東京では狭い住宅街をゆくバス路線が多くありますが、なかには、極めて狭い車幅制限1.7mの道路を特例的に通るものもあります。小型バスでも運行が難しい狭隘な住宅街を行くバスは、住民の強い要望によって誕生したものです。

車幅制限1.7mの標識に「コミュニティバス除く」

 通行できる車両の最大幅「1.7m」と記載された標識の下に、「コミュニティバス除く」の補助標識――そんな「バス路線」が東京に存在します。


野川・七軒家循環、第二中学校東バス停付近。車幅1.7m制限道路がバスルート(乗りものニュース編集部撮影)

 車幅1.7mはコンパクトカーなど、いわゆる5ナンバーサイズのクルマが該当し、それ以上のクルマは走れないという場所です。そこにバスが通るなど、にわかに想像しがたい狭さ、なおかつ一方通行ではなく双方向通行路です。

 標識があるのは、JR中央線 武蔵小金井駅から直線距離で800mほど南東、野川に近い住宅街です。小金井市コミュニティバス「CoCoバスmini 野川・七軒家循環」が運行されています。

 CoCoバスは4路線が小型バス「ポンチョ」で運行されていますが、「mini」がつく野川・七軒家循環だけは、ワゴン車(ハイエース)が使われます。武蔵小金井駅南口から野川付近の住宅街を一筆書きで8の字を描くように循環し、出発地と同じ駅へ戻る所要20分強の路線です。ただ、そのルートは大部分が、「ポンチョではとても無理」(市交通対策課)といわせるほど狭隘です。

“ハイエースの路線バス”は、地方では見られるものの、人口の多い都内では珍しい存在といえるでしょう。なぜ、そこまでしてバスを通したのでしょうか。

車幅制限1.7mの標識に「コミュニティバス除く」

 小金井市の中央線より南側は、野川が形成した国分寺崖線、地元で “はけ”と呼ばれる急坂の地形が特徴で、CoCoバスminiはその“坂下”と呼ばれる地域を循環しています。駅まで比較的近いうえ、近くに一般的なバス路線もあるものの、それらを利用するには急坂を上らなくてはなりません。

「坂下地域は住宅街のため商店などもありません。地域の高齢化が進むなか、『なんとかバスを通してほしい』という強い要望から生まれました」(市交通対策課)

 1.7m車幅制限のルートも警察と協議したうえで許可を取り付け、2008(平成20)年にハイエースのコミュニティバスとして野川・七軒家循環が誕生。主に、住民の生活の足として利用されているそうです。

 日中およそ30分間隔で運行されていますが、立席乗車が不可のため、旅客定員はポンチョの3分の1以下と少なく、積み残しも発生している状況だそうです。2021年に車両を入れ替え、定員を10人から12人に増やしたことで多少は改善されたとか。


ポンチョで運行されるCoCoバス(乗りものニュース編集部撮影)。

 CoCoバスは現在、各路線のルート変更を含む再編計画が練られていますが、野川・七軒家循環は運行ルートがかなり限られることもあり、変更はないそうです。沿線には、戦後の人気洋画家、中村研一の邸宅にできた「中村研一記念小金井市立はけの森美術館」などもあり、周辺散策も楽しめます。