野球には、夢がある！

映画のような、漫画のような、よくできた…いや出来過ぎた物語のような、完璧に美しい夢が現実に現れました。WBC決勝、日本とアメリカという世界の野球大国が野球の頂きで激突し、互いにチカラを示し、最後に世界最高の選手・大谷翔平さんが、メジャーを代表する選手にして所属するエンゼルスでの盟友・トラウトさんと対決し、三振で締める。「こうなったらいいな」の理想を挙げるならこういう試合だろうというそのものが現実に生まれた。夢としか呼べない試合ですが、そのなかでもきっとこの夢は「正夢」と呼ぶべきものなのでしょう。こんなことがあるかもしれないと思ったすべてが、ここにある。正夢を見ました！


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迎えた決勝の舞台。美しいスタジアムと満場の大観衆。遠く離れた日本でもこの日が平日であることを恨めしく思いながら、休暇を取得したり、業務中にチラ見をしたり、あるいは「観ずにはおれん」と堂々と宣言したりして、この夢の行く末を見守っていました。このWBCを通じて野球ファンになったという人や、野球のルールを詳しく知らない人までも魅了されていました。本当にすごいものは知識などなくてもちゃんと伝わるのだ……日本と世界を野球が席巻していました。

入場してくる選手たち。日本の侍ジャパンはご存じの通りのドリームチームですが、アメリカの代表もまたすごい。MVP、ホームラン王、首位打者、ズラリと並んだスターたち。一部のやっかみではアメリカは本気ではないというような声も聞こえますし、確かに名前だけを考えるなら投手陣にはもう少し厚みがあってもよいとは思いますが、少なくとも打線に関しては掛け値なしの「アメリカ代表」です。相手にとって不足なしと互いに思える両チームでしょう。

↓トラウトさんが星条旗を持ち、大谷さんが日の丸を持ってやってきた！ブチ上がる幕開け！


↓大谷さんは「憧れてしまっては越えられない」「憧れるのを、やめましょう」とチームを鼓舞！


「星条旗よ永遠なれ」と「君が代」が鳴るスタジアムで動き出した究極のWBC、日本は先発のマウンドに横浜の今永さんを送ります。メジャーで活躍するダルビッシュさんでも大谷さんでもありませんが、日本プロ野球が誇る左のエースです。たとえアメリカ打線が相手でも怯えるものではない。今永さんは糸引く真っ直ぐから入ると、トラウトさんに二塁打を許しつつもしっかりとゼロで立ち上がります。

一方アメリカの先発は1次リーグのコロンビア戦でも先発していたケリーさん。スロースターター気味に始まったアメリカ代表の苦しい道のりで「負けたら終わり」の一戦を託された先発です。ケリーさんは1番・ヌートバーさんを1球で仕留めると、3番・大谷さんに対しては四球を与えるも、4番・吉田さんを見逃し三振として無失点。緊迫感のある戦いです。

試合が動いたのは2回。今大会絶好調のターナーさんが今永さんのストレートをとらえてスタンドまで運びました。とらえられたらこうなる、とは思っていてもこうも簡単に打たれると改めてアメリカ打線の怖さも感じるところ。「憧れるのは、やめましょう」どころか「怖くなってきたんですけど、どうしましょう」という気分。失点後、さらにピンチが広がり二死一・二塁となった段階では、ファン目線では震えるような気持ちにまでなりました。

ただ、侍たちは頼もしかった。今大会、名前としても実力としても全チームで一番であろう日本の投手陣は、アメリカ打線でさえも真っ向から勝負できるチカラがあります。逃げて打ち損じを待つのではなく、攻めて仕留めることができる。ピンチのなかでも今永さんは動じることなく、最後は自慢のチェンジアップでこのピンチを脱しました。誰が相手でも通じるウィニングショットがある。全投手がそういう球を持っている。さすがは世界最強の投手陣です。

さぁ、どうやって追いかけようか…と考える時間すらなく訪れた日本の反撃。「なるべく早く追いついて」どころか「あ？もう追いついたの？」というタイミングでそれはやってきます。5番に入った若き三冠王・村上さんの打席。いつ起きるんだ、いつ起きるんだと春眠で日本をヤキモキさせてきた主砲が、アメリカまで来てようやく目覚めました。逆に最初からアメリカ時間で暮らしていて時差ボケだったんじゃないかという「おはよう村上」による一振りは、アッパーデッキまで運ぶ同点弾に。「打力でも負けてませんが」という自負をアメリカに突きつける大きな大きな一発でした。

