音楽を聞くと色を感じたり味や匂いに形を感じたりなど、音や文字などの情報を頭で処理する時に無関係の感覚や認知も同時に引き起こされる現象を「共感覚」と呼びます。とあるミュージシャンがバイク事故で頭部に損傷を負った後、共感覚が強化されたという例が報告されています。

A case report of acquired synesthesia and heightened creativity in a musician after traumatic brain injury: Neurocase: Vol 0, No 0

https://doi.org/10.1080/13554794.2023.2208271



Musician's head injury triggered rare synesthesia, causing him to 'see' music | Live Science

https://www.livescience.com/health/neuroscience/musicians-head-injury-triggered-rare-synesthesia-causing-him-to-see-music

報告書によると、事故に遭った66歳の男性はもともと作曲家としてのキャリアがあり、普段は音楽の講師として働いていたそうです。2021年に男性はバイク事故に遭い、およそ9メートルも吹っ飛ばされ、頭を強打。男性は即座に病院に運ばれ、CTスキャン検査を受けた結果、外傷性脳損傷と硬膜下血腫を起こしていることがわかりました。ただし、出血は外科手術が必要なほどではなく、男性は3日後に退院したとのこと。



そして、退院後に男性は音楽を聞いたときに「音符が見える」ようになったとのこと。男性は「真夜中から午前4時にかけて創造性が爆発したので、曲を絶えず書いていました。曲を書かないことは私にとって受けられないことでした」と述べています。また、音楽を聞くだけで曲のコード(和音)が瞬時にわかる能力も獲得したそうです。

男性の作曲衝動はおよそ4カ月続き、ついにアンサンブル曲を書き上げたそうですが、後に自分が作曲したことを忘れてしまったとのこと。回復後、男性は自分の妻と一緒に完成させた曲を聞き、「面白くて変な曲だ」と評価しています。



報告書によれば、男性の症状は外傷性脳損傷が回復するにつれて消えていき、事故から3カ月後には認知障害がほぼ解消されていたとのこと。

報告書の著者らによると、脳損傷後に共感覚と創造性が急激に向上する症例は他に1件あるそうです。その症例では、脳卒中を起こした女性が突然絵を描きたくなり、使う色に応じて神経性疼痛(とうつう)が変わったとのこと。また、頭部外傷がきっかけで後天的に共感覚を獲得し、フラクタル図形の絵を描くようになった男性の事例も過去に報告されています。

世界の見え方が変わってフラクタルを手描きできるようになった男 - GIGAZINE



創造性と共感覚が脳神経学的にどのように生まれてリンクしているのかは解明されていませんが、報告書では事故を起こした男性のケースも、脳卒中を起こした女性のケースも、脳内に構築された新しい神経結合が関係している可能性が示唆されています。