“女だらけのゴルフコンペ”は、実は出会いの場。主催者も参加者にもある思惑があって…
空前のゴルフブームが到来している今、ゴルフは男女の出会いの場としても有効だ。
30歳を目前に、いい出会いがなく焦りを感じていた森脇那月（29）も、ゴルフを始めたが…。
東京のゴルフコミュニティーに、ヒエラルキーが存在することを知る。
同じ思惑を抱く女性たちが集うこのコミュニティーで、那月は最後まで勝ち抜き、理想の男性を捕まえることはできるのか―。
◆これまでのあらすじ
▶前回：「何考えてるの？」2ヶ月間ほぼ毎週デートしているのに、進展なし。曖昧な男の本心とは
Vol.4 ゴルフ女子の裏事情
土曜日の朝。
今日は、ゴルフ雑誌の編集長から誘われた「女性限定のゴルフコンペ」の日だ。
“女性限定”なので、大輝さんのお迎えがない。
事前にゴルフ場にクラブを郵送したので、私は、電車で『霞ヶ浦国際ゴルフコース』に向かうことにした。
早朝から、電車を乗り継ぎ、遠くのゴルフ場までひとりで赴く自分がどこか惨めに感じた。
― 少し前までは、週末にひとり行動なんて当たり前だったはずなのにな…。
ロビーに到着すると、『#アゲアゲゴルフガールズ』と書かれた看板と、パステルカラーのバルーンで飾られたコンペの受付が目に飛び込んできた。
今日のコンペは、ゴルフ雑誌とゴルフクラブメーカーが合同で主催している。
インスタで影響力のあるゴルフ女子たちに無料参加してもらい、企業や商品のプロモーションをすることが目的のようだ。
飛距離とスコアが上がるクラブのプロモーションという意味で、“アゲアゲ”という名称がついているようだが、正直あまりイケていない。
受付を済ませ、華やかな女性たちが並ぶ列の最後尾に並ぶと、甘い香水の匂いが鼻にまとわりつく。
― なんか、キラキラじゃなくて、ギラギラしてる…。
列に並ぶ女性たちの様子をうかがいながら、受付で事前に伝えていたサイズのウェアを受け取る。
ロッカールームに移動すると、これまで見たことのない異様な空間が広がっていた。
20〜30代の女性たちの甲高い声で「そのウェア可愛い！」などとお互いを褒め合っている。
すでに交流があるメンバーが多いのだろうか。一緒に寄り添って、過剰な枚数の写真を撮っている。そんな様子を横目に、私は、隠れるように着替え始めた。
「あれ〜初めて見る子だ！」
私が鏡の前で身支度を整えていると、『CHANEL』のロゴピアスをしたスラッとした美女が、私に声を掛けてきた。
「よろしくね！インスタ教えて！」
こちらが言葉を発する間もなく、アカウントをスマホ越しに見せられ、彼女の勢いに押されるように、お互いにその場でフォローし合う。
プレーの邪魔になりそうなほど、ラメでキラキラしている長い爪でスマホを触っている彼女。
「へえ、那月ちゃんっていうのね、よろしくね」
目の前にいる私ではなく、インスタ越しにじろじろと見定められているような気がして、なんだか居心地が悪かった。
ティーオフ
今日はウェアだけではなく、スポンサー支給のゴルフクラブを使ってコースを回る。
参加者がインスタに上げるだけではなく、プレーをしている姿を撮影して、ゴルフクラブのプロモーションにも使用するらしい。
そのため、プロのヘアメイクさんも帯同しており、プレー前に参加者全員にメイクもしてくれる。
私もそれなりに映えるようにメイクしてもらい、テンションが上がる。
― なんだかモデルになったみたい！
コースに出ると、スタート地点にも『#アゲアゲゴルフガールズ』と書かれたパネルとバルーンが置かれており、撮影用のスポットなどがしっかり用意されている。
まさに、インフルエンサー向けのイベント、という感じだ。
「あっ！お久しぶりです〜！」
主催のゴルフ雑誌の男性編集長や、ゴルフクラブメーカーの関係者たちが顔を出すと、参加女性たちが一斉に駆け寄る。
そして、我先にとアピール合戦を始めた。
「楽しみにしていた」「ウェアが可愛い」だの、先ほどからお得意の、本心かどうかわからない褒め言葉を笑顔で発し続けている。
私は、ぽつんと取り残された。
いよいよプレーがスタートした。
みんなとびきり美人なうえに、ゴルフもうまいことに驚く。
このペースだと、90台前半ペース…人によっては90を切るレベルだ。
「那月ちゃんは、お仕事なにしてるの〜？」
「会社員です。美容系のコンサルをやってて」
「あーなんかわかる！バリバリ働いている感じするもんね。私たちとは全然違う〜！」
自分たちとは違う、という印象を語る彼女に私も同意だった。
さっきから、いろんな意味で、私は場違いな気がしていたから。
私は、こっそりスマホを開き、ロッカールームでインスタをフォローした女性たちをチェックする。
― ネイルサロンのオーナーに、自称モデルねぇ…。
