ついにプロポーズされ義両親との顔合わせまで漕ぎつけたのに…。彼の母親を見た瞬間、女が絶句したワケ
「2人は、幸せに暮らしました。めでたし、めでたし」
…本当に、そうでしょうか？
今宵、その先を語りましょう。
これは「めでたし、めでたし」から始まる、ほろ苦いラブ・ストーリー。
▶前回：交際前の彼女を部屋に連れ込もうとしたら、玄関の前まで来て「やっぱり帰る」とポツリ。一体、なぜ…？
Episode11：運命に翻弄される女
「亜由子。3日早いけど、お誕生日おめでとう。それとこれ」
六本木の『フィリップ・ミル東京』で恋人の奏多が、12本のバラと小さな箱を私の前に差し出してきた。箱の中には、私の誕生石であるサファイアのリングが入っている。
その言葉に思わず涙が溢れる。29歳になる誕生日の3日前。彼にとうとうプロポーズされたのだ。
「嬉しい…！ありがとう奏多」
「俺のほうこそ、いつも支えてくれてありがとう」
― でもなんで、誕生日の3日前にプロポーズ…？当日も一緒に過ごす予定なのに。
「ねえ。なんで今日、プロポーズしてくれたの？」
「あぁ、今日が一番“いい日”だからだよ」
時々、奏多は不思議なことを言う。「南の方角へデートに行こう」とか「亜由子は赤いものを身に着けるといい」などと、真剣な顔で言ってくるのだ。
「それでさ、亜由子。今度うちの両親にも会ってほしい」
「もちろん！まだ奏多のご両親に挨拶してなかったもんね」
奏多のお父さんは、名古屋で芸能プロダクションを経営している。そして彼のお兄さんが、いずれ後継者となることが決まっているのだという。
「実は、さ…。僕との結婚には、1つ条件があるんだ。両親に会ったらわかると思うけど、それも受け止めてほしい」
そう言って奏多はうつむく。次男である彼は商社に勤めていて、今後実家を継ぐ必要もないはずだ。
でも御曹司との結婚に、困難はつきものだと聞く。昔読んだ恋愛指南書にも“お坊ちゃまとの結婚＝姑問題を受け入れること”と記されていた。
― もしかして、お母さんが変わった人なのかも。
私は呑気にそんなことを考えていた。…この後、想像を絶する展開になるとは知らずに。
「き、緊張する…」
奏多のご両親との食事会は、ザ・リッツ・カールトン東京の『タワーズ』で行われた。地元からわざわざ上京してくる両親のために、彼がお店とホテルの部屋を手配したのだ。
「大丈夫だよ。絶対、亜由子のこと気に入ると思うから。…あ、来た！」
奏多が大きく手を振る。私は彼の視線の先にいる1人の女性を見て、絶句してしまった。
「えっ！？あ、あれがお母さん…？」
なんとそこには全身ピンクのファッションを身にまとった、やや様子のおかしい女性が立っていたのだ。
「…そうだよ。ピンクがラッキーカラーなんだ」
奏多がそう耳打ちしてくる。すると目の前の女性は私に見向きもせず、こう叫んだ。
「キャー！東京タワーがばっちり見えるじゃないの！写メ写メ！」
そう言ってパシャパシャと写真を撮り始めたので、私は呆気に取られてしまった。すると彼女の横にいた男性が深々と頭を下げてきたので、私はようやく我に返る。
「初めまして。奏多の父の、藤村泰三です。いつも奏多がお世話になってます」
「こ、こちらこそお世話になっております…！私、奏多さんとお付き合いさせて頂いている桜井亜由子です」
「…下の名前、漢字で書くとどういう字なのかな」
そう聞かれ、ポケットから取り出した手帳に名前を書くよう促される。慌てて記した私の名前を見つめ、彼は「いい名前だね」とつぶやいた。
すると先ほどまで写真を撮っていた奏多のお母さんも、ようやく話しかけてきた。
「初めまして亜由子さん。お話は聞いてますよ。私、奏多の母の藤村藤子です。『藤子ちゃん』でいいからね。よろしくねえ〜」
