小4からリストカットを始めて18歳でAV女優に…心を閉ざした少女から本音を引き出した"大胆なひと言"
※本稿は、中村淳彦『悪魔の傾聴』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
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■相手が泣き始めたら必ず理由を聞くべき
悪魔の傾聴をしていると、相手が泣きだしてしまうことがたまにあります。おそらく言葉にする前に、その自分自身に起こった事象を思いだして泣いてしまった、という状況です。
突然、相手に泣かれると、聞き手には理由がわかりません。自分がなにかしたのか、自分のせいなのかと不安になります。結論からいうと、相手が泣いている理由がわからないとき、狼狽しないで「なぜ泣いているのか?」を聞きましょう。具体例を挙げます。
ある人気AV女優のインタビューのとき、彼女は突然泣きだしました。状況的に泣いてしまう要素はなく、理由がさっぱりわかりません。「どうして泣いているの?」語りは中断、沈黙となりました。しばらく様子を眺めてから、そう質問します。彼女はハンカチで何度も涙を拭いて、息を整えて再び語りだしました。
「ずっと、いい子でいないといけないって思い込んでいました。あまり、わがままとか言えなくて。『お姉ちゃんだから、しっかりしなさい』って、ずっとそう言われて育ちました。親とかまわりの期待に必死に応えようとして、地域や学校でもいいお姉ちゃんの優等生って思われていて、ずっと自分の考えを人に言うってことがなかった」
清楚(せいそ)な雰囲気から育ちのよさは想像していました。親の過干渉や大人の期待などに縛られて育ち、大人になってから反動で爆発した、みたいなことはAV女優からよくでてくる「裸になる理由」です。彼女に反抗期はなく、ずっと親の言うまま進路を決めていました。就職先も親が決め、遊ぶことも一切しなかったようです。
社会人になって、給与だけでは自分の生活を支えられなくなったことがキッカケで水商売の仕事をはじめます。それが親の言うまま生きてきた自分を変えるキッカケになった、という話でした。
■沈黙を恐れて話しすぎてはいけない
突然の涙は、過去に自分を抑え込んでいた負の感情が大きいことが理由でした。聞き手は相手がどんな状況になっても、冷静に状況を判断しながら語りを継続させなければなりません。泣いている理由がわからなければ、「どうして泣いているの?」と率直に問いかけるだけでいいのです。
このケースは涙が先行して、泣いている理由がわかりませんでした。しかし、悲しいことを語りながら泣いてしまうケースもあります。語りと涙が同時進行しているときは、共感しながら聞き続けましょう。言葉が止まってしまったとき、相づちの代わりに「それはツラかったね」みたいな言葉を投げるといいかもしれません。
相手が泣いても、傾聴を止めてはいけない
泣いてしまった人気AV女優は、ふたたび語りはじめてからも、正常な状態ではありませんでした。ずっと泣きながら話していて、なんとか語りはできているものの、呼吸がうまくできなくて頻繁に沈黙が訪れます。
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会話をしているときの相手の沈黙は、多くの方々が恐れている状況の一つです。絶対にやってはいけない「否定する」「自分の意見を言う」というミスを犯しての沈黙でないならば、語りの最中に起こる沈黙は、それがいま現在の相手の間になります。聞き手がなにをしても、状況が変わることはありません。相手の沈黙に焦り、慌てて声をかけたり、なにか質問する必要はありません。様子を見ながら進めていきましょう。
■親からの支配を脱して水商売の道に
彼女は話の途中で沈黙し、俯(うつ)むいてしまいました。重苦しい雰囲気ですが、様子を見ます。本人から語りを再開することもあるし、様子を見てから質問すれば返答がある場合もあります。重苦しい雰囲気がなにか気持ちが悪いのは本人も同じであり、そのまま終わることはありません。このときの語りは拙著『ハタチになったら死のうと思ってた』(ミリオン出版)に掲載されています。
「彼に内緒でこっそりホステスをはじめました。夜働いているうちにもっと世の中を知りたいって欲求がでてきて、自分にコンプレックスもどんどん芽生えた。だから結婚の話は進んだけど、自分自身は日が経つほどに迷っちゃった。最終的にまだ結婚はしたくないって別れました」
