驚愕の「36発ジェット機」誕生か 全て“翼に埋め込み”の超異形機 その革新的コンセプト
ドイツでは現在、ある革新的な航空機が実用化しようとしています。36発のオール電動推進装置を翼に埋め込んだ民間ジェット機。この異形のルックスになったのには納得の理由がありました。
よくある「空飛ぶクルマ」とは全く違う!
ドイツで次世代航空機開発を手掛けるリリウム(Lilium)社が、ある革新的な航空機を実用化させようとしています。世界初という「電動垂直離着陸ジェット機」です。現在世界では、二酸化炭素を排出しない「ゼロエミッション」にむけ、数人を乗せ都市間を柔軟に航空移動できる「空飛ぶクルマ」として、多くの電動垂直離着陸機(eVTOL機)が開発されています。ところがこの機は、そのルックスもシステムも、多くのeVTOLと一線を画すようなものとなっています。
リリウム社の機体でもっとも特徴的なのは翼の形です。通常の航空機のエンジンに相当する、完全電動の推進装置が翼に36基備わり、それが前翼・主翼の後縁に埋め込まれているのです。
Lilium社の「電動垂直離着陸ジェット機」イメージ(画像:Lilium)。
推進装置がある部分は可動式で、垂直離着陸時やホバリング時は翼の後縁部を下げ、推進装置の排気方向を下向きに変えることで空中にとどまります。一方、高速巡航中は固定翼ジェット機のように、翼型を直線的な状態にし、エンジン後方から排気して飛行します。
これは、より高速で目的地に行くため、垂直離陸をしたのち、固定翼ジェット機のように上昇・巡航・降下を行い、最後に地上近くで垂直着陸をするというフライトプロセスにもとづいたものだそう。同社は、この”固定翼らしい”設計は、フライト時間の多くを占める「上昇・巡航・降下」の際に、効率的に運用できることを主眼においているといった趣旨の説明をしています。
また、推進装置を翼に埋め込むような形状とすることで、専用のナセル(エンジンカバーに相当)が不要になり、重量を軽減。またナセルを小さく、多くすることで、ナセルの表面積が少なくことに繋がり、空力抵抗の損失が最小限に抑えられ、航続距離なども延長できるとのことです。
そして、この36基の推進装置ひとつひとつも、これまで多くの企業が開発を進めてきた「電動推進装置」とは一線を画した設計のものとなっているのです。
「ジェットの電動推進装置」、どんな強みが?
リリウム社が「電動垂直離着陸機」と称している推進装置は、全電動ながら、いわゆるダクテット・ファンと呼ばれるタイプのものです。これはプロペラをナセルで覆うことによって、プロペラを晒したままフライトするよりも、空気を無駄なく取り込み、そのぶん多く後方へ排出することができ、効率よくフライトできるとされています。また、覆いをつけることで、騒音を抑制する効果もあるのだそうです。
同社によると、ダクテット・ファン型の推進装置の場合、プロペラを晒した状態で同じ回転数で稼働させるのとくらべて、ホバリング時の効率が向上し、より小さなプロペラで飛行できるとのこと。そのため、飛行中の騒音も低減できる効果も期待できるといいます。同社の「電動垂直離着陸ジェット機」では、ホバリング時で食器洗い機と同クラスの約60dBA、巡航飛行中は音がほとんど聞こえないほどの低騒音が見込まれるとしています。
Lilium社の「電動垂直離着陸ジェット機」イメージ(画像:Lilium)。
当初同社が発表したプランでは、この機は7人を乗せることができ、40〜200kmの距離がある都市間などを、最高300km/hのスピードを出しながら移動できるとしています。また、推進装置や設計を工夫したことで、乗客・貨物のペイロード(搭載容量)としては市場最大の機体を目指すほか、航続距離の延長も計画しているとのこと。一方で翼幅は、既存のヘリポートへ着陸できるようなサイズ感にとどめられる見込みです。
リリウム社は2022年12月、イギリスのオックスフォードにある大手ヘリコプター・プライベート ジェット事業者eVolare社とパートナーシップを締結。eVolare社がリリウム社の電動垂直離着陸機「Lilium Pioneer Edition Jets」を確定10機、オプション10機発注するほか、この機のイギリス国内の販売代理業の実施、同国内で運用するための体制構築やメンテナンス サービス センターの運営などを行うとのことです。
欧州の空で、日常的にこのユニークな「空飛ぶクルマ」が行き交う日が、いつか来るのかもしれません。