↓「決勝戦でアメリカからホームランを打ってもらう」ために、ここまでみんなでガマンしてきた感！


↓なじみのない球場でも関係ない！「どこであっても絶対入る」の手応えからアメリカで見せる「確信歩き」！

メジャーリーグの強打者の風体だ！

いるいる、こういうメジャーの選手！



その後、日本は岡本さんの安打、源田さんの安打、中村さんの四球で一死満塁というチャンスを作ります。アメリカは早くも先発のケリーさんを下げて継投策に入ります。アメリカも総力戦の体制でしょうか。一戦必勝、プライドよりも勝利を求める構えです。ここで打順は先頭に帰ってヌートバーさん。結果として継投は成功したものの、日本もヌートバーさんの内野ゴロの間に1点をもぎとりました。ドン詰まりの当たりでしたが、かえってそれが功を奏しました。キレイな形ではなくとも逆転したことが大事です。

日本もここから継投策に。先発今永さんを下げて2番手として巨人の戸郷さんにマウンドを託します。戸郷さんは自慢のフォークでアメリカ打線に挑みますが、初見ゆえか低めのボールには手を出してこないアメリカ打線。結果として四球ふたつで二死一・二塁のピンチとなります。打席には今大会絶好調で先ほどもホームランを放ったターナーさん。日本は吉井コーチもマウンドにやってきます。勝負所です。それでも戸郷さんは自分のボールを信じて投じ、真っ直ぐで空振り、ツーシームでファウル、そして最後はフォークで空振り三振に！

↓このフォークは打とうと思っても打てない！追い込まれたら終わりのヤツ！


ピンチをしのいだ戸郷さんが4回も三者凡退で終えると、日本には待望の追加点が生まれます。密かに今大会好調の隠れ主砲・岡本さんが甘く入ったスライダーをレフトスタンドに運びました。今度はフェンス際でキャッチされない本物のホームラン。決勝の舞台で、アメリカを相手に、日本の打線が2本のホームランを打った。偶然でも出会い頭でもなく「日本打線のチカラ」を念押しするように打ったホームランは、「巨人が抑えて巨人が打つ」という日本野球の伝統をもこの舞台に描き出すよう。大きな大きな追加点でした！

↓このホームラン、最高です！


1点差ではなく2点差にできたことで試合の主導権は完全に日本のものに。「とらえられたらスタンドイン」という怖さはあるものの、一発まではまったく問題ないですし、2本でもまだ同点止まり。最悪満塁ホームランでもそこまで大きな差にはなりません。このわずかな余裕が日本の投手陣をしっかりと輝かせます。1イニング刻みで次から次に送り出される世界最強の投手陣が、「打てるものなら打ってみろ」と自信のウィニングショットを全力で投じていく。これはアメリカ打線とて簡単に打てるものではありません。

5回は橋宏斗さんがキレのあるフォークを交えつつも真っ直ぐ・真っ直ぐ・真っ直ぐで押してアメリカ打線を押し切りました。6回は伊藤大海さんがズバッと真っ直ぐ空振り三振で締めて無失点。7回はここまでクローザーを託されてきた大勢さんをマウンドへ。大勢さんは四球と安打で無死一・二塁とされるも、トラウトさんを詰まったライトフライに仕留めると、最後は「6-4-3のダブルプレー」でピンチを脱します。内野ゴロを打たせて取る、日本野球のお手本のような守り。毎イニングをガッツポーズで終える世界最強のリレーがつづきます。

そして夢のリレーへ。メジャーリーグでの複雑な契約や、実際にメジャーのスター級先発投手がWBCに参加していない状況を見ると「投げること自体が簡単ではない」という背景を察せずにはいられないなかで、8回のマウンドに上がるのはダルビッシュさん。今大会、決して好調とは言えない状態での参加ですが、それよりもこの試合のマウンドにダルビッシュさんがいる意味のほうが大きい。歴史にこの試合を刻むのに必要な登板です。ダルビッシュさんは一発を浴びるもリードを保ってこの回を終え、いよいよ試合は最終盤9回へと突入します。

↓2点差にしておいてよかった！


その頃、日本のベンチとブルペンでは大谷さんが慌ただしく動いていました。外野寄りにあるブルペンに行っては、自分の打席だからとまたベンチに戻る。9回のマウンド、世界一を決めるマウンドへ向けて、大谷さんが準備を進めています。DH解除でマウンドに上がるのは日本ハム時代の2016年以来のこと。先発投手としてであれば「大谷ルール」でデメリットなく投打二刀流をできるものの、DH解除となればこの先は指名打者は使えず、投手が打席に立つことになります。つまり、この回で決める、そういうタイミングでだけ繰り出せる最後の秘策です。「DH解除」という響きは、まるで大谷さんの隠された真のチカラを解き放つことを指すかのようで、いよいよ最後だという盛り上がりを感じます。

