人口より猫の数が多い島があります。宮城県・田代島で、自然なかたちで人々の暮らしに溶け込む猫たち。人と猫とがともに生きる、「猫島」の姿を取材しました。(『天然ねこ生活』より一部抜粋・再構成)

人間より猫の数のほうが多い島

宮城県石巻港からフェリーで約1時間のところにある、「猫島」として知られる小さな島・田代島。昔から、猫は大漁をもたらすと大事にされてきました。

 

●「猫は大漁をもたらす」港で深まる漁師と猫の絆

島民約60人に対して猫は120匹ほど。昔は養蚕の天敵であるねずみの退治役として一家に1匹は飼われていたそう。猫を大事にする風習はいまも変わらず続いています。

猫は島の人たちの暮らしとぴたりと合った日々を過ごしています。

「朝は船着場で待ってるよ」と早朝から漁に出る遠藤常雄さん。夜明け前の薄暗い海辺に港に戻ってくる船のエンジン音が聞こえると、猫がいっせいに集まってきます。遠藤さんが網にかかった魚を外し、食べやすい大きさに切って「ほらっ」とやると、ぐるるっと喉を鳴らして骨まできれいに食べつくす猫たち。

2011年の東日本大震災では、海辺にいた猫はいち早く逃げたため被害は数匹にとどまりました。津波のあと、猫はガレキの上を元気に走り回っていたそう。そのたくましさに勇気をもらったといいます。

●家の中ではなく、外で伸び伸びと飼うのが田代島流

猫好きの方に会うと、「うちは20匹飼っているよ」と、よくおっしゃいます。えっ、そんなに? と思いますが、家の中ではなく外で伸び伸び飼うのが田代島流です。

敷地内で多くの猫が遊び回っている阿部頼男さん宅。「ほとんどが、うちの納屋で生まれた猫。えさが欲しいときだけ寄ってきてあとは知らんぷりだけど、ほっとけない」と笑いながら魚肉ソーセージをやっていました。

島一番の“猫っかわいがり”と評判の畠山和子さんのお宅では、子猫から老齢猫までが庭先で過ごしています。

「この子猫は赤ちゃんから育てたの。親猫が若いと、お乳をあげないことがあるからね」と抱きしめます。震災後、えさは社団法人田代島にゃんこ共和国がまとめて購入し、月に1回、希望者に配達。

「島民が高齢なため、えさをやる人が減ってきているのが心配。私が元気なうちは守ってやらないと」と、やさしく語る畠山さんです。

●東日本大震災からの復興を支えた猫の存在

朝7時。海辺の牡蠣むき場に、おばあちゃんたちが作業をするために集まってきました。田代島の大事な産業のひとつが牡蠣の養殖。冬の旬を迎えると大忙しです。この活気をとり戻せたのは猫のおかげでもありました。

震災の津波の影響で、漁の道具や牡蠣棚、むき場を失い途方に暮れていた漁師たち。前に進むため、地元の有志たちが一口支援基金を募る田代島にゃんこ・ザ・プロジェクトを立ち上げました(社団法人田代島にゃんこ共和国・2023年3月に解散)。

「猫島」に元気になってもらおうと全国から支援金が集まり、牡蠣棚をはじめとした設備や、猫のえさ代などに利用。復興の後押しになっていました。

「震災後からは獣医さんが来て、猫を診てくれるようになった」と尾形よしのさんが牡蠣むきをしながら教えてくれました。

猫を守り、猫に守られ、ともに生きる。その姿が「猫島」の自然なかたちでした。

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