クロアチア人記者が明かすPK戦持ち込み作戦。「GKはふだんから特別な練習をしていた」
我々、クロアチアの記者や解説者は、先のわからない試合展開に、まるで拷問にかけられたかのように苦しめられた。クロアチア対日本はそんな試合だった。
グループEでの戦いぶりを見て、日本が侮れないチームであるのはわかっていたが、それでもどこか、楽観的な空気がクロアチアメディア内には漂っていた。しかし、キックオフからそう時間も経たないうちに、クロアチアは、森保ジャパンを下すのは決して簡単なことではないことを、身をもって実感するようになる。日本ほど運動量が豊富で、まるで選手一人ひとりが体内にターボエンジンを持っているかのようなチームは他にはないからだ。
この試合を見て、私の日本に対するリスペクトはより大きくなった。一時はクロアチアの敗北も覚悟したほどだ。
試合開始直後からバトレニ(「炎」の意味で、クロアチア代表のニックネーム)の戦術はうまく機能していなかった。中盤のトリオ(ルカ・モドリッチ、マルセロ・ブロゾビッチ、マテオ・コバチッチ)が攻撃の軸を組み立てて、スピードあるプレーと、絶対的な精度の"ワンタッチ"の速いパス回しがクロアチアの強みである。しかし実際はスピードがなく、走りもせず、カバーもせず、モロッコ戦で失敗したのと同じようなプレーを繰り返していた。それは日本が非常に素早く、かつタイミングよくデュエルに入り、クロアチアの速いボールの流れを断ち切っていたからに他ならない。
日本のゴールを、最初はラッキーから生まれたものだと思っていた。ボールが偶然にもちょうど前田大然の真ん前に転がったから、ゴールを奪われたのだと思っていたのだ。
日本のPKを次々と止めたクロアチアのGKドミニク・リバコビッチ(クロアチア)と権田修平photo by JMPA
しかし、ゴールシーンのリプレーを何度も繰り返し見てみると、日本はクロアチアDFとGKドミニク・リバコビッチに揺さぶりをかけ、混乱させ、狙って前田にボールを通していることがわかった。リバコビッチの弱点は、ゴールから飛び出さなければいけない時の守備だ(ゴール内での強さはPK戦のセーブからもわかるだろう)。それをうまく狙っての得点であることがわかった。
それにしても我らが中盤のトリオは疲れていた。その前のグループリーグの3試合が、すべてがハードで難しく、最後まで結果が見えないものだったからだ。特に最後のベルギー戦は困難な試合だった。なかでもモドリッチの疲労は目に見えて顕著だった。ふだんの彼ならば簡単に勝つだろうデュエルにも、何度も敗れていた。
そこでクロアチアは後半、攻撃の作戦を変える。高いクロスボールをゴール前に上げ、空中戦から日本のGK権田修平を直接脅かすようにしたのだ。こうして我々は同点に追いついた。デヤン・ロブレンのパーフェクトなクロスからの、イバン・ペリシッチのヘッドでのゴールは、今後何年も語り継がれるような見事なものだった。
90分のレギュラータイムのなかで、クロアチアは効果的クロスを24本上げ、そのうちのひとつが55分のペリシッチのゴールにつながり、65分にはアンテ・ブディミルがあと少しで2点目を決めるところだった。
延長戦に入ると、クロアチアは多少アクティブになった。しかし選手やズラトコ・ダリッチ監督からは、このまま時間を潰して、PKに持ち込もうという意図が透けて見えた。なぜならリバコビッチはPKのマエストロだからだ。
彼はふだんから常にPKに備えて訓練をしている。その練習にはある秘訣があり、キッカーにPKのルールである11メートルでなく10メートルの地点からボールを蹴らせるのだという。それだとより反射能力がつき、本番で素早く反応ができるからだ。そして実際、彼は3本のPKを止め、クロアチアに勝利をもたらした。
私は日本対クロアチアの試合をこれまで生で2回見ている。1998年のフランス大会と2006年のドイツ大会だ。その時も日本の選手は我々をいらだたせたが、今回は本当に最後の最後まで苦しめられた。
日本は最初3−4−2−1でプレーしていたが、その後、守備の形を変えて4−5−1的になった。クロアチアのクリエイティブなプレーをしようという狙いは、日本の固いディフェンスラインにあたってかき消されてしまった。縦パスも通せず、コンパクトなプレーもできない。
一方の日本は、ポジションに縛られず、自由に動きながらも、おそらく多くの練習を重ねてきたであろう動きで攻め上がった。私はそのスムーズさに驚かされた。またボルナ・バリシッチが守備としてあまり機能していないことを知ると、臨機応変にそこを重点的に攻めてきた。日本のベストプレーヤーを挙げるならば前田大然、遠藤航、そしてやはり堂安律だろう。
日本のプレーを見たすべての人の意見だと思うが、日本がこのようなプレーを続けるなら、チームはこれからもどんどん伸びていくことだろう。もう誰も日本が与しやすいチームなどと思ったりしない。日本を見くびれば、かならず痛い目に合うことが、この大会でよくわかったからだ。もちろん、それは同時に日本にとって厳しさが増すことを意味する。しかし私は、日本はそれをバネにして、4年後にはより強くなっているだろうと確信している。