日韓首脳会談後に、岸田文雄首相と記者会見に臨む韓国の尹錫悦大統領(左、写真・EPA=時事)

2023年3月16日に行われた日韓首脳会談では、日本が2019年以降行ってきた韓国向け輸出規制措置を解除し、韓国も対抗して出していた世界貿易機関(WTO)への提訴を取り下げることで合意した。また、韓国側が2019年に効力を一時停止していた日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)も復活する方向で解決しそうだ。

韓国の李昌洋(イ・チャンヤン)産業通商資源相は3月16日、日本が韓国に対する半導体素材3品目(フッ化水素、フッ化ポリイミド、フォトレジスト)の輸出規制を解除し、韓国政府もこれに合わせてWTOへの提訴を取り下げることにしたと発表した。

フッ化水素など3品目は韓国の主力産業である半導体とディスプレー産業にとって重要な素材だ。この品目で日本は、2019年にはフッ化ポリイミドとフォトレジストの世界シェアで約9割、フッ化水素で同7割を占めている。

日韓間の懸案解決に一歩踏み出す

韓国の大法院(最高裁判所)が日本企業に元徴用工ら原告への賠償金支払いを命じる判決を出したことに日本が反発、2019年7月に輸出規制措置を行った。これに対し韓国社会では強力な日本製品ボイコット運動が広がるなど、日韓関係が急速に悪化していった。日本は同年8月には貿易上の優遇措置を与える「ホワイトリスト」から韓国を排除、韓国は同年9月に日本の輸出規制措置が不当だとWTOに提訴していた。

輸出手続きの簡素化などが可能な「ホワイトリスト」対象国から韓国を排除した問題については、今後速やかな原状復帰ができるように緊密な議論が行われていきそうだ。前出の李・産業通商資源相は、「日本は韓国の大統領令に該当する政令を閣議で議決すべきであり、韓国産業省も告示改正手続きを行うべきだ」と述べた。

産業通商資源省関係者は「日本が3月16日にホワイトリストの問題を解決できなかったのは、日韓首脳会談まで時間がなく、事前に閣僚級の会議を開けなかったことが要因で、ほかに解決の障害になるものはない」と打ち明けた。

産業通商資源省は2023年3月6日に「日本の輸出規制に関する問題を協議する」と発表、3月14〜16日に日本の経済産業省と9回目の日韓局長級輸出管理政策対話を開催、協議を重ね合意に至ったと明らかにした。産業通商資源省は「政策対話で両国の輸出管理当局の体制や制度運用、事後管理などを含めて、輸出管理の実効性について緊密な意見交換があった」という。

今回の措置は両国が日韓首脳会談を開催することで経済安保分野での協力を強化し、さらには経済面でのグローバルな供給網を再編するという観点から、日韓の半導体産業での対立を解消するためだ。

李・産業通商資源相は「今後、日本から韓国へ3品目を輸出する場合、必要な書類の準備などが簡素化され、審査機関の短縮など手続き上の負担も大きく緩和されるなど、企業が抱える不確実性も解消される。また今回の合意は単純に輸出規制措置の解消にとどまらず、信頼構築のための第一歩となるものであり、日韓間の経済協力とグローバル供給網の安定化のための協調の主軸となるだろう」と述べた。

経済界は歓迎している。韓国貿易協会は「両国の貿易上の問題が解決されれば、半導体など先端産業での投資と技術協力が拡大され、両国経済はもちろん世界経済にも活力を与えるものと期待する」と明らかにした。

尹大統領「日韓関係改善は私の公約」

2022年の大統領政権で政権交代を果たした尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、慎重に慎重を重ねつつも2023年3月1日に行った演説を契機に、同月16日の日韓首脳会談へと急ピッチで関係改善を行うという軌跡を描いた。

尹大統領は2022年3月の大統領選挙期間中から、1965年の国交正常化以降、最悪とまで言われるほど悪化した文在寅(ムン・ジェイン)前政権時代の日韓関係を改善しようと主張してきた。

このような意志は、1998年に当時の金大中(キム・デジュン)大統領と小渕恵三首相の間で結ばれた「日韓共同宣言−21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ」を発展的に継承しようという公約で示されていた。

