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EC市場が拡大するにつれて広告費が高騰し、新規顧客の獲得がこれまで以上に難しくなっている。そんなデジタルマーケティングの世界において、いま注目されているのが「ポストパーチェス」(購入後体験)だ。購入後に顧客と信頼関係を築くことができれば、ブランドへのロイヤルティが向上する。既存顧客の維持はもちろん、そこから新規顧客獲得の可能性も広がるというわけだ。ポストパーチェスのなかでも「保証」に関することは、ユーザーの不満が明確にあらわれる分、レスポンスのスピードやポジティブに転換することができるかどうかで、その後長いつきあいになるか、それっきりの関係となるかが決まるといっても過言ではない。また最近はサステナビリティの観点から、購入した商品を長く使い続けたいというユーザーも増えてきた。メーカーが設定した保証期間(通常1年)に加えて、わずかな保証料を支払うことで数年保証を延長し、その間に自然故障や不具合が発生した際には、交換・修理を無料でおこなえる「延長保証」サービスのニーズは高まっている。以前はApple Careや大手家電量販店など、限られた場面でしか利用できなかった延長保証を、APIを用いることで簡単に既存のECサイトに導入できるようにしたサービスが「proteger(プロテジャー)」だ。同サービスを手がけた株式会社Kiva(キヴァ)代表取締役社長 CEOの野尻航太氏は、「延長保証をマーケティング施策のひとつ、ポストパーチェスを考えるうえで欠かせない要素にしていきたい」と語る。2021年5月のローンチ以来、さまざまなECサイトにprotegerを導入し、2022年5月に損保ジャパンと提携。同年12月にはSBIインベストメントをリード投資家として、ココナラスキルパートナーズ、SMBCベンチャーキャピタル、Arbor Venturesなどから約4.5億円の資金調達を実施した。さらなる成長に向けて、人材採用やプロダクト開発を進める野尻氏に、ECの延長保証を取り巻く環境やポストパーチェスの重要性について話を聞いた。◆ ◆ ◆

――ECの延長保証サービスを始めようと思ったきっかけは?

大学生の頃にタブレットが保証期間後に壊れたり、3万5000円で買ったカバンを修理しようとしたら修理代に3万円もかかるうえに納期は3カ月先だったり、と残念な思いをしたことが原体験としてある。2020年12月に「世界で使われるサービスをつくりたい」との思いで創業し、大切なものを長く安心して使えるサービスがあればとアンテナを張りめぐらせていたところ、米国に延長保証サービスをAPIで提供するビジネスを知り、日本でもこのサービスを展開しようと決めた。それまでApple Careや大手家電量販店のほか、住宅設備会社などの延長保証は存在したが、ECサイトを対象としたサービスは日本にはなかった。現在、当社で延長保証の対象にしているのは、家電・家具・時計・カバン・アウトドア用品・ジュエリー・楽器・オーディオ製品・電動工具・自転車用品・カー用品・スポーツ用品・メガネ・サングラスなどの耐久消費財で、パソコンやテプラの機械なども扱っているが、アパレル・食料品・化粧品などの消耗品は対象外にしている。最近は海外のロードバイクなど高額な自転車に乗る人も増えたが、以前は部品に対する保証はなく、高くても買い換えるしかなかった。しかし、パーツの延長保証を開始したことで、円安で物価が上がるなか自転車愛好者のユーザーにはとても喜ばれている。

――ニーズの高い商品や日本市場の特徴は?

