2歳牝馬を識者たちがランキング。阪神JFの行方が見えてくる
好メンバーが集ったアルテミスSを快勝したラヴェル
2歳女王決定戦となるGI阪神ジュベナイルフィリーズ(阪神・芝1600m)が12月11日に行なわれる。
ここまでに行なわれた2歳重賞のうち、牡牝混合の重賞で牝馬が勝ったレースは、GIII函館2歳S(7月16日/函館・芝1200m)、GIII新潟2歳S(8月28日/新潟・芝1600m)、GIII札幌2歳S(9月3日/札幌・芝1800m)と3戦。他にも、GIII小倉2歳S(9月4日/小倉・芝1200m)、GII京王杯2歳S(11月5日/東京・芝1400m)の2戦で、牝馬が馬券圏内(3着以内)に好走している。
こうした結果を踏まえれば、今年の2歳牝馬のレベルは間違いなく高い。その激戦の2歳牝馬戦線において、女王の座に就くのはどの馬か、非常に興味深いところだ。
そこで、阪神JFを前にして2歳牝馬の実力を診断。現時点での『Sportivaオリジナル番付(※)』を発表したい。
※『Sportivaオリジナル番付』とは、デイリー馬三郎の吉田順一記者、日刊スポーツの木南友輔記者、JRAのホームページでも重賞データ分析を寄稿する競馬評論家の伊吹雅也氏、フリーライターの土屋真光氏、Sportiva編集部競馬班の5者それぞれが、来春のクラシックを目指す2歳牝馬の、現時点における実力・能力を分析しランク付け。さらに、そのランキングの1位を5点、2位を4点、3位を3点、4位を2点、5位を1点として、総合ポイントを集計したもの。
1位は、牝馬の出世レースのひとつ、GIIIアルテミスS(10月29日/東京・芝1600m)で驚異的な決め手を繰り出して勝利を飾ったラヴェル(牝2歳/父キタサンブラック)。今年の3歳牝馬三冠レースで上位争いを演じてきたナミュールが半姉ということもあって、その注目度は日に日に増している。
木南友輔氏(日刊スポーツ)
「ナミュールの半妹。父がハービンジャーからキタサンブラックに代わりましたが、イクイノックスやガイアフォースといったキタサンブラック産駒の活躍ぶりを見れば、来春のクラシックまで牝馬戦線の中心はこの馬と見ます」
伊吹雅也氏(競馬評論家)
「11月27日終了時点の本賞金は3600万円。牝馬のなかでも4位タイどまりです。ただし、デビューから2連勝でアルテミスSを制したことで、一走あたりの賞金(1800万円)は牝馬のなかだと単独トップ。まだ底を見せていないこともあって、評価を引き上げました。
半姉にナミュールがいる良血で、さらに父キタサンブラックはいわゆる"POG期間"中の勝ち馬率や1頭あたりの賞金がかなり優秀な種牡馬。しばらくはこの路線の主役に君臨し続けるのではないでしょうか」
土屋真光氏(フリーライター)
「能力がありながら繊細な面が強かった半姉と異なり、半姉に匹敵する能力に、いい意味での図太さが加わって、それがうまくかみ合っている印象です。
キタサンブラック産駒らしく、自力で動いてレースの流れを引き寄せることができるのも強み。アルテミスSでの立ち回りはまさしくその特長が生かされたもので、総合力では現メンバーではひとつ抜けた感があります」
2位は、同じくアルテミスSでラヴェルに僅差の2着と奮闘したリバティアイランド(牝2歳/父ドゥラメンテ)。デビュー戦で見せた31秒台の末脚もまた、強烈なインパクトを残している。
吉田順一氏(デイリー馬三郎)
「キ甲の抜け具合や馬体のバランス、トモ腰の完成度やここ2戦でのパドックの気配からすれば、完成度は高め。アルテミスSでは、長距離輸送がありながらも4kg増でレースに臨み、クビ差しの緩みなどからすれば