ロシアもう後がない? ついに最新戦車T-14をウクライナ至近へ配備した理由 ハッタリなのか?
2023年1月、ロシア最新戦車T-14がウクライナ国境近くに配置されていることを、英国防省が衛星画像で確認しました。しかし数はごくわずか。戦力的にほぼ貢献しそうにない同戦車が、あえて戦闘に投入されるかも知れない意味を推察します。
最新戦車T-14がウクライナ国境至近に出現
イギリス国防省は2023年1月19日、ロシアの最新戦車T-14「アルマータ」数両が同国南部の野戦演習場に所在すると発表しました。
これは、昨年(2022年)12月末にロシアの一部のメディアやジャーナリストが報じた、ウクライナの戦線背後の地域にロシア戦車T-14が配備されているという内容を裏付けるものです。なお、イギリス国防省の説明によると、この演習場は、昨年より始まったウクライナへの本格的な侵攻に際して、事前訓練などを行うために用いられた場所だといいます。
確かにT-14は最新鋭MBT(主力戦車)ですが、ロシア側の想像以上にウクライナが善戦を続けたことで、ロシアは苦戦が否めない状況に陥っています。そのようななか、ロシアにとって、T-14はゲームチェンジャーになり得るのでしょうか。また、もし本当に今になって実戦に投入するのなら、その目的はいったいどこにあるのか、そのあたりを筆者(白石光:戦史研究家)なりに考えてみました。
ロシアの戦車および装甲戦闘車両の改修や開発の計画は、2000年代初頭に至ると、多角化のせいで混乱が生じていました。そこで思い切った統合や整理が行われた結果、基本となる4つのプラットフォームに集約されます。このうちの重装軌車プラットフォームが「アルマータ」で、T-14はこれに含まれています。よって、「アルマータ」の愛称はT-14固有のものではなく、同じ重装軌車プラットフォームを用いるT-15歩兵戦闘車などにも付与されています。
計画通りに進んでいないT-14の調達状況
T-14の最大の特徴は、第3.5世代MBTとして、西側の最新戦車に勝るとも劣らない最新テクノロジーが盛り込まれている点です。ロシア最新鋭のため、細部を語り出すとキリがありませんが、最大の特徴は防御力の強化と乗員の生残性向上です。そのために砲塔は完全に無人化され、乗員3名が車体内に設けられた装甲カプセルに横並びで乗車する形を採っています。
これに付随して、旧ソ連とロシアが先鞭を付けた主砲の自動装填装置も最新のものが搭載され、砲塔上面にはリモコン式の機関銃や大型の全周旋回式視察装置などを備えています。
しかし予算上と技術上、双方の問題に加えて、必要な西側製部品の供給に関する問題などから生産計画に滞りが生じており、一般公開から8年近く経つものの、いまだ完成車両は20両程度なのではないかと言われています。おそらく、実際にはもっと多くの完成車両があると考えられますが、2016年にロシア国防省が契約した「2020年までにT-14の量産試作型100両を納車せよ」という要請は、達成されていない可能性が濃厚です。
このような状況のため、T-14の実用性や信頼性の確認はまだ不完全であり、だからこそ、演習場で衛星写真に捉えられたのでしょう。
そうだとしたら、なぜロシアは「お題目こそ立派ながら、まだ実力評価が終わっていない」T-14の実戦投入を考えているのでしょうか。
T-14投入は自国民向けのプロモーション戦略か?
まず考えられるのは、ウクライナとそれを支援する西側諸国への「ハッタリ」ですが、T-14が抱える問題点の解消が進まず、諸事情による量産の滞りも生じていることは西側に筒抜けなので、いまさら「ハッタリ」の効果はほとんど期待できません。
それどころか、「ロシアが最新鋭戦車を投入したので、われわれ西側諸国もそれに対抗できる最新MBTをどんどんウクライナに提供しよう」となったらヤブヘビです。実際、最新モデルではありませんが、ドイツ製「レオパルト2」やイギリス製「チャレンジャー2」といった重量級MBTのウクライナへの提供が取沙汰されているのは、周知のとおりです。
しかしここで注目すべきが、冒頭に記したように去年末、ロシアメディアがいち早くウクライナの戦線背後にT-14が配備されたと伝えたことです。
ロシアメディアが世界に先駆けて自国最新戦車の動向を報じたというのは、うがった見方をすると、ロシア政府としては最新鋭の国産MBTを投入するほど「虐げられしウクライナのロシア同胞」の救援に力を入れているのだから、国民も祖国の「崇高な努力」に協力してほしいという自国民向けのプロモーション戦略、つまりプロパガンダとしての発信なのではないかと捉えることもできなくもありません。
いずれにせよ今後、T-14が本当に実戦に投入され、先に無傷でウクライナに鹵獲(ろかく)されたロシアで2番目に新しいMBT、T-90M「プラルィヴ」のような事態が、同車にも起こるのかどうか興味深いところです。