◆
「へえ、2人は街コンで出会ったのか。イマドキだな」
1時間後。お酒が入ってすっかりいい気分になったらしい彼のお父さんは、満足げに笑っていた。どうやら私は、ご両親に無事気に入ってもらえたらしい。
お父さんの趣味が映画鑑賞だと聞いていたので、有名な作品を片っ端から見ておいたのが功を奏したのだ。…しかし1つだけ、気になる発言があった。
「奏多が結婚前提の子を連れてくるのは3回目だが、亜由子さんが一番素敵だ」
彼はハッキリと、そう言ったのだ。
― えっ。奏多は、私以外にも結婚を考えた相手がいたってこと？
そうモヤモヤと考え込んでいると、いきなり藤子さんからこんなことを聞かれた。
「ねぇ。亜由子さん、インスタやってる？」
「…は、はい！」
「相互フォローしましょ！私のアカウントから、きっとあなたにも有益な情報が見つかるわ」
そう言って彼女は、バサバサと音がしそうなほど長いつけまつげをつけた目で、こちらをジッと見つめてきた。
「奏多、素敵な子に出会えてよかったわね。それじゃあ、さっそくお願いしようかしら…」
そしてその場でいきなり、電話をかけ始めたのだ。
翌日。さっそく藤子さんから、Instagramのフォローリクエストが届いた。
彼女のインスタに飛ぶと『アラカンおしゃれ番長★藤村藤子』というアカウント名で、ファッションや食事、パーソナルカラーなどについてアップしているようだった。
フォロワーはなんと、4.2万人。昨夜撮影していた東京タワーの写真も、しっかり投稿されている。
「母さん、亜由子のことかなり気に入ったみたいだな」
そう言って奏多が、嬉しそうに私のスマホを覗き込んでくる。
「よかった。じゃあ結婚の条件、クリアできたってことだね…！」
私は思わず笑顔になり、彼に抱き着いてそう言った。すると奏多の表情が、一気に曇ったのだ。
「いや、その…。結婚の条件をクリアするのは、これからなんだ」
◆
数日後。藤子さんが突然、見知らぬ男性を連れて同棲中のタワマンにやって来た。グレーのスクラブに身を包んだその彼は、独特な雰囲気を醸し出している。
「亜由子さん。この方は藤村家の専属整体師である、JUN先生です」
「…専属の、整体師？」
動揺しつつ救いを求めるように奏多の方を見ると、彼は緊張した面持ちで小さくうなずいた。
「では、失礼いたします」
そう言うと彼は、いきなり私の肩に触れてきたのだ。
「見えました！」
突然カッと目を見開いた彼に、私はビクッと驚く。しかし藤子さんは動じることなく「どうでした…？」と声をかけた。
「結婚を認めます。あなたたちの入籍日は、2年後の3月4日です」
その言葉に藤子さんは、奏多の手をギュッと握って「よかったわね！JUN先生に結婚を認めてもらえたわ！」と歓喜の声をあげたのだ。
何も理解していない私は、動揺したまま藤子さんに問いかける。
「え、ちょっと待ってください。私たち来月には入籍予定だったんですけど…。2年待て、ということですか？」
「当然でしょ！ようやく先生に結婚の許可をいただいたんだから。そもそも、先生の言うことは絶対よ。奏多がプロポーズした日も、JUN先生のお導きで…」
奏多と藤子さんは、手を取り合って喜んでいる。私は状況を受け入れることができず、ただ茫然とその場に立ち尽くすのだった。
▶前回：交際前の彼女を部屋に連れ込もうとしたら、玄関の前まで来て「やっぱり帰る」とポツリ。一体、なぜ…？
▶1話目はこちら：絶対に家へ招いてくれない彼。不審に思った女が、自宅に突撃した結果…
▶NEXT：12月27日 火曜更新予定
結婚式の最中。目の前に現れた初恋の人が、いきなり差し出してきたモノとは？