金大中政権当時の前向きな日韓関係を引き継ぎ、首脳間シャトル外交の復活、元徴用工・元慰安婦問題の解決・賠償、韓国輸出規制の解除、GSOMIA再開など日韓関係をがんじがらめにしていた懸案を解決しようという考えだった。

尹大統領と岸田文雄首相の初会合は2022年6月、スペインでのNATO(北大西洋条機構)首脳会議だった。そして尹大統領が同年9月、ニューヨークでの国連総会への出席を利用した際には、会談の開催を巡る意見対立により30分の略式会談にとどまった。このように、日韓関係改善に向けた尹大統領の思惑は簡単に進まなかった。

日本側も、政治家は選挙への影響などを考慮して、国内世論が敏感に反応する日韓関係の改善を速やかに進めることはできず、結果、両国間の懸案は解決されないままだった。

ところが、2022年11月にカンボジアのプノンペンで行われた日韓首脳会談は、ニューヨークでの会談当時と比べ、相対的に和やかな雰囲気の中、進められた。両首脳は元徴用工問題を速やかに解決すべきということで同意し、インド太平洋地域での連帯強化も確認した。

2022年11月が解決への起点

2023年に入り、両国は最大の懸案だった元徴用工問題について水面下での調整を行い、これにより日韓関係は重大な分水嶺を迎えることになった。

尹大統領が「日本は協力できるパートナー」と指摘した3月1日の演説に続き、韓国は3月6日に元徴用工らに解決策として「第三者弁済方式」を公式に発表した。被告となっている日本企業の拠出と謝罪が保障されていなくても、韓国政府としては日韓関係のためにはこれ以上の代案はないと判断した。

韓国大統領室周辺では、3月下旬に日韓首脳会談が行われる可能性が取り沙汰されていた。3月9日、日韓双方が尹大統領の1泊2日による訪日を同時発表し、首脳会談開催が既定路線となった。大統領室関係者は、「今回の会談は両国関係を正常化する出発点」という。

韓国の最大野党「共に民主党」は3月16日、日韓首脳会談について「屈従外交の極み」と批判した。一方、与党「国民の力」は「安保、経済危機の突破口とするための決断であり、共同繁栄の新時代が開かれた」と評価した。

共に民主党の安浩栄(アン・ホヨン)首席報道官は「日韓両国首脳が会ったが、元徴用工問題に対する日本政府の謝罪はなかった。屈従外交となった会談は、国民にとって恥ずかしいだけだ」と批判した。

さらに「輸出規制といった貿易上の報復に対する謝罪や遺憾の表明も、ホワイトリストへの復帰にも明確な回答が得られなかった」と付け加えるなど、「この程度であればプレゼントではなく朝貢」と主張した。

共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表も、「福島第1原発事故による汚染水排出問題など多くの懸案があるのに、韓国国民の自尊心と国の品格を毀損しないように多くの成果を得て帰国してほしい」と述べた。

野党はソウル市内で抗議活動も

共に民主党の朴洪根(パク・ホングン)院内代表は元徴用工問題での「第三者弁済」方式について、「三菱重工業が12年前、自ら合意案に含めていた心からの謝罪表明、強制動員の認定も消えた屈辱的やり方」と述べた。

同党の金星煥(キム・ソンファン)政策委員会議長も「大統領が三権分立に違反してまで日本に頭を下げた。日本の前で尹大統領は自ら強調してきた法治主義さえないがしろにした。これは弾劾に値する」と述べた。同党の対日屈辱外交対策委員会に所属する議員10数人は、ソウル中心部・光化門広場で抗議活動を行った。

一方、「国民の力」の金起荽(キム・ギヒョン)代表は「日韓首脳会談は安保、経済危機の突破口となるものであり、さらには韓国の未来世代のための苦悩に満ちた決断」と述べた。

さらに「文在寅政権は5年間、竹槍ばかり突き出し、元徴用工への賠償問題を解決するために何もしなかった。無責任な反日扇動に惑わされる国民はいないということをはっきりと認識すべきだ」と指摘した。

同党の姜旻局(カン・ミングク)首席報道官は論評を出し「尹大統領の決断で日韓がともに繁栄する新時代が開かれた。会談は韓国が主導的に国際情勢を突破し、グローバルの中枢国家へと飛躍するという強烈な意思の表明」と明らかにした。

(ソウル新聞)