうがいい、と思うのは当然です。

就活という段階にまで成長されたお子さんは、すでに自分の力で自分の道を切り開いていく力を持っています。親御さんにできることは、徐々に減っていっているかもしれません。

しかし、お子さんが就活をやりやすく感じるか、やりづらく感じるかと、親御さんのサポートを切り離して考えることはできません。お子さんは、

「親は就活のことを全然わかってくれない」

「親の考えは古くて参考にならない」

などと言うかもしれません。

しかしそれでも、お子さんはいつまでも親御さんの行動や発言や価値観に影響を受けているはずです。

どうぞ、お子さんの未来を一緒に見て、悩んでいるときには手を差し伸べる、そんなサポートをしてください。少なくとも、古い知識や常識でお子さんを縛ったり、変なプレッシャーをかけたりしないであげてください。

親子で乗り越えた就活の先には、お子さんの最高のファーストキャリアと、「いつまでも子どもだ」と思っていたお子さんのりりしい横顔にはっと驚く瞬間が待っていることでしょう。

最後に、見ていただきたいデータがあります。

実は、就活のスクールを経営している立場として、今、多くの親御さんが実践されている就活への関わり方に、少し疑問を感じずにはいられない部分もあるのです。

次の図を見てください。このグラフは、株式会社アイデムが発表した、学生の保護者から問い合わせがあった企業の割合です。なんと企業の55.8%が、採用活動の中で、学生の保護者から直接問い合わせや接触を受けているそうです。親御さんが直接企業の人事担当者に連絡を取る、というのは、一昔前には考えられなかったことではないでしょうか。


(出所:『子どもを一流ホワイト企業に内定させる方法 改訂新版』、図版制作:一企画)

親が「手を出してはいけない領域」もある

さらに、その連絡内容を見てみましょう。もっとも多いのが「合否結果への問い合わせ」、ついで「説明会や選考会場への同行・送迎」となっています。「内定辞退の連絡」も4社に1社の割合で親御さんが入れているのだというから、驚きです。

いざ、自分の子どもの就活となったらかわいさと心配のあまり、ついつい手を出したくなってしまうのでしょう。しかし、就活はお子さんが独り立ちするための大切なステップです。企業の人事担当者も、学生が無事に自社で一人前として活躍できるかどうかを見ています。


その大事な過程に親御さんが出てくるというのは、「わが子は『就活力』がありません」

と、喧伝するようなもの。3つの評価軸のうち1つを親御さんが代行してしまえば、企業が採用をためらう原因にこそなれ、お子さんにとってプラスに作用することはないはずです。

本稿でお伝えしたい「親御さんのサポート」は、このような過保護や過干渉ではありません。お子さんの影で、IQ、EQ、就活力を高められるように導くことです。

就職活動は、お子さんにとってはこれまでにない試練の一つです。しかし、それを乗り越えた先に、社会人としての未来が待っています。ぜひ親子で、素晴らしい未来を切り開いていってください。

(竹内 健登 : 受験コンサルタント、ホワイトアカデミー高等部塾長)