ドイツ連邦議会が最新戦闘機F-35Aの調達を承認しました。これによりドイツ空軍もステルス戦闘機の運用を開始するとのこと。ただ、導入までには紆余曲折があったそう。転機となったのはロシアによるウクライナ侵攻でした。

ロシアのウクライナ侵攻で見直された「トーネード」後継機

 ドイツ連邦議会の予算委員会は2022年12月14日、同国空軍が求めていたF-35A「ライトニングII」ステルス戦闘機の調達資金を承認しました。

 ドイツ空軍では、長年運用してきた「トーネード」攻撃機の後継機として、今年(2022年)3月にF-35Aの導入が決まっています。今回、連邦議会がそのための資金を承認したことで、計画はより具体的になる模様です。


ドイツ空軍に配備される予定のF-35A「ライトニングII」戦闘機(画像:ロッキード・マーチン)。

 購入機数は35機で、予算規模は83億ユーロ(日本円で約1兆2000億円)にもなりますが、これには機体価格だけでなく、エンジンやスペア部品、支援機材や搭載兵器の購入費、訓練や技術支援コストなども含まれているそう。アメリカ政府が窓口となる対外有償軍事援助(FMS)でドイツへ輸出され、海外の報道によると2026年には最初の8機が引き渡される予定だといいます。

 ただ、この予算承認に至るまでにはドイツの国内事情から紆余曲折がありました。同国は過去、F-35の購入を一度見送ったことがあり、そのときはアメリカへの防衛リソースの過度な依存を避けるためにフランス、スペインと共同で「FCAS」と呼ばれる次世代戦闘機の開発計画を進めています。

 その計画では、老朽化する「トーネード」の代わりは、「FCAS」完成まで中継ぎとしてF/A-18E/F「スーパーホーネット」と、自国も生産に関わっているユーロファイター「タイフーン」という2種類の戦闘機を追加導入することで対処する予定でした。

 しかし、今年(2022年)2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻により、安全保障に関する状況は一変。ロシアの現実的な脅威に対応するため、ドイツ国防費は前年(2021年)と比べて2倍以上となる総額1000億ユーロ(約14兆4466億)にまで増額されました。

 これにより余裕が生まれたことで、F/A-18E/F「スーパーホーネット」の導入計画は反故にされ、「FCAS」の開発は進めつつも、現時点でステルス戦闘機として直ちに導入可能なF-35Aが再度選定されることとなりました。

ドイツ国防戦略では核攻撃も担当

 また、「トーネード」の後継機導入では、この機体が現在担っている核攻撃任務の引き継ぎも課題となっていました。NATO(北大西洋条約機構)に加盟しているドイツは、核共有(ニュークリア・シェアリング)によって国内にアメリカの核兵器が配備されています。安全保障上の非常事態においてはドイツ空軍の戦闘機はそれらを使用することが定められており、「トーネード」攻撃機はドイツ空軍機の中で唯一、その役割が与えられていたのです。

 当然、後継となる新型機にも同様の能力が求められるため、選択肢としては核兵器搭載できる(もしくは改修が可能)なアメリカ製戦闘機を選ぶか、別の機体を選定するなら、その場合は新しく核兵器運用能力を付与する必要がありました。

 だからこそ、当初は核兵器の運用能力を有するアメリカ製の空母艦載機、F/A-18E/F「スーパーホーネット」が候補となったといえますが、前述したような状況から最終的には、より高性能なステルス機のF-35Aが選ばれたといえるでしょう。


ドイツ空軍に配備される予定のF-35A「ライトニングII」戦闘機(画像:ロッキード・マーチン)

 F-35Aは第5世代戦闘機として非常に優秀な戦闘機ですが、メリットはそれだけではありません。この機体はすでにヨーロッパ地域ではイギリスやイタリアなど9か国で配備もしくは導入が予定されています。NATOを基軸とする多国間での安全保障政策が基本となるヨーロッパでは、同じ装備品を使うことは共同任務などの運用面はもちろんのこと、ノウハウの共有など様々な利点もあります。

 同様のメリットは日本の航空自衛隊にもいえ、2022年9月にドイツ空軍のユーロファイター戦闘機が茨城県の百里基地に初飛来した際には、派遣部隊の指揮を執ったドイツ空軍総監ゲルハルツ中将が会見において「我が国よりも先にF-35を導入して運用している航空自衛隊の知見が学べると考えています」といった趣旨の発言をしています。

 今回のドイツ空軍のF-35Aの導入は、空軍としての戦力向上だけでなく、国際間の防衛協力にも影響を与える大きな出来事だといえるでしょう。