いままで支配されてきた親を無視して、親が絶対に許さないだろうホステスをやるのは大きな冒険でした。彼氏からのプロポーズを断って、相当な覚悟をもって、その仕事に就いたようです。
「でも、お店では頑張りたかったので、無理して働きました。全然飲めないから、飲んで吐いてみたいな感じで働いた。飲んで、飲んで、吐いてだから、逆流性食道炎を頻繁に起こすようになって。あまり長くは続けられないなって悩むようになって、なんとなくヤリマンみたいになっちゃいました」
■キーワードを拾って的確に質問していく
涙と沈黙が多すぎて、どうなることかと思いましたが、ここで「ヤリマン」というキーワードがでてホッとしました。子どもの頃からの優等生でいなければならない支配や社会的規範から逃れるため、自分を変えるために水商売に就くまでは理解できました。しかし、そこからどうして「ヤリマンみたいになっちゃいました」のか、さっぱりわかりません。キーワードを拾ってピックアップ・クエスチョンでつないでいきます。
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「彼氏とか好きな人の前では抑えちゃう。かわいいとかいい女と思われたいから。でもセフレってカラダだけの関係で、そういう相手のほうが大胆になれる。だから悩んでいても悩みを忘れられるし、すごくよかった」
しばらく、会社員とホステスのダブルワークをして、性的に奔放になったことで夜の比重や人間関係が多くなってきます。結局、会社を辞めてしまいました。どうしようと悩んでいるとき、たまたまAV女優募集の広告を目にした、といいます。
「自己否定が強くなりすぎて、思い切ったことをやってみたかっただけ。エッチなことに興味があった。一番は自分を変えたいと思ったこと。親にはとても言えない仕事だけど、私はよかった。自分に自信がもてるようになった。AV女優になって自己否定しなくなりました」
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(WHY?)箱入り娘で親の言いなりの人生。
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(WHY?)ホステスになって世間知らずを自覚。強い自己否定、自己卑下。
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(HOW?)自分を変えたいとAV女優になる。
■沈黙があっても慌てず、最後まで聞くことが重要
このケースはキーワードがでる前に相手が泣いてしまって、何度も沈黙が訪れて、どうなることかと思いました。普通の状態ではない相手のペースに100パーセントあわせることによって、語りが再開して、なんとかゴールまでたどり着いています。悪魔の傾聴では、相手が泣いても、沈黙があっても慌てず、あきらめないで、粘り強く最後まで聞いていくことが必要なのです。
相手の沈黙を破らない
キーワードを見逃さないことは伝えましたが、キーワードがでてくるのは語りだけではありません。相手の声の張り、イントネーション、言葉遣い、服装、身だしなみ、視線、表情、呼吸などなど、すべてが情報となります。言葉以外の情報を非言語メッセージといいます。
筆者が非言語メッセージでもっとも重要視するのが、相手の自傷です。自傷があるのは現在、もしくは過去に過度な精神的ストレスがあったということで、見逃してはいけないポイントです。ストレスとは「外部から刺激を受けたときに生じる緊張状態」のことで、筆者も数々の自傷当事者から聞くまで知らなかったのですが、自分自身を傷つけることはかなり強力なストレス解消になるようです。
■「リスカは小学校4年生くらいからかな」
自傷をするのはおもに女性で、基本的に両手首のどちらか、二の腕、太ももなどに傷があります。右利きだと左手首を傷つけることが多く、カミソリやカッターで切った複数の細い傷が重なっています。タバコを押しつけた火傷や、ピアスの穴なども人によって自傷のニュアンスが含まれていることがあります。簡単に目視できるので、気にしているだけで発見できます。
ちなみに、不特定多数の異性と過剰に性行為を繰り返すのも自傷の一種といわれ、カラダに自傷がある女性は、性行為の自傷も経験している可能性が高くなります。記憶にある限り、自傷がもっともひどかったのは、上京して間もなかった東北出身の18歳のAV女優でした。
長袖シャツを着て腕を隠していましたが、あまりに傷が多いのと、傷が新しかったのですぐに気づきました。会話をはじめる前に気づいたので、筆者は「腕の傷、すごいね」と声をかけました。
