大学生の人気就職先として定着しつつあるコンサルティング企業だが、日本ではどのような経緯で成長してきたのだろうか(写真:Audtakorn/PIXTA)

2023年3月、アメリカのアクセンチュアが2万人規模のリストラを発表した。マッキンゼーなどもこれに続くという。アクセンチュアのグローバルの従業員数は73万人強だそうだから、2万人といっても3%にも満たない。しかも、オフィス系の人材がその主な対象なうえ、日本支社ではまだそうした話は出ていないという。それでも、いよいよコンサルバブル崩壊の時代の始まりか、と騒がれている。

確かに毎年、春になると発表される大学生の志望企業ランキングにちょっとした衝撃が走ったのは、わずか数年前のことだった。東京大学工学部の学生の進路の志望先が1位の大学院に次いで、2位がアクセンチュアになっていたのだ。就職先としてはトップである。そしてそれは文系も交えて、この3年間続いているらしい。東大に限らず、いわゆる上位校の学生の4分の1がコンサルを志望しているという調査結果もあるそうだ。

人気就職先になった意味

コンサル、特に、外資系のそれは、以前から高給で知られ、優秀な人材が集まる傾向にあったが、新卒採用数そのものが少ないうえ、中途採用も多かった。学生の就職志望ランキングに登場するような一般的な業界ではなかった。

それがランキングの上位に来るようになっているというのは、学生側の志向という需要の側の事情もあるだろうが、それ以上にそもそも供給量、すなわち採用数が激増している、ということがあるようだ。それは、世界的な傾向で、だからこそのここへきての人員削減とも言える。

いったいコンサル業界にいま、何が起きているのか。そして、それは日本の産業界にどんな影響を与えるのだろうか。

ボストン コンサルティング グループ(BCG)やアクセンチュアなどを経て、現在、エンタメ業界、スポーツ業界に強いコンサとして知られるフィールド・マネージメント・ストラテジーCEOで、『コンサル脳を鍛える』の著者、中村健太郎氏に、コンサル業界の今とあるべき未来を聞いた。本稿では中村氏に、今なぜ、コンサルの需要・供給とも、これほどまでに加熱しているのかを過去を振り返りながら解説してもらう。

そもそも、外資系コンサルティングファームとして、マッキンゼーの名前が日本で一般的に知られるようになったのは1990年代のことです。それまではこうした企業は、日本に進出したはいいが、ずっと収益性は悪かったと、日本のBCG社長を務めた堀紘一氏もその著書の中で語っています。

大企業の社長案件、経営戦略案件を扱っていたため、1案件あたりの料金はたとえ億単位だったとしても、そういう案件は多くはないし、あったところで、人員の制約から受けられませんでしたから。また、案件が安定して受注できないので、ファームとして高額のコンサルタントを多くは抱えられないという事情もありました。

当時は人材が限られていたことからコンサルタントも受注したプロジェクトに順番にアサインされ、結果として、自動車の次は、通信、その次は消費財と、同じメンバーが、さまざまな業界の案件に、順に取り組んでいきました。

量より質を追求していた「コンサル1.0」

自然と支援の内容は個別業務ではなく経営戦略が多くなりました。高額なフィーをとるけれど、経営陣と一緒になって、圧倒的な価値を生み出す、それがファームの使命であり、存在理由でした。これが、日本におけるコンサル創生期のころ。いわば「コンサル1.0」の時代です。量より質を追求していた時代だったと言えます。


フィールド・マネジメント・ストラテジーCEOの中村氏(写真:筆者提供)

それが、2000年代後半に、コンサル業界に激震が走りました。アクセンチュアを筆頭に、コンサルティングファームが規模を追うことを志向し始めたのです。規模を拡大することによっていっそうクオリティ(=質)を上げることができる、というのが表向きの理由でした。

