by Tom Warren

2022年10月にTwitterを買収し新CEOになったイーロン・マスク氏は、大規模なレイオフを実施した上で、従業員に「ハードコア」に働くことを要求しました。この方針にはついていけず脱落する人が多数発生し、さすがに方針転換でリモートワークが認められ一部従業員を慰留することになりましたが、マスク氏が破壊的リーダーシップをふるってTwitterをむちゃくちゃにしていると従業員・元従業員が告発しています。



Inside Elon Musk’s “extremely hardcore” Twitter - The Verge

https://www.theverge.com/23551060/elon-musk-twitter-takeover-layoffs-workplace-salute-emoji

イーロン・マスク氏がTwitterを正式に買収する2日前の2022年10月26日に、マスク氏に対してコアインフラストラクチャーの機能を概説する機会があったエンジニアのアリシア氏によると、マスク氏は眠たそうな態度で、質問してきた内容は「Twitterはデータセンターにどれぐらいの費用を費やしているのですか?」「なぜ、すべてがそんなに高価なのですか?」とお金にまつわることばかりだったとのこと。

アリシア氏らは、マスク氏が買おうとしているものをわかってもらおうとしたものの通じず、「そういう考えなら、お金のことを伝えよう」と、Twitterのデータセンターの効率性に関する技術的な説明に切り替えたのですが、途中でマスク氏に「私は90年代にC言語のプログラムを書いていました。コンピューターの仕組みは理解しています」と遮られてしまったそうです。

アリシア氏は、他の同僚とは違ってマスク氏のアンチというわけではなく、また、Twitterの会社構造が信じられないほど非効率的なものであることを認識していたため、自身の高度な技術的仕事を助けてくれるのではないかと期待していたのですが、いざマスク氏から告げられたのは動画サービスの開始だったとのこと。

2022年10月28日にマスク氏がTwitterを正式に買収すると、社内エンジニアには「過去30日間に作成したコードを50ページ印刷して、マスク氏に見せる準備をするように」という指示がありました。この指示は突然のもので、しかも社内のプリンターはパンデミック期間中使われていなかったため、エンジニアたちはパニック状態に陥ったそうです。バックエンドエンジニアであるアリシア氏もマスク氏とのミーティング予定が組まれ、数行のPythonのコードを印刷して準備していたそうですが、最終的にミーティングは延期されたのちキャンセルされ、コードをマスク氏に見せる機会はなかったとのこと。アリシア氏は取材に対し、「残念です。とても楽しみにしていたのですが」と笑いながら語ったとのことです。

マスク氏には「Twitterは少数精鋭のエンジニアで運営可能」という算段があり、サイト運営維持に必要な従業員とそうではない従業員を分けるためにコードレビューを行いたかったようですが、不発に終わりました。その後、人員選別は、上司に「ランク付け」をさせる方針に変更されましたが、この方法には「それぞれのランク付けの基準がバラバラ」という問題があり、結局、マスク氏の部下で、従業員からは「Goons(チンピラ)」と呼ばれていたスリラム・クリシュナン氏が各チームのマネージャーやチーフに「あなたのチームで最も優秀なのは誰?技術があるのは誰?批判的なのは誰?」と深夜に電話してくるようになったそうです。

結局、従業員らはただちにクビになるか、マスク氏が推進するプロジェクトに配置されるかの2択を待つだけになり、しかも当時、日々変更されるリリーススケジュールの締め切りに間に合わないと即座にクビという状態になっていたとのこと。The Vergeはこの状況を「一部の(辞めたい)人にとっては望ましいものだった」と表現しています。

大量レイオフは2022年11月3日に行われ、朝までに全体の50%、3000人以上が失職しました。連邦労働法違反を避けるため、レイオフされた従業員には2カ月分の給与が支払われる代わりに、社内システムへのアクセスはただちに切断されることになっていましたが、この措置もきっちりは行われず、中にはレイオフされてから1カ月単位で社内の重要システムに残り続けていた従業員もいたそうです。

混乱の中で進められたのが、月額1200円で認証済みバッジが手に入る、新生Twitter Blueです。

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The Vergeによれば、これを推進したのはプロダクトマネージャーのエッシャー・クロフォード氏。マスク氏によるTwitter買収以前から「クリエイターがTwitterアカウントから収益を得られるようにする製品」と「ユーザーがプロフィールにNFTを表示できるようにする製品」に注力していたクロフォード氏は、マスク氏がTwitterに来た初日にサービス改善手段を売り込み、かつて他に2人のリーダーがいたTwitter Blueを任されたとのこと。

泊まり込みで働く姿を写真付きでツイートしたクロフォード氏。



しかし、新生Twitter Blueは開始と同時になりすましが多発。その結果、Twitter Blue再開はリスクが高いと警告していた信頼&安全チームの責任者であるヨエル・ロス氏が解雇されました。

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新生Twitter Blueは、Twitterの収益の柱を広告からサブスクリプションに移すことを目的としたものでしたが、広告主の大量離脱を招くものとなり、The Vergeは「マスク氏の失敗が深い傷を残した」と記しています。Twitterは広告主獲得のために数十万ドル(数千万円)規模の無料広告枠を提供したものの、失敗しています。

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2022年11月10日、マスク氏は全従業員を集めて事業の実態を率直に伝え、さらに多くの人員整理があることを示唆しました。そして「希望した従業員は全員、リモート勤務の自由がある」という約束を取り消し、「全員がもっとハードコアになる必要がある」と述べました。

これには心を折られた人が多く、前出のアリシア氏も「オフィスで働くのは楽しいけれど、それを強制することは不道徳だと思う」と感じたとのこと。ただ、アリシア氏はSlackやTwitterでは「辞めない」と表明。すると、5日後に「会社の方針に違反した」として解雇されたそうです。あまりにも離職者が出たため、リモートワーク禁止の方針は変更されています。

なおも残った従業員は2900名いて、マスク氏は前述の「ハードコア」発言をなぞる形で「残った従業員はハードコアに、高強度で長時間働く必要がある」と語りましたが、必ずしも残った従業員たちはTwitterへの忠誠心の高さゆえに残ったわけではなかったため、数百人がマスク氏の求めた誓約書への署名を拒否して離脱。

マスク氏は結局、Twitter買収の損失を埋めるためにテスラ株を多数売却。「マスク氏はテスラへの興味を失っているのではないか」という不安要素になった結果、テスラ株は2022年だけで69%下落し、マスク氏の個人資産は27兆円ほど減少したとみられます。

イーロン・マスクの個人資産は推定45兆円から18兆円に下落し富豪ランキング2位に後退、テスラ株は2022年全体で69%も下落 - GIGAZINE



The Vergeは、Twitterが安定して最小限の人数で運営できていることについて「ある意味でマスク氏は正しかった」と表現しつつ、「Twitterが世界で最も影響力のあるSNSの1つに上り詰めた企業文化や、プラットフォームを安全に保つためのポリシー、毎日ツイートするユーザーの信頼、ニュース速報、おかしなジョーク……Twitterの真の価値や世界への貢献。マスク氏は、自分が実際のところ何を壊したのか気付いていないのではないでしょうか」と指摘しています。