浮上運行を行う中車長春軌道客車の高温超電導リニアシステム(写真:新華社/共同通信イメージズ)

4月初旬、中国が超電導リニアモーターカーの浮上運行に初めて成功したというニュースが報じられた。日本ではリニア中央新幹線の2027年開業が事実上困難となる中、この報道を受けて「リニアの本格営業運転開始は中国が先かも」という声も一部から聞かれる。

中国では2020年に、設計最高時速600kmをうたうリニア試作車が試験走行を実施しているが、今回の超電導リニアはこれとは別だ。また、上海では空港と市街地を結ぶ最高時速430kmの高速リニアが営業運転しており、約30kmの短距離路線とはいえすでに約20年の実績がある。中国のリニア開発の現状はどうなっているのだろうか。

3つのリニア研究プロジェクト

今回のリニア浮上運転試験を行ったのは、世界最大の鉄道車両メーカーである中国中車(CRRC)傘下の中車長春軌道客車だ。同社は「高温超電導リニアの全要素試験システムの初の浮上運行に成功」したと発表した。試作的な車両を浮上して走行させたということだ。

現地報道によると、今回の浮上運行では「超電導磁石や直線同期牽引、電磁誘導給電、低温冷却など超電導リニアシステムのコア技術が十分に検証された」といい、時速600km以上で走れる車両生産に見通しがついたと説明。「高速性能や安全、環境への配慮、スマートなデザイン、乗り心地が快適といった長所がある」としている。

中車長春軌道客車はもともと、1954年に創立した中国鉄道部長春客車廠が前身となる。その名の通り客車を生産してきたが、近年では中国国内や輸出用の地下鉄車両製造などを手がける。時速350kmを超える速度での走行を実現した高速車両「CRH380A」も製造している。

中国におけるリニアの研究プロジェクトは、今回の中車長春軌道客車を含め3つあるという。

1つは、中国中車青島四方機車車輛が取り組む「常電導技術」によるシステムだ。これはドイツが開発し、上海で導入された「トランスラピッド」の技術を基本とした、磁石の吸引力を用いた浮上方式だ。

2020年に試験走行した「最高時速600km走行のプロトタイプ車両」は、中車青島四方機車が手がけた。この際は上海・同済大学のキャンパスに設けた試験線の長さが1.5kmしかなく、走行速度も最高で時速55kmにとどまったが、翌年には同社の拠点である青島で5両編成の流線形車両が公開された。現地では「中国が高速磁気浮上技術およびエンジニアリング能力を完全にマスターしたことを示すもの」といった報道が世間を賑わせた。


中国中車青島四方機車車輛が開発した「設計最高時速600km」のリニアモーターカー(写真:中国中車青島四方機車車輛)

中国が開発する2つの「超電導リニア」

今回実験に成功したとされる中車長春軌道客車によるリニアの「高温超伝導(超電導)電気技術」は、同社が航空宇宙分野の国有企業である中国航天科工集団(CASIC)と共同で研究しているものだ。このほか、西南交通大学(四川省成都市)も医療用MRIなどにも使われる「高温超伝導(超電導)技術」を用いたシステムの開発に取り組んでいる。中車長春軌道客車と西南交通大学のシステムの違いは、前者は列車が動いているときだけ浮上し、後者は列車が止まっていても浮上したままである点という。

ちなみに「超電導」とは、特定の金属を一定温度以下にすると電気抵抗がゼロになる現象のことで、浮上走行の方式ではない。また「高温超電導」は、一般的にはマイナス196度以上で起きる超電導現象を指す。

日本のリニア中央新幹線は「超電導リニア」だ。車両を浮上走行させるための電磁石にこの現象を活用しており、ニオブチタン合金のコイルを液体ヘリウムによってマイナス269度まで冷やすことで半永久的に電流を流すことができ、強力な磁石の力を発揮する。車両は、搭載したこの超電導磁石と軌道(ガイドウェイ)の推進コイルが吸引・反発する力によって推進。車両の超電導磁石が軌道の浮上・案内コイルを高速で通過すると電流が流れて電磁石となり、吸引・反発する力で浮上する仕組みだ。


リニア中央新幹線「L0(エルゼロ)系」の改良型試験車(撮影:尾形文繁)

超電導磁石を使用し、列車が動いているときに浮上するという点では、今回の中車長春軌道客車のリニアは日本の超電導リニアと似ている。ただ、どのような仕組みで浮上・推進するのかは明らかにされておらず、実際に似たようなシステムなのかどうかは不明だ。

リニアの試験車を造って走行試験を行うには、一定の距離以上の試験線が不可欠だ。日本の山梨リニア実験線は約42.8kmの長さがある。

だが、中国で現在技術試験を行っている3つの事業体は数百メートルの試験線を持つにすぎず、長い試験線の敷設に積極的な西南交通大学でも、現状では全長1500mの軌道を造るにとどまっている。

中国でも「継続的に技術を向上させるためには、長距離の試験線を造って検証を行う必要があり、現在あるテストラインでは短すぎる」と理解されている。このため、すでに営業運転が行われている上海リニアの路線を使って試験をしたらどうかとの声も聞こえてきている。ただ、システムが異なれば不可能だ。

中国でも「リニアは不要」との論議が

都市間を結ぶ長距離の高速リニアは、世界的にまだ実現していない。

世界初の高速リニアである上海リニアは2002年12月末に開通式を行い、2003年9月から乗客を乗せた試験運行を実施、2004年4月に正式な営業運転を開始したが、路線は短距離だ。上海リニアに採用されたトランスラピッドの技術を開発したドイツは、自国では実用化しないまま10年以上前に開発継続を断念した。日本は技術こそ実用段階ではあるものの、リニア中央新幹線の2027年開業は困難で、まだ時間がかかりそうだ。


試験運行中の上海リニア。ドイツが開発した「トランスラピッド」のシステムを採用している=2004年2月(筆者撮影)

中国でも、北京―上海間をはじめ、広州―深圳間、上海―杭州間、成都―重慶間、さらには海南島や雲南省、安徽省といった地域で路線が計画されたこともある。しかし、いずれも実質的な進展はなく、研究段階にとどまる。上海―杭州間については、現在運行中の上海リニアを延長するという形が10年以上前に提案されるなど最も具体性があったが、現状では頓挫しているようだ。成都―重慶間は長期的な計画にとどまるほか、海南島のリニア計画は調査さえも行われていない。

リニアは他の鉄道との互換性がなく車両の相互乗り入れが不可能だ。そのうえ高速性を求められるため、中国では「駅は100kmに1駅しか設置できない」と考えられており、停車駅の数も限られることから、沿線の経済活性化に果たす役割は限定的との分析もある。

また、リニアは「新しい技術として既存の交通手段を補完するもので、多くの新しい知見や産業の高度化をもたらすことができる」との見方がある一方で、「いかなる投資も商業化を考慮しなければならず、収益性を上げるには敷設の際の十分な検討が必要」との見方もあり、もろ手を上げての取り組みではないことをうかがわせる。

建設経費の肥大化に伴う運賃の高騰についても懸念されている。現在、高速鉄道の建設コストは1km当たり2億元(約38億円)以下だが、2002年開通(正式な旅客営業運転は2004年開始)の上海リニアは当時で約3億元(約58億円)だった。建設費がかさめば運賃に転嫁されることになるだろう。上海リニアの片道運賃は50元(約970円)で、1km当たり1.67元(約32円)となる。一方、全長1318kmの北京―上海間の高速列車は2等席で553元(約1万700円)のため、1km当たり0.42元(約8円)だ。上海リニアを基準に単純計算すれば、高速鉄道の約4倍となる。

狙いは「技術発展」?

その上海リニアも開業から約20年が経ち、現在はフルスピードでの運行はしておらず、最高速度は時速300kmにとどまっている。これは高速鉄道を走る最速列車の時速350kmさえも下回っている。

リニア建設の青写真作成に加わっている当局者は、「時速600kmのリニアプロジェクトは”科学技術革新”の項目として考えられている」と説明。「必ずしも大規模な応用を目指すのではなく、技術発展のための予備として位置づけられている」とも話す。

日本のリニア中央新幹線は静岡県内の着工のメドが立たない問題があるとはいえ、技術としては実際に乗客を乗せて時速500kmで運行できる状態にある。中国の国是として「リニア技術で日本に負けるわけにはいかない」ということなのだろうか。実際に人を乗せて試験線を高速走行するまでにはまだまだ時間がかかりそうだが、今や世界一の路線網となった高速鉄道のようにあっという間に実用化して路線網を広げてくる可能性もないとはいえない。しばらくは開発の進展を注視する必要がありそうだ。


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(さかい もとみ : 在英ジャーナリスト)