実際、10人ではなく、100人いれば、5人1チームでも、20の案件を同時に受けられます。すると、同じチームが次々に違う業界の仕事をこなす必要は減り、君は自動車、君は通信と、案件を業界ごとに割り振っていけます。たとえば、Sさんは、通信の仕事ばかりやるので、どんどん通信業のプロになっていく。結果、クライアントに対するアウトプットのクオリティもどんどん上がっていく、というわけです。

それまでは業界を問わない普遍的な経営のテーマを扱っていたのが、コンサルタントの専門性が高まると、業界特有の業務に近い領域でも付加価値を出せるようになっていきました。

かくして、規模の拡大が、クライアントへのバリューを高める、というのが、規模拡大への舵を切ったことに対するアクセンチュアなどの「理由」でしたが、それだけではありませんでした。

アクセンチュアの場合、上場していますし、他のファームも複数の案件をこなすためにコンサルタントを数多く抱える必要があり、また、コンサルタントの給与も年々上げていかなければならなかった。つまり、ファームの財務的にも、規模を拡大しなければならなかったのです。

戦略策定型から業務請負型「コンサル2.0」

ただ、そうやって規模を大きくしていっても、何億円、それ以上のフィーを取れる案件が急に増えるわけでもない。郵政改革のような国家プロジェクトの数にも、超大企業の「社長案件」数にも、限りがある。ファームの数が増え、また、どのファームも規模拡大に走り出したのだから、当然、今度は、人員は増えたけれど、案件が足りない状態にあるはずだ。

そこで起きたのが、それまでの戦略策定型から業務請負型への、ビジネスモデルのシフトでした。コンサルティング会社のMD(マネージング・ディレクター、マッキンゼーでは同じ役職をパートナーと呼ぶ)の間では、「1人の社長10人の部長100人の課長」という言葉がよく交わされていました。

社長につけば1案件だけど部長につけば10案件取れる、課長に行くと100案件取れる、このようなセオリーです。要するに、ここで言う課長案件レベルでも行うようになったということです。当然、発注者が部課長になると、テーマも経営戦略から既存業務の改善になる。ただし、この業務改善に宝の山があったのです。

その例がいわゆる総合系と言われるファームです。最終的に業務の請負は、システムやBPOに落とすことができます。コンサルは、そのシステムやアウトソースの導入までやってしまうようになったのです。

マッキンゼー流に言うとBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)。業務の本来の目的に向かって既存の業務プロセス全体を見直して新しい業務を設計することです。それは、答えのない戦略作りと比べて、目的が明確な分、相対的に難易度は低くなります。受験に強い高偏差値大学出身者の得意分野でもありました。

さらに、システム導入は、システムというアウトプットが定まっている分、堅い検討が可能になります。代表例はERP(エンタープライズ リソース プランニング)の導入。だいたい2000年ぐらいから始まったのですが、どんどん進化していって、現在では、業務ごとに用意されたシステムに合わせれば、企業の業績がよくなる、というような触れ込みになっています。

コンサルというより業務請負、外注先に

これはクライアントとコンサルタント双方にとってメリットがあります。新卒1年目は、業務を十分に理解できなかったり、経営者と話せなかったりするのですが、半年間もトレーニングすれば、少なくともERPの特定部分をクライアントに説明することはできるようになります。


こうしたIT系や昔からある会計系の業務改善にとどまらず、最近、広がりを見せているのが、人事採用系、人事総務系の業務請負です。コンサルティングというより業務請負、いわば企業にとっては外注先です。

それも、事務処理などの定型業務から、だんだん、サプライチェーンの企画、マーケティングの企画へと進み、経営企画といった企画業務も、コンサルが業務請負でやるようになってきているのが現状です。欧米ではすでに、企業がやるところとコンサルタントがやるところが、ハッキリと分かれてきていますが、日本ではそうではなく、徐々に丸投げ状態になりつつあります。

それでは具体的にコンサルの社員は何をしているのだろうか。コンサルというより、業務請負的な内容で社員は育つのだろうか。次回はこうしたコンサルの方向転換の落とし穴と日本経済への影響について語ってもらう。

(干場 弓子 : BOW&PARTNERS社長 )