2023年3月のダイヤ改正で、名鉄岐阜から各務原線・犬山線経由で名古屋方面へ走る「大回り列車」が無くなります。名鉄の複雑なダイヤを象徴する「迷列車」たちの消滅に惜しむ声が上がっています。

複雑怪奇なダイヤの宝庫

 2023年1月17日、名鉄が3月18日に実施するダイヤ改正の概要を発表。そのなかでファンに衝撃をもたらしたのは、「各務原線が名鉄岐阜〜犬山のみでの運転になり、名古屋方面への直通がなくなる」という内容でした。


名鉄各務原線を走る電車(画像:写真AC)。

 名鉄のダイヤは昔から複雑なことで知られます。一般の停車駅とは別に臨時の停車駅が不規則に設定される「特別停車」、逆パターンの「特別通過」、ひとつの列車が途中駅で「急行→普通→準急」などと何度も切り替わる「種別変更」など、枚挙にいとまがありません。

 そのなかで「迷ダイヤ」を象徴していたのが、名鉄岐阜を発着し、各務原線・犬山線を経由して名古屋方面へ直通していく長距離列車の存在でした。

 2023年1月時点で、名鉄岐阜発の「犬山経由」の列車は、以下が残っています。

【6時台】
●普通、新鵜沼から急行、新安城から普通、吉良吉田行き
●急行、名古屋から普通、鳴海から急行、吉良吉田行き
●普通、名古屋から急行、豊橋行き
●快速急行、名古屋から急行、河和行き
●普通、新鵜沼から急行、新安城から準急、国府行き
●普通、新鵜沼から急行、名古屋から準急、新安城から普通、東岡崎行き
●普通、新鵜沼から快速急行、名古屋から急行、内海行き
【7時台】
●急行鳴海行き
●普通、新鵜沼から急行、内海行き
●普通、新鵜沼から急行、鳴海行き
●普通、新鵜沼から急行、知多半田行き
【8時台】
●普通、新鵜沼から準急、中部国際空港行き
●普通、新鵜沼から急行、内海行き
●普通、新鵜沼から準急、中部国際空港行き
●普通、新鵜沼から急行、河和行き

 特に目を引くのは6時45分発の「普通→急行→準急→普通」と4段階に種別変更する列車。しかも新安城を出るとすぐ終点の東岡崎で、あいだの3駅に停車したいがための種別変更という「きめ細やかさ」です。

 もちろん名鉄岐阜から名古屋・豊橋方面へは、名古屋本線がまっすぐむすんでいます。わざわざ犬山回りで名古屋以遠へ行く乗客は極めて少ないと思われますが、ひとつの列車として存続させている鉄道旅情が魅力となっていました。

「ずっと一緒だよ」数分差で付かず離れずの2列車

 さらにこの中でも特異なのが、6時16分発(急行・吉良吉田行き)と6時18分発(普通・豊橋行き)の2列車。わずか2分差で名鉄岐阜駅を発車し各務原線を走っていきます。

 最初は先行の急行がどんどん後続を引き離していきますが、名古屋で種別が逆転。名鉄名古屋7時28分発(普通・吉良吉田行き)に7時36分発(急行・豊橋行き)が次第に追い付いていき、鳴海でついに追い抜いてしまいます。

 そのまま豊橋行きが逃げ切るかと思いきや、新安城で吉良吉田行きを待ちます。吉良吉田行きは鳴海で再び急行へチェンジし、さらに後ろ4両を「普通豊明行き」として切り離し身軽になり、新安城で再び追い付きます。

 新安城で再会した「急行と急行」は、一方は名古屋本線で豊橋へ、もう一方は西尾線で吉良吉田へと向かっていきます。これだけで一本の小説が書けそうな、ドラマチックなダイヤです。

 3月のダイヤ改正で各務原線の列車は犬山までとなり、この岐阜発のドラマは無くなってしまいます。では、犬山発として、この仲良し2列車は存続するのでしょうか。名古屋鉄道に尋ねたところ、「個別の列車についてはまだ発表できないのですが」と前置きしたうえで、「今回ダイヤ改正の対象となる線区以外では、基本的に大きな変更はないものと考えています」として、ランデブー運行の"区間短縮による存続"に含みを持たせていました。

「大回り直通」廃止に至った背景は

 数々の「迷列車」に別れを告げる、各務原線の犬山以遠の直通廃止。名古屋鉄道はこの決定の背景について「各務原線の利用状況などをふまえ、ワンマン運転を導入することにしました。それに伴い各務原線の車両はワンマン運転に対応した設備となりますが、ワンマン化していない線区でその車両を運用することが難しいため、直通をやめざるを得ませんでした」としています。

 ネット上では「意味もなく岐阜から延々と乗ったことがある」「岐阜行きが来たので乗ったら、犬山経由の大回りだった思い出」「吉良吉田行きだと思って乗ったら、西尾線に行かなかった思い出」「名鉄のカオスの象徴が消えるのは寂しい」と、思い返して惜しむ声が見られます。

 ちなみに各務原線の「ワンマン運転による急行」については、名古屋鉄道は「ありません。各務原線は普通のみの運行となります」とのことでした。