高木豊が語る現役ドラフト 前編

 出場機会に恵まれない選手の移籍の活性化を図る「現役ドラフト」が、12月9日に開催される。球界初となる試みに対してはさまざまな声が挙がっているが、果たして選手たちに光をもたらす結果になるのか。かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏が、現段階での同制度に関する疑問や問題点について語った。


2019年に現役ドラフトに関して議論する、当時の選手会会長の炭谷銀仁朗ら選手たち

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――各球団は現役ドラフトの1週間前に出す保留者名簿の中から、外国人選手、複数年契約選手、年俸5000万円以上の選手(1名に限り5000万円以上1億円未満の選手を対象とできる)、FA資格選手、育成選手などを除いた、2人以上の選手のリストを提出。最低ひとり以上を獲得し、ひとり以上が他球団に移籍するシステムで2巡目まで行なわれます。現在発表されている条件をどう見ていますか?

高木豊(以下:高木) 年俸5000万以上の選手が除外(1名に限り対象とできる)されるなど、いろいろな縛りが定められると、それに当てはまらないドラフトの対象になる選手は他の球団に行っても出場機会を得ることが難しいだろう、というのが正直な感想です。初めてのことなのでやってみなければわかりませんが、制度が有効と認められるのは何年か先になると思います。

――まずはやってみて、課題が浮き彫りになる?

高木 そうですね。あと、提出する選手のリストが非公開ということですが、そうなると「ドラフト会議」で見られるような事前の1位公表だとか、当日の抽選だとか、そういったドラマ的な要素もなくなります。「それでいいのかな?」と思うんです。

 例えば、「あぁ、この選手か」となるような過去のプレー映像を作って、実績などもつけて紹介してあげたりしたほうが、前向きな感じがしていいですよね。当日は監督が出てきて、獲得する選手と握手をするといったイベント性もあっていい。もっと日の当たるようなことをして、送り出してあげてほしいですよ。現状、どうしても暗い感じがあるので。

 それと、名前を公表しないというのは球団の"逃げ"というか......。だったら名前を公表して、「あの球団はこの選手が構想外だったんだ」とわかったほうがファンとしても納得がいきますよね。プロ野球には"透明感"が必要です。そもそも、移籍した選手は後ほど必ず知れ渡るわけですし、「隠す必要があるの?」って。まぁ、獲られなかった選手への配慮なのかもしれませんが。

――会議自体も非公開で行なわれます。

高木 非公開でやるんだったらトレードでいいのかな、とも思います。イベント性もまったくないものを、あえて「現役ドラフトやります」なんてニュース化することはない。「12球団合同でトレードを実施します」「各球団こういう選手を候補として考えています」って言ったほうがしっくりきますし、現役ドラフトいう名称ではなく「12球団合同トレード」でいいと思います。

――確かにわかりやすいですね。現状のルールで問題点を挙げるとすれば?

高木 各球団が少なくとも選手をひとりは獲らなきゃいけないようですが、戦力として厳しい選手をまた抱えるようなことになると、どこの球団も嫌ですよね。そういう可能性もあるので、「必ずひとりは獲らなきゃいけない」という制度はどうなのかなと思います。

 あと、選手の意志が反映される部分があってもいいかなと。例えば、移籍したい選手に手を挙げさせるのもいいかもしれません。1億円くらい年俸をもらってる選手でも、「試合に出るチャンスがない」「このままだったら年俸が下がっちゃう」とか、いろんな思いを抱えている選手もいるはず。そこで他の球団でチャレンジしたいと思いを表明する機会になったらいいですよね。

――「年俸5000万円以上の選手」は除く(1名に限り対象とできる)という縛りとは逆の考え方ですね。

高木 そうですね。居たくない球団には居たくないでしょうし、そういうモチベーションでは働けないでしょう。例えば、巨人が今年のドラフトで浅野翔吾(高松商)を獲ったじゃないですか。これは絶対にありえない話だと思いますが、浅野をセンターで使うとしますよね。そうなるとセンターを守っている丸佳浩を外すことになり、将来的に丸はピンチになる。キャリアに関わってくるので、「だったら僕はチームから出ます」と思う可能性もあるわけじゃないですか。そういう選手を救済したほうがいいと思います。

――出場機会は年俸の高低に関係なく、すべての選手が求めていることですからね。

高木 現役ドラフトの主旨は「出場機会に恵まれない選手の救済」ということですが、今いるチームで頑張れない人間は他のチームへ行っても頑張れないと思います。仮に「移籍した選手は、必ず1年は一軍のベンチから外れない」といった条件があって、実際にそれに見合う選手であればいいですよ。でも、ずっとファームでくすぶっていた選手が他の球団に行って、一軍で試合に出続けるっていうのはちょっと考えられません。各球団がお金をかけて一生懸命に育てようとした選手が、それが叶わずに他の球団へ行ったからといって、出場機会に恵まれるとは思えないんです。

 あと、将来的に伸びしろがある選手は出せませんよね。普通に考えれば、戦力として構想外の選手を出すと思います。そういった選手をひとり必ず獲らなきゃいけないというのは、逆に獲る側の負担にならないのかなと......。選手の立場からすれば、事実上の戦力外みたいなものですよね。

――必ず獲らなきゃいけないというのは負担になる?

高木 シンプルに考えれば、Bクラスに沈んだチームの中には選手層が薄いチームもありますよね。その中から出してもいい2人以上の選手って、戦力の層が厚い強いチームにとって要りますか? 要らないですよね。特別な選手を出すのであればいいですが、特別な選手は年俸5000万を超えてますから。

――高木さんが選手の立場だったとして、自分がリストアップされていたとわかったらどう思いますか?

高木 状況によると思いますが、「球団は自分のことを見捨てたのかな。戦力外と一緒だな」という感じで、前向きなとらえ方はできない気がします。あくまでも僕の考えでは、ですよ。

――実力がありながらもポジションがかぶっている選手がいる場合は、出す側にも獲る側にもメリットがありそうですが。

高木 そうですね。例えばヤクルトだったら、キャッチャーに中村悠平と内山壮真がいて、3番手に古賀優大がいる。ヤクルトではあまり出場できないけれど、他のチームに行ったら出場試合数が増えるかもしれない、という選手であれば「他のチームに行って頑張れ」と送り出してあげる。そういうケースはいいと思います。

 ただ、本当にそういう選手を出せるのかどうかですよね。「何かあった時のために古賀にはチームにいてもらいたい」と出し惜しみをすると、戦力として厳しい選手を提案せざるを得ません。そのほかに考えられるケースとしては、それまでは育成契約をしていたのに、急に支配下にしてその選手を出すといった可能性もあります。(今季の日本シリーズ終了後に育成枠から支配下登録された選手は除外される)

――確かにどういう選手がリストアップされるかわかりませんし、各球団がそこをどう考えるか。いずれにせよ、同制度で移籍したひとりでも多くの選手が一軍で活躍できればいいですね。

高木 移籍した選手の半数が一軍で活躍できれば成功だと思いますが、1、2人でも成功と言えるのか......。僕は難しいと思いますけどね。

 新しい取り組みに対しては必ず賛否が出ますし、周囲は最初、批判から入ることが多いんですよね。だから改革する側の方々は大変だと思いますが、熟考してここまでもってきて、いよいよ1回目が行なわれるわけですから。ただ、この制度が数回だけで終わってしまった場合、その数回にリストで出された選手は不幸を見ることになりかねませんし、慎重に進めていってほしいなと思います。

(後編:「現役ドラフト」でチャンスが広がりそうな選手たち>>)

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に解説したYouTubeチャンネルも人気を博している。