トーナメント巧者・クロアチアに屈した日本。時に押し込まれ、時にボールを持たされ、采配でも後手を踏んだ
日本にとって通算4度目となったW杯ラウンド16は、2010年南アフリカW杯と同じPK戦による敗退で幕を閉じた。
クロアチアの試合巧者ぶりに、日本は徐々に勢いを消されてしまった
W杯では、3試合で勝ち点を競うグループリーグと、ノックアウト方式の決勝トーナメントでは、まったく別物の戦いの場と化す。上位を狙うチームは後者の段階から一段ギアを上げ、戦い方、ゲームの運び方も大きく変わる。そういう意味では、ドイツやスペインに勝ちながら、クロアチアに勝てなかったことを単純に比較できるものではない。
ただ、改めて試合を振り返ってみると、クロアチアがこれまで積み重ねてきた大舞台での経験値の高さが際立っていた。
クロアチアが過去5回出場したW杯で、決勝トーナメントに進出した98年フランスW杯では3位、前回ロシアW杯では準優勝と、一発勝負のトーナメントになるとこの上ない強さを発揮するのがクロアチアの特徴で、とりわけ前回大会ではラウンド16と準々決勝はPK勝ち、準決勝も延長戦の末に勝利を収めるなど、120分の戦いに慣れているうえに、滅法強い。
それは、今回の試合における戦い方にもよく表れていた。まだ決勝トーナメントで1度も勝った経験のない日本にとっては、その実力云々は別として、グループリーグのドイツ戦やスペイン戦よりも、ハードルの高い試合だったことは間違いないだろう。
そもそもズラトコ・ダリッチ監督が率いるクロアチアは、自らボールを保持するよりも、相手に保持される試合のほうが高い確率で勝利する傾向にある。別の言い方をすれば、アクションではなく、リアクションサッカーで強さを発揮するチームだ。
たとえば、今年のネーションズリーグの格上フランスとの2試合では、1−1で終わった1戦目(6月6日)のボール支配率が48.6%(フランス=51.4%)で、1−0で勝った2戦目(6月13日)でも46.2%(フランス=53.8%)。逆に、0−3で敗れた格下オーストリア戦のボール支配率は60.9%(オーストリア=39.1%)だった。
同じ傾向は今回のW杯でも見受けられ、初戦のモロッコ戦は57%のボール支配率を記録しながら、結果は0−0(モロッコ=32%、中立=12%)。ところが、4−1で快勝したカナダ戦のボール支配率は41%しかなく(カナダ=46%、中立=13%)、0−0で終わった3戦目のベルギー戦も43%(=ベルギー=47%、中立=10%)。
【ボールを握れるところで行き詰った】そこに一発勝負における強さが潜んでいるわけだが、そんな"トーナメントの神"とも言えるクロアチアに対し、日本はどのようなプランで挑んだのか。
今大会の日本も、相手にボールを持たれる試合で強さを発揮するリアクションサッカーのチームと化していたため、どちらがボールを"相手に握られるか"が、イコール、どちらのペースで試合が展開しているのかをそのまま示す対戦でもあった。
そういう意味で、日本がスペイン戦と同じ5−4−1を採用したのは、理に適っていたとは言えるだろう。ただし問題は、同じ布陣ではあっても、クロアチアの特性や戦い方の影響により、明確にボールを"保持される"展開にならなかったことだった。
この試合における日本のボール支配率は、35%(クロアチア=51%、中立=14%)。ドイツ戦の22%(ドイツ=65%、中立=13%)やスペイン戦の14%(スペイン=78%、中立=8%)と比べて大きくアップ。したがって、48%だったコスタリカ戦(コスタリカ=39%、中立=13%)とまでは言えないものの、ボールを握れる状態からの攻撃で行き詰った。
37%のボール支配率を記録した前半、それでも日本が流れのなかからフィニッシュに至ったのは、41分の鎌田大地のシュートシーン1度だけ。そしてそのチャンスも、遡れば伊東純也が右サイドを高速ドリブルで前進したことで発動されたカウンターが起点だった。つまりコスタリカ戦のように、ボールを保持した状態からの効果的な攻撃は見られなかったのだ。
対するクロアチアは、日本のカウンターによる被弾を回避すべく、敵陣深いエリア以外ではリスクを冒した縦パスを控え、自陣からのロングボールを多用。とくに左センターバック(CB)のヨシュコ・グヴァルディオルからのフィードを効果的に使って決定機を生み出すなど(前半26分)、躊躇なくアンストラクチャーを作り出し、ボール保持を放棄した。
主な狙いは得意のクロスボール攻撃で、実際、後半55分に右CBデヤン・ロブレンのクロスからイヴァン・ペリシッチがヘッドで合わせてタイスコアに戻すと、以降も左右からのクロスで日本ゴールを脅かしている。こうして日本の「5−4」のブロックをできるだけ敵陣深くに集めておけば、カウンターのリスクも軽減できる。実に理に適った試合運びと言えた。
結局、後半に5本のシュートを記録した日本だったが、明確にゴールチャンスと言えるようなシーンはなく、60分以降はほぼ守備に回る時間帯が続いた。
【監督の采配で後手を踏んだ】そんななか、森保一監督はどのように試合を運ぼうとしたのか。
ドイツ戦、スペイン戦では、1点のビハインドを背負った状態で臨んだ後半、交代カードを迅速に切った攻撃的シフトチェンジが奏功した。
1点リードで迎えた後半早々に追いつかれたこの試合では、64分に長友佑都に代えて三笘薫、前田大然に代えて浅野拓磨を投入。続いて75分に鎌田を下げて酒井宏樹をピッチに送り、伊東を鎌田のいた位置に配置転換すると、87分には堂安律に代えて南野拓実を投入して、伊東は堂安がいた右シャドーに移った。
しかし、攻撃の駒を増やして前線をフレッシュにした一方、相手がリスクをかけた攻撃を仕掛けてこなかったこともあり、これらの采配は空振りに。三笘を左ウイングでプレーさせるための4バックシステムへの変更もなく、攻撃重視なのか守備重視なのか、勝ちにいくのか延長戦を意識したのか、どっちつかずの采配に終始した。
その間、ダリッチ監督が切った交代カードは2枚のみ。62分に1トップのブルーノ・ペトコヴィッチをアンテ・ブディミルに、68分にアンドレイ・クラマリッチをマリオ・パシャリッチに代えただけで、攻撃的にも守備的にもしたわけではなく、そのままのペースを維持することを選択。自信のある延長戦での戦いを想定し、日本ベンチの動きを見ながら"後出しじゃんけん"で対抗した。
一見、先手を打ったように見えた森保監督の采配も、延長戦の交代カードの切り方を見る限り、ゲーム運びの点では、ダリッチ監督の後手を踏んでしまった。そういう意味では、トーナメントの戦い方を熟知したクロアチアがベスト8に進出したのは必然だったと言えるだろう。
決勝トーナメントを勝ち抜くためには、どのように戦えばいいのか。そこには、確実にグループリーグとは違った世界がある。
グループリーグで2度のジャイアントキリングを起こした今大会の日本だったが、少なくとも強国と"がっぷりよつ"に組み、その違い、そこにある差を体感しない限り、ベスト16の壁を乗り越えるためのヒントは永遠に得られそうにない。