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自傷は明らかにキーワードです。最初からどうしてリストカットがあるのかを聞きました。
「そうです。リスカ(リストカット)は、小学校4年生くらいからかな。それがリスカって知らないで、子どもの頃は腕じゃなくてお腹を切っていました。悪いことをすると怒られる、それと同じ。自分が悪いことをしたなって思ったとき、お腹を切った。最初はごめんなさいって気持ちかな。イジメられるってことは、私がなにかをしたんだろうなって」
最初からそんな話になりました。自傷のことを聞かれるのは、少なくとも嫌そうには見えません。語りながら自ら袖をまくりあげて、左腕を見せてくれました。凄まじい傷でした。
■誕生日に自分がプロダクションに連絡してAV女優に
500くらいの折り重なった細い傷に、赤く腫れあがった縦の太い傷がありました。
「横のリスカは甘えって誰かが言っていて、私は甘えでやっていたわけじゃないから縦に切りました。AV女優になってからリスカはしていません。本気というのは、死んじゃうかもってことかな。別に死にたくはなかったけど、死んでもいいかなって。甘えと思われたくなかった」
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いったいなにがあったのかと聞き進めると、やはり過酷な生育環境がありました。小学校のときに徹底的なイジメに遭い、両親は離婚。好きだった父親が突然消えて、母親が毎日、家に男を連れ込むようになったそうです。母親は男性関係がうまくいかないとイライラして、彼女を虐待しました。そんなときにリスカ癖がはじまったようです。
中学を卒業してから家出少女になり、男性の家を転々としながら未成年売春を繰り返したそうです。年齢を誤魔化して風俗店で働き、なんとか先日18歳になっています。誕生日に自分からプロダクションに連絡してAV女優になりました。
「有名なAV女優になりたい。理由は小学校、中学校って、ずっとイジメられっ子だったから。有名になって見返したいと思っています」
■悪魔の傾聴は恋愛の場面で使うときは慎重に
出会ってすぐに目視ができた自傷を瞬時にキーワードにして、その傷を負った理由を聞きました。その傷を負うことになった理由からはじまって、結果的に過酷な語りが繰り広げられて、いまAV女優になった理由も判明しました。
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(WHY?)イジメられっ子。母親からの虐待。
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(HOW?)有名AV女優になって見返したい。
自傷の理由を聞くことに躊躇する人がいますが、筆者の経験からいうと、基本的に拒絶されることはありません。実際に50人くらいに自傷について聞いていますが、語ることを拒絶されたのはいまのところゼロです。ビジネスではこのような場面は少ないでしょうが、恋愛や友達、教育現場や福祉の相談援助などでは普通にあることです。
悪魔の傾聴は相手との人間関係に変化が起こるので、恋愛の場面だけは自傷の理由を聞くことは慎重になったほうがいいかもしれません。相手の傷に飲み込まれて、自分自身の生活に影響を及ぼす可能性があります。自傷の理由を聞くことは、その人の本音を引きだすためには非常に有効です。相手に傷があるかチェックし、恋愛の場面以外だったら、ためらわずに聞きましょう。
「カラダの傷」は必ず質問する
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中村 淳彦(なかむら・あつひこ)
ノンフィクションライター
1972年生まれ。著書に『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)、『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮新書)『歌舞伎町と貧困女子』(宝島社)など。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買、介護、AV女優、風俗などさまざまな社会問題を取材し、執筆を行う。
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(ノンフィクションライター 中村 淳彦)