このW杯の試合後では、初めてのことだったのではないだろうか。伊東純也は落ちつかない様子で、しきりにもみあげを触り、何度も頭を搔いた。

「いや、本当に残念です......」

 伊東がこぼした最初の言葉だ。

 日本は、決勝トーナメント1回戦でクロアチアと対戦し、1−1の同点のまま延長戦まで120分を戦って、PK戦の末に敗れた。


クロアチア戦でも何度も仕掛けて、相手守備陣を翻弄した伊東純也

 グループリーグでドイツ、スペインに勝って、首位通過を果たした日本。クロアチアとの決戦を前にして、伊東はこう決意を口にした。

「正直、勝つことしか考えていないです。個人的には、自分でゴールを決めたいと思っていますけど、(スペイン戦で)ヘディングでアシストしていますから......まあ、チャンスがあれば。ポジションが(3−4−2−1の)ウイングバックだと、ゴールまで遠いので直接狙うのは難しいですけど......。でも、ゴールにつながる動きをしたいですね。もちろん、ゴールも決めたいと思います」

 一時期は同じポジションを競った堂安律が2ゴールを挙げているだけに、「自分も次は」という思いが言葉の端々から伝わってきた。

 クロアチア戦ではゴールこそ奪えなかったが、デザインされたショートコーナーから奪った先制ゴールの一翼を担った。堂安から鎌田大地へ、鎌田から出されたボールを伊東がダイレクトで堂安へと落とし、堂安のクロスから最後は前田大然が押し込んだ。

「あのシーンは練習でやっていた形で、律に落としてダイレクトでファーサイド、というのをやっていたんですよ。それが、いい形で大然のところにこぼれて、ゴールになってよかったと思います」

 伊東は小さな笑みをこぼした。

 1−0でリードして終えたハーフタイム。ロッカールームでは、4年前のロシアW杯で敗れたベルギー戦についての話が出た。

「(逆転負けを喫した)4年前のベルギー戦のこともありましたし、『絶対に同じことを繰り返さないぞ』っていうことで、しっかり守って0で抑えつつ、『もう1点、取りにいこう』とハーフタイムに話しました」

 だが、もう1点取る前にクロアチアに同点に追いつかれた。後半10分、イバン・ペリシッチにヘディングで合わせられた。冨安健洋と伊東の間に飛んできたクロスだった。

「あれは悔しかった。ヘディングでくるのは想定内だったので、トミ(冨安)と自分でしっかりと対応しないといけなかった」と、悔しさをにじませた。

 そこから、日本は相手の前線の高さと中盤の圧に押された。前線の浅野拓磨がボールを収められないこともあって、守備に追いやられる時間が増え、体力を消耗していった。ウイングバックの位置で上下動を繰り返していた伊東もさすがに疲労の色が濃く、プレーがきれると両手を腰に当てる回数と時間が増えた。

 後半30分、鎌田と代わった酒井宏樹が右ウイングバックに入り、伊東はインサイドハーフへとポジションを上げた。おかげで、縦ラインでの攻守からは解放されたものの、ドイツ戦、コスタリカ戦、スペイン戦と試合に出続けてきた疲労が、一気に表立ってきた感があった。

「90分を終えた時点では(疲労は)大丈夫でした。(延長戦に入っても)自分ではもっと仕掛けたいっていうのがあったし、体力的にはまだ余裕っていうか、走れると思っていた。相手のサイドバックは、結構足がつりかけて疲れていたんで、うまく(前線のスペースへ)ボールを蹴ればいけるなと思っていたんです。

 でも、延長戦に入ってからは、自分もですが、みんなもきつかったと思います。拓磨のところでボールがうまく収まらず、ボールをつなげず......。本当はしっかりつないで、ショートカウンターでチャンスを作りたかったんですけど。PK戦になる前に決めたかったっていうのは自分のなかであったんで、それができなかったのが残念です」

 PK戦は自ら手を挙げた選手によって、キッカーと順番が決まった。足に相当な疲れを感じていた伊東は手を挙げることなく、仲間にすべてを託した。

 伊東は「決めてくれ、と祈る気持ちで見ていた」という。だが、その祈りは通じなかった。

 伊東にとって、初めてのW杯はベスト16という結果に終わった。

「今回のW杯で、ドイツ、スペインに勝てたというのは大きいなと思いますけど......。コスタリカに負けて、スペイン戦にメンタル強く(臨むことが)できて。でも、今日は負けたんで。う〜ん、やっぱり残念な大会でした。

 欲を言えば、ゴールを取りたかったっていうのがありますけど、個人的には(W杯の舞台でも)やれない部分はないと思います。でも、自分のすべてを出しきれた感じではないですね」

 目標とする"新しい景色"を見ることはできなかった。アシストはしたが、ゴールを奪うことができなかった。「もっといい位置で仕掛けることが必要」と攻撃面での反省も口にした。

 それらは、次回大会までの宿題になる。

「悔しいですね。PKはしょうがないんで、そこにいくまでにしっかりと決めたかったなぁ......。もう1点、取れなかったのがすべてですね。もう悔しい、という気持ちしかないです」

 伊東は何度も「悔しい」と口にした。まるで「この悔しさを忘れるな」と自分に言い聞かせているようだった。