ゴルフに通ったり、高価なブランド物のバッグやアクセサリーを購入するお金がどこから捻出されているのか疑問だった。
それに、みんなやたら顔が広い。私は、不思議に思って、尋ねてみた。
「編集部長とか主催の人たちに挨拶してたけど、もともと知り合いなの？」
「そうそう！よくゴルフに連れてってもらってるの。こういう場に来て、気に入ってもらえると、またプライベートでもいろんなところ連れて行ってもらえるからね」
そして、彼女は小さな声で囁いた。
「ほら、ゴルフってお金かかるからね。うまく繋がっておくと色々得するのよ。“かわいい”は、うまく使わないとね！」
彼女たちのいる“一軍ゴルフ女子”の世界は、私が憧れていた世界とは違っていた。
仕事にもプライドを持って、しっかりと稼いで自立し、忙しい中でもゴルフに情熱を捧げているエリナ。彼女のように、ひとりの女性として憧れを抱くような人は、ここにはいない。
― 私は、この子たちとは一緒じゃないし、こうなりたい訳じゃない。
彼女たちは、“女の武器”を使って世渡りするために、ゴルフを利用している。
そんな彼女たちの本心を知った途端、支給されたウェアやクラブで着飾ってゴルフをしている自分が、急に着せ替え人形のように思えてきた。
― 男性たちに消費されている気分だわ…。
それでも、ゴルフをするのは純粋に楽しい。
だから私は、今はただゴルフに集中をしようと、クラブを振り続けた。
そのおかげか、私は、スコア98を叩き出した。ついに100を切ったのだ。
周りの参加者たちが更にいいスコアだったのは、悔しかったが、記念すべき100切りは達成感がある。
帰り道の電車で大輝さんに報告すると、すぐに返事がきた。
『大輝：100切りおめでとう！お祝いの食事はなににしようか？』
煮え切らない態度の彼
夕方、お祝いと言って大輝さんが予約してくれた、乃木坂『リストランテ ダ ニーノ』に向かった。
― いい加減、私たちの関係をはっきりさせなきゃ。
これまでの恋愛は、自分から積極的にアプローチをしてきた。
だから、いざ交際が始まると、相手が優位な立場になってしまうことが多かった。
私だけが好きになってしまっているような気がして、結果うまくいかなかった…。
だから次は、相手を間違いたくもないし、いいなと思った人に積極的にアプローチしすぎて、逃したくもない。
そう思うと、今度は自分が慎重になり過ぎている。大輝さんに対しても…。
といっても、進展しないのは、こんなにデートしているのに煮え切らない態度の彼にも、責任があるように思う。
そんなことを考えていると、あっという間に店に着いた。
大輝はすでに席で待っていて、笑顔で迎えてくれた。
シチリアの雰囲気を演出する可愛らしい店内だが、壁には高級ワイン『サッシカイア』がずらりと並び、高級店であることをうかがわせる。
慣れたように、コースとボトルワインを頼む大輝。
「ここ、来たことあるの？」
「一度だけね」
― 誰と？
と聞きかけたが、私は言葉を飲み込む。
「…大輝さんは、どうして私と会ってるの？」
「急にどうしたの？」
「だって忙しいのに、たくさん時間を取ってくれるの、どうしてだろう、と思って…」
少しずつ探ろうと思っていたのに、これでは、こちらに好意があると伝わってしまったかもしれない。
それに返答次第では、このあとの食事が進まなくなりそうな、核心をつきかねない質問をしてしまったことに、一瞬後悔する。
「うーん、理由って難しいな」
「それって、特に理由がないってこと？」
「会いたいと思うから誘う、って…それじゃ答えになってないかな？」
相変わらず煮え切らない。
これ以上問いかけても、納得のできる答えは返ってこない気がした。
大輝は極めつきに、こう言った。
「この距離感が、ちょうどいいんだよね」
― それって、これ以上関係を進める気がないってこと！？
言い返す言葉が見つからず、私は、うつむいてスマホを見る。
Instagramを開き、今日のコンペで知り合った自称モデル女子のDMを確認する。
『来週タワマンで食事会があるんだけど。若手社長とかゴルフ好きのイケメンもたくさん来る予定！那月ちゃんもどう〜？』
大輝さんのことが好きだ。
でも、彼の中途半端な様子を見ていたら、彼を好きな気持ちを捨てる必要はないが、もっといろんな人を見てみてもいいのかもしれないと思った。
向かいに座っている大輝さんをちらりと見ながら『行きます！』と返事を送った。
▶前回：「何考えてるの？」2ヶ月間ほぼ毎週デートしているのに、進展なし。曖昧な男の本心とは
▶1話目はこちら：「イイ男がいない」と嘆く29歳女が見つけた、最高の出会いの場とは
▶Next：12月24日 土曜更新予定
港区のタワマンパーティーに、いい出会いはあるのか？そして大輝から連絡がきて…？