ダルビッシュさんがシュワーバーさんと演じた10球の長い勝負も、8回裏の日本の攻撃で日本が無理目に仕掛けたチャレンジも、すべては大谷さんの準備時間を作るためであったかのよう。この回で決める、大谷で締める、それ以外は考えない「信じる」に全振りの采配が再びです。誰もが夢に描いた場面が、本当に実現できるだなんて。野球が喜んでいます。この夢を実現させようと頑張った人間の奮闘に野球が喜んでいます。このスポーツはそういうことができるようになっているんだ。誰も目指さないけどできるようになっているんだ。挑戦してくれてありがとう。野球がこの夢を喜んでいます。

マウンドに上がる大谷さんはここまでの激闘を示す土にまみれたユニフォーム姿です。激闘、連戦、疲れがないとは思えませんが、これまで以上の気迫で大谷さんは160キロ超えの剛球を投じます。先頭打者に四球を出すものの、つづく打者を狙い通りのダブルプレーに仕留めると、大谷さんは大きく吠えました。迎える打者はトラウトさん。ここでトラウトさんか…と次々に叶う夢の大きさに呆けるばかりですが、ここまでに成し遂げてきた夢の道のりを思えば、最後に「9分の1」の確率を引くくらいは余技のようなものです。

アメリカにとってもトラウトさんこそが「トラウトが打つか、打たないか」でエンディングが変わる天運の持ち主でしょう。日本の野球の神様も、アメリカのベースボールの神様も、この頂上決戦に決着をつけるなら「大谷とトラウトで決めようじゃないか」と意気投合したのでしょう。なるべくしてこうなった、そうとしか思えない運命的な対決。初球、スライダー低め外れてボール。2球目、160キロ真っ直ぐで空振り。3球目、またしても160キロ外れてボール。4球目、再び160キロ空振りでツーストライク。5球目、この日最速164キロは低め大きく外れてボール、フルカウント。そして6球目、思いつく限りのすべての夢を描いた先の最後のボールは、外角低めに鋭く曲がるスライダーで空振り三振！何て美しい、何と完璧な試合であることか！野球最高！野球最高！野球は最高です！

↓野球最高！野球最高！野球最高！野球最高！野球最高！



日本がWBCに勝った、世界一になった、とても嬉しく思います。ただ、もはやそれすらも小さく思えるような大きな夢を見ました。こんなことが起きるのか、作り話以上の美しい夢を見て、勝敗よりも大きな感動を覚えました。仮に敗れた側だったとしても、この試合を演じたあとであれば、その夢に参加できたことを嬉しく思うような、そんな試合だったと思います。

野球には、夢がある。

この大会とこの試合は、そのことを証明するものでした。大谷少年もかつてWBCでその夢を感じ、憧れたのだと言いますが、今再び「夢」は証明されました。役割上、この試合の勝者は日本ですが、真の勝者は野球でした。このスポーツがこんなにも面白くて、こんなにも複雑な夢を描けることを示せたのですから。

2022年に見たサッカーのワールドカップでは、世界最高の選手メッシさんが、前回大会王者のフランスと若きエース・エムバペさんを相手に壮絶な点の取り合いを演じ、夢のようなゴールを重ね、最後にメッシのアルゼンチンが勝つという夢を描いていました。すごい夢でした。こんな映画のようなことが起きるのかと思いましたが、今、競技を変えて、同じか、それ以上の夢を見ました。才能と、努力と、天運と、「夢を信じる」チカラがなければ描けないものを見ました。誰もが不可能だと思うことを現実にする、超人たちの姿を見ました。才能よりも努力よりも天運よりも、「よくぞこんなことをできると信じて生きてきてくれた」と驚きながら感謝するしかありません。

この試合を見た世界の人、特に子どもたちは「野球には、夢がある」ということを心に刻んで、さらに大きな夢を思い描けるようになるでしょう。漫画や映画さえも超えて、大きな夢を描いて生きていけることでしょう。大谷さん自身もまだまだ野球人生のなかで夢を描き、次回のWBCもイメージしていると言いますが、きっともっと大きな夢が未来に生まれることだろうと思います。この大会を見て、夢を信じるようになった子どもたちが、さらに大きな夢を描いてくれるはずです。

これ以上どんな夢を描けるのか今はまだ想像力が追いつきませんが、投打二刀流の英雄ふたりが投打を入れ替えながら壮絶な打ち合いとかを演じている…くらいのことは思って生きていきたいもの。想像力を広げて、さらに大きな夢を思い、未来にそれを託していきましょう。そして栗山監督が大会中の会見で述べた「邪魔をしないように手伝いたい」という言葉を心に刻んでいきましょう。夢は信じるものであって、摘み取るものではないのです。頼むぞ野球、頼むぞ子どもたち、この世界には夢がある。ちゃんとそのことを示す2023年のWBCになりました。2040年くらいのスタジアムでここから始まった新しい夢が見られますように！

↓今よりももっと大きな夢がきっとある、そう信じることが大事です！


信じて目指さなければ夢は生まれない！信じることが始まりでありすべてです！