サッカー日本代表の次期監督は誰がいいか。識者5人が考えた理想と現実、その理由
残念ながら目標に届かず、ベスト16でカタールW杯を終えたサッカー日本代表。次の4年間に向かって、チームを指揮するのに相応しい次期監督は誰なのか。5人のジャーナリストに候補を選んでもらった。
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カタールW杯で日本をベスト16に導いた森保一監督(左)
杉山茂樹(スポーツライター)
<次期監督に推すのは?>
アンジェ・ポステコグルー
ケヴィン・マスカット
鬼木達
森保一監督は「我々がやろうとしているサッカー」という言葉を何度も繰り返し使ったが、その中身について積極的に語ろうとしなかった。
臨機応変、連係連動など抽象的な言葉を繰り返した。特段ハイプレスを強調したことはないが、いつの間に、それっぽいサッカーになっていた。と思ったら、5バックになりやすい3バックも採用する。
ファンに対して訴求力の低いサッカーを展開した。最後までカラーを打ち出せずに終わった。言い換えれば「カラーがないサッカー」がカラーだった。話題性や求心力が低かった原因だ。
その点、Jリーグを制した横浜F・マリノスや僅差で2位に終わった川崎フロンターレのサッカーはわかりやすい。日本のサッカーかくあるべしと言いたくなる、攻撃的で魅力的なサッカーを展開した。
代表サッカーもその延長線上にあるべきだと考える。アンジェ・ポステコグルー(セルティック監督/オーストラリア)、ケヴィン・マスカット(横浜FM監督/オーストラリア)、鬼木達(川崎フロンターレ監督)。この3人を推したい。
海外にも、適任者はたくさんいるが、こう言っては何だが、そのキャリアを捨て日本代表監督になろうとする人物はけっして多くない。発掘を兼ねて協会が世界に向けて公募するという手もある。
いずれにしても横浜FM、川崎的なサッカーを代表チームでも展開してほしいものだ。
【サッカーのスペクタクル性を引き出せる監督に】小宮良之(スポーツライター)
<次期監督に推すのは?>
フアン・マヌエル・リージョ
キケ・セティエン
ジョゼップ・グアルディオラ
森保一監督がカタールで叩き出した結果は、正しく評価されるべきだろう。
しかし「サッカー」の発展性は乏しかった。2010年南アフリカW杯まで時計を巻き戻し、完全なリアクションサッカー。欧州でプレーを重ねる選手がかつてないほど多い陣容だったおかげで、ドイツ、スペインに番狂わせを起こすことができたが、コスタリカ戦はサッカーを示せず、クロアチア戦も勝つべき手立てを失っていた。
森保監督がチームをアップデートできたわけではない。続投の噂が出ているが、選ぶ側の怠慢だろう。有力な監督と交渉しているとは思えない。
もっとも、日本代表監督の年俸は外国から招聘する場合でも3億円が上限で、実際はそれよりもやや低いと言われる。それで"有名監督"を呼ぶには余程の人脈が必要になる。1億円でも来てくれる有能な指導者はいるはずだが、そこもスカウティング力、交渉力が欠かせない。その必然で、日本人監督路線になっているのだ。
現実的人選としては、親日の戦術家で、国外(Jリーグ)での指揮経験がある監督か。フアン・マヌエル・リージョ(アル・サッド監督/スペイン)は強力に推したい。ヴィッセル神戸時代も選手は彼に心酔。サッカーのスペクタクル性を引き出せる。ここだけの話、本人は代表監督には強い興味を持っている。
同じ系統では、キケ・セティエン(ビジャレアル監督/スペイン)。スペクタクルを重んじ、バルセロナも率いた。実は彼をJリーグの強豪に勧め、実際に交渉に入ったが、クラブ側の事情で破談になったことがある。
最後にジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ監督/スペイン)。彼の友人に「いつか日本代表監督を」という話を振ってもらった時、嫌なことは必ず嫌と言う彼が「いつか代表チームを率いる」と話していた。スペイン代表を率いることはカタルーニャ人の彼にはあり得ず、ぜひ日本代表を......。
3人とも現時点では所属先と契約が残っていて、荒唐無稽な話だろう。しかし、もし来シーズンからでもやってくれる契約を結べるなら――。その間のつなぎは、森保監督でも文句はない。
【森保監督の経験値を手放すのはもったいない】原山裕平(サッカーライター)
<次期監督に推すのは?>
森保一
ミヒャエル・スキッベ
ユルゲン・クロップ
かつてない一体感をもたらしたのが、森保一監督の最大の功績だったように思う。細かいところにまで目を配り、緊張感を植え付けながらモチベーションを高め続けた。
