ミリタリーに限らず、乗りもの関連に興味を持つと、必ず悩みの種になるのが、同じ名前なのにバージョン違いがあること。零戦もその例にもれませんが、結構わかりやすい方かもしれません。

二一型、三二型、二二型、五二型…なにが違う?

 戦車、戦闘機、軍艦など、陸海空問わずミリタリー関連に興味を持った場合、意外と混乱するのが、同じ兵器ながらタイプやバージョンの違いが、数多く存在することです。それらは名前こそ一緒でも、それに続く番号やアルファベット表記が異なることで別のモデルになり、モノによっては似ても似つかない外観になってしまいます。おそらく日本で一番有名な戦闘機である旧日本海軍の零式艦上戦闘機(零戦)も、その例にもれず、いくつかのタイプが存在します。


零戦二一型は翼端が折り畳み式(画像:アメリカ海軍)

 零戦は初期型から試作で終わったタイプまで含めると10以上の種類に分けられますが、有名なタイプは、二一型、三二型、二二型、五二型あたりでしょう。「全部同じじゃないですか!?」と、某漫画のように叫びたくなりますが、実はよく見ると見分けるポイントはあります。

「二一型」翼は折り畳み式でエンジン周りもスッキリ

 太平洋戦争の序盤に主力だったのが零式艦上戦闘機二一型です。特徴的な長い主翼の翼端が折り畳み式になっているのがポイントです。これは航空母艦に搭載できるよう、追加した機構になります。

 翼端の折り畳みが確認できない場合はエンジンカウルに注目します。二一型の場合、吸気口が下にあり、機銃孔がカウルに溝を掘ったようにへこんでいるのがわかります。この仕様は後のタイプでは見られなくなるので、判別するのに最も役立ちます。

 加えて、映像作品などで灰色っぽい塗装の機体は旧日本海軍で初期に使用された零戦のカラーリングなので、同機であるケースが多いです。

「三二型」翼端が角ばっているのがポイント!

 1941(昭和17)年7月に初飛行した零戦三二型は、各型合計で1万機以上が造られた零戦シリーズのなかで唯一、主翼端が角型なので一番わかりやすい機体です。この角型成形によって翼幅も二一型と比べて50cm、左右合わせて1m短くなっており、これにより翼端の折り畳み機構はなくなっています。


アメリカにあるMILITARY AVIATION MUSEUMの零戦三二型(画像:MILITARY AVIATION MUSEUM)

 そのためアメリカ軍も零戦とは別の機体だと誤認したようで、「Zeke」という零戦識別用のコードネームとは別に「Hamp」という名が与えられています。

 このタイプからエンジンが940馬力の栄12型から1100馬力の栄21型に換わったため、エンジンカウルにも変化があり、給気口は二一型の正面下部から上部に変更。さらに機首の機銃孔がくぼみのないカウルの途中から抜けたようなデザインとなっています。なお、以降の型式では、このカウル形状がスタンダードになります。

「二二型」一番判別の難しいタイプかも…

 零戦三二型の主翼を二一型の形状のものに戻したタイプが零戦二二型です。登場した順番で行くと、三二型の後に二二型となるのですが、型式番号はこちらの方が若いため、知らないと混乱してしまうでしょう。


「レッドブルエアレース2017」で展示飛行を行った零戦二二型(斎藤雅道撮影)

 特徴は、いうなれば三二型の胴体に二一型の主翼を合体させたところ。そのため、翼端の折り畳み機構も復活しています。そのため、パッと見ただけだと二一型との違いが全くわかりません。

 ここで識別するのに頼りとなるポイントがエンジンカウルの形状です。三二型のように上部に給気口があれば、それは二二型で間違いありません。

「五二型」生産数最多、ゼロ戦の代表的モデル

 零戦五二型は、速度を向上させるために主翼の幅を三一型と同様、11mに切り詰めたのがポイントです。ただし、翼端は三二型のように角型ではなく丸く成形しています。なお、折り畳み機構は三二型と同じく撤廃しています。


エンジンカウルから突き出たマフラーがポイントの零戦五二型(画像:サンディエゴ航空宇宙博物館)

 エンジンカウルの部分にも変化があります。排気管がこれまでの集合式ではなく、排気を後方に噴射しその反作用で推力を得ることを目指した、推力式単排気管というものに変えたため、エンジンカウルからマフラーが1本ずつ後方へ突き出ているような形となっています。

 1944(昭和19)年以降は同機が零戦の主力モデルとなります。1万機以上生産されたうち約6000機が五二型だったため、太平洋戦争後半を代表するモデルともいえるでしょう。戦後作られた映画やマンガなどの創作物などで、戦争後半、暗緑色の機体カラーで飛んでいる機体は五二型であるケースが多いです。

 ちなみに、五二型は武装によって甲乙丙に分かれるほか、前述した二一型の前には初期量産型として一一型なるモデルもあります。加えて、エンジンを金星六二型に換装した五四型や、250kg爆弾を胴体下部へ搭載可能にした六二型なども存在しますが、比較的有名なのは上記の4タイプなので、これらを抑えておけば概ね問題ないでしょう。

 なお、都内にある靖國神社遊就館や、静岡県の航空自衛隊浜松広報館(エアーパーク)には五二型が保存・展示されています。さらに、福岡県の筑前町立大刀洗平和記念館では三二型が、広島県の呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)では珍しい六二型も見学できます。

※一部修正しました(12月11日14時50分)