3Dプリンターは特に加入率が高く、60%を超えている。意外だったのは、ポーチなど比較的手頃な商品にも需要があることだ。ある程度、商品自体の価格が高くないと延長保証のニーズがないのではないかと考えていたが、3000円の商品に対し、300円の保証をつける人が思いのほかいて驚いた。現在protegerの平均保証加入率は32%で、約3人に1人は加入しているという計算になり、延長保証サービスの導入前後を比較すると、CVRが1.4倍も向上している。これは延長保証を購入できるということが安心感を生み、新規に購入する際の障壁を下げているということだろう。また、たとえば延長保証サービスをAPIで提供している米ユニコーン企業であるExtend(エクステンド)に比べて、我々のサービスの保証加入率は平均で2倍ほど高い。この数字を見て、当初は外れ値かと考えたが、日本はそもそも「保険大国」と呼ばれるほど保険加入率が高い国。日本のEC市場は米国に比べて4分の1くらいの規模だが、安心を求める国民性が影響していることがわかり、延長保証サービスの高いニーズがあることを確信した。加えて、当社は回収した破損商品は廃棄せず、修理やリユースをしている。大量生産・大量消費をなくし、良いものを長く使いたいというサステナブルな意識が高まっていることもあり、加入者は増加中だ。延長保証数は約5万点、修理パートナーは国内400拠点以上にまで拡大した。

――ユーザーの購入方法と、保証申請の手順は?

延長保証を希望するユーザーは、ECサイトで購入する際に商品と同じページに表示されたprotegerのメニューから、1年・2年・3年というように設定された延長期間を選択してカートに入れるだけ。その後は商品購入と同じ手順で簡単に保証という安心を買うことができる。商品に不具合が生じたときは、購入完了時に発行している電子保証書の遷移ボタンからprotegerサイトに飛び、チャットボットで「保証申請」する。申請完了までの所要時間は3分ほど。仮に電子保証書が見つからなくても、メールアドレスを入力すれば照合できるようになっているので、9割はチャットボットで解決する。ただ、どうしても電話やメールでやりとりしたい人のために、電子保証書には電話番号等を記載している。自分にも経験があるが、故障したときに紙の保証書が見つからなかったり、問い合わせ先が明確でなかったりすると、かなりイライラするものだ。トラブルが発生した際にストレスなく保証申請ができれば、「このブランドはアフターケアがしっかりしている」と安心感が生まれ、ブランドへの帰属意識が高まる絶好の機会になる。そういう意味でも、延長保証は重要なポストパーチェスのひとつだといえる。

――ECサイトを運営する事業者から見たメリットは?

事業者にとって延長保証を導入することは、ユーザーとの中長期的な関係づくりにつながり、これこそが延長保証サービスの本質的な価値であると思う。延長保証に興味をもっている企業が、単独で保険会社と交渉しようとしても、話がまとまらない場合もあるだろう。だがprotegerとして当社が複数企業をまとめれば、オペレーションコストが下がり、リスクもならされるので、事業の規模に関係なく、延長保証を実施できるというボリュームメリットもある。実際に導入する際も、既存のECサイトにAPIを組み込むだけ。最短2日で延長保証のサービスを稼働でき、Shopifyや、Makeshop、futureshop、カラーミーショップなどのさまざまなECプラットフォームに対応可能だ。また、導入時や月額の管理コストがかからないだけでなく、保証料の一部をキックバックしているので、事業者にとっては商品以外の収入も見込める。「保証がこんなに売れるとは思わなかった」という驚きの声もよく寄せられるし、保証の「自動付帯機能」も入力ミスが防げるうえに管理工数も減るので、事業者のみなさんには好評だ。

――サービス開始当初、苦労した点は?

ローンチ後しばらくは、「延長保証をつけたら、買い換えサイクルの機会を損失してしまうのではないか」という懐疑的な声が多かった。それでも延長保証というサービスに魅力を感じ、導入してくれる企業が徐々に増え、2022年5月には損保ジャパンと提携することができた。後ろ盾ができたことで、導入に躊躇していた企業も興味を示すようになり、最近は大型取引も増えている。また当初は老舗企業に採用してもらうのは難しいのではないかと考えていたが、むしろ長く商売を続けてきた老舗企業は、中長期的に顧客体験の向上を考えていることを、これまで営業するなかで実感した。いまではprotegerを導入する企業も老舗の割合が高まっている。延長保証はユーザーと事業者のどちらにも安心感という付加価値を提供できるサービスであることに加えて、経費がかからないから景気が悪くなってもコストカット対象にならない。protegerはまさに「三方よし」のサービスだと自負している。

――延長保証サービスを取り巻く国内外の状況は?

矢野経済研究所の発表(2022年9月)によると、「2021年の国内ワランティ(延長保証)サービス市場は1兆5557億円」で、「2030年には1兆7693億円まで拡大を予測する」。また世界を見ると、IMARC Services Private Limitedの2022年3月の発表で、「世界の延長保証の市場規模は、2021年に1215億米ドルとなり、2022年〜2027年の間に6.7%のCAGR(年平均成長率)で成長し、2027年までに1823億米ドルに達する」と予測されている。国内外で今後も拡大傾向であることがわかるが、その背景に昨今の資源不足も影響していると思う。2023年7月に米・ニューヨーク州で「修理する権利(Right to repair)」が施行される。修理する権利とは、パソコンやスマートフォンなどの製品をユーザーが自分で修理できる権利のことだが、これまでメーカーは修理価格をコントロールし、修理業社を限定するなど独占的な権利をもっていた。それゆえ、「修理するより買ったほうが安い」ケースが頻発し、多くの廃棄を生み出す要因にもなっている。Appleも米国で一部商品のセルフリペアサービスを開始しているが、いずれ日本にもその流れが来るのではないかと考えている。

――いま考えている課題について。

近い将来、延長保証をマーケティング施策のひとつ、ポストパーチェスを考えるうえで欠かせない要素にしていきたい。そのために、やらなければいけないと感じているのは、保証終了時に新商品の提案や顧客満足度調査を実施すること。現在、終了時にどのようなアプローチをするかは、それぞれの事業者に委ねているが、延長保証期間中に寄せられたさまざま声は、企業にとって商品改善に役立つ活きたレポートになるはずで、有意義なデータを抽出できるサービスにしていく必要がある。また、リテールに関する部分では、店舗の延長保証サービス提供を進めていきたいと考えている。テントなどの大型商品は75%がオフラインで購入されることもあり、「小川テント」の名で知られる老舗アウトドアブランドogawaで、ECと同様の延長保証サービスを店舗でも開始した。店頭で実物を見て、ECで購入するパターンもあるが、どちらで購入しても同じサービスを提供することができるよう、まずはECでprotegerを導入している企業から店舗での導入を提案していく予定だ。

――2022年12月に約4.5億円の資金調達を実現した。この先のビジョンは?

損保ジャパンとの提携にはじまり、国内外の投資家から資金調達したことで、ようやくバックボーンがしっかりしてきたと感じると同時に、身の引き締まる思いだ。提携や資金調達をしたあと、受注率が目に見えて上がり、大企業にはうちのようなベンチャーが一朝一夕には積めない信頼があることを痛感した。特に日本では、信頼や実績がより重視される傾向にあるので、今後も大企業とのアライアンスは深めていく予定だ。これから3年くらいの短期的な目標は、Amazonなどの大手ECモールにprotegerを導入すること。その先は、今後さまざまな法律も変わっていくことが予想されるので、これまで対象としていなかった旅行や不動産などの保険・保証サービスも検討していきたい。UI・UXが優れた埋め込み型保証を応用できる場面が今後増えていくはずなので、アンテナを張りめぐらし、いつか延長保証サービスで、上場など何かしらのゴールを目指していきたいと思う。※株式会社Kivaは株式会社メディアジーンの投資先です。
野尻航太(のじり・こうた)大学在学中、営業代理店である合同会社Puenteeを設立。2019年からウリドキ株式会社で、EC事業を立ち上げ別会社に事業売却を経験したのち、世界で使われるサービスをつくりたいとの思いから、2020年12月に株式会社Kivaを設立。2021年5月よりECサイトの延長保証サービス「proteger」を提供している。
Written by 山本千尋