ドイツ戦、スペイン戦で交代策がハマったのも、選手の状態を見極めた森保監督の観察眼によるところが大きい。日本人の特性を理解し、選手の能力を最大限に引き出させる。そのマネジメント能力の高さは、高度な戦術よりも重要なものだったと考える。
コーチとして前回大会を経験し、東京五輪でも指揮を執り、今大会の躍進を導いた森保監督の経験値を手放すのはあまりにももったいない。次の大会ではすでに一大勢力となっている東京五輪世代が中心となるはず。彼らの能力を十分に理解する指揮官こそが、次の日本代表を率いるのに相応しい。
もちろん長期政権は停滞感を生みかねない。新陳代謝を求めるのであれば、ワールドカップを経験した元日本代表をコーチングスタッフに組み込むのも手だろう。新たな視点を取り入れながら刺激を与え、マンネリを打破していく。
幸いにも出場枠が増加する次の大会では、アジア予選の難易度が格段に下がることが予想される。結果を求めながらも、さまざまなチャレンジを行なえる余地があるはずだ。
森保監督以外で候補を挙げるとすれば、サンフレッチェ広島のミヒャエル・スキッベ監督(ドイツ)を挙げたい。
今大会でも明らかになったように、強豪国と対峙するうえでスタイル的に有効なのは、ハイインテンシティのカウンタープレスである。敏捷性と献身性を兼ね備える日本人には適した戦い方であり、そのスタイルを導入し、今季のJリーグで結果をもたらしたドイツ人指揮官は、日本代表を託してみたいひとりである。
もちろんカウンタープレスの第一人者であるユルゲン・クロップ(リバプール監督/ドイツ)を招聘できれば理想的だが、それは夢物語にすぎず、現実路線で考えれば、選択肢は限られてくるだろう。
【欧州組中心の現代表に相応しい監督を】中山 淳(サッカージャーナリスト)
<次期監督に推すのは?>
トーマス・トゥヘル
アンドレ・ビラス・ボアス
フアン・マヌエル・リージョ
ドイツ、スペインと同居した超難関のグループリーグで首位通過。ベスト16で敗退したとはいえ、結果だけに目を向けた場合、森保監督続投が浮上するのも当然だ。
しかし、その歴史的快挙には敬意を表すべきだが、この4年間の強化プロセスと本番で見せた守備的サッカーには、大きなギャップがあったのも事実。あのサッカーを続けていても、おそらく永遠に強豪国には追いつけない。そもそもその議論は、2010年W杯後に浮上したはずだ。
それを前提に、ほぼ欧州組で占められる現代表を指導するに相応しい実績を持つ3人の候補者を挙げてみたい。ひとりは非現実的かつ個人的希望として、現在浪人中のトーマス・トゥヘル(ドイツ)。類稀な戦術家であり、チャンピオンズリーグ優勝経験者でもあり、最先端を熟知する。
もう少し現実的な候補者としては、かつて中国のクラブで指導した経験もあり、親日家としても知られるアンドレ・ビラス・ボアス(ポルトガル)。分析力、戦術的引き出し、契約条件などは、ビッグクラブから引く手あまたのトゥヘルよりもハードルは下がる。
さらに現実路線の候補者としては、Jリーグでの指導経験があるという点で、元ヴィッセル神戸監督のフアン・マヌエル・リージョ(スペイン)が浮上する。現在はカタールのアル・サッドの監督を務めるが、オファーするだけの価値はあるだろう。
【日本人に向いているやり方】浅田真樹(スポーツライター)
<次期監督に推すのは?>
マルセロ・ビエルサ
ルチアーノ・スパレッティ
鬼木達
ここに挙げた3人の監督は順に、「現実的な可能性がありそうな希望」「実現性度外視の希望」「日本人監督で選ぶなら」のそれぞれの条件で選んでいる。
まずはマルセロ・ビエルサ(アルゼンチン)だが、かつて指揮をとったアルゼンチン代表やアスレチック・ビルバオでのサッカーに好感を持っており、以前からこうしたアンケートで名前を挙げさせてもらっている。
マンツーマンディフェンスや縦に速い攻撃をベースにしつつも、ボール保持ができるだけの技術が求められる。比較的細かな戦術を定め、それに沿った練習をするあたりも日本人選手に向いているのではないかと感じる。
ルチアーノ・スパレッティ(イタリア)もまた、現在指揮をとるナポリが、ヨーロッパで今、一番面白いサッカーをしていることが最大の推し材料。だが、就任の可能性は限りなくゼロに近いだろう。
最後の鬼木達は言うまでもなく、すでに6シーズンを指揮した川崎フロンターレでの成果を評価してのもの。主力選手が大幅に入れ替わるなか、戦術をアップデートしながら、新戦力をうまく取り込んでいる点に指揮官としての冴えを感じる。
その時々の状況に応じた試合ごとの戦略の立て方や選手交代も的確で、チームを勝たせる力もある。国際経験に不安はあるが、川崎出身選手が多い現在の日本代表には適った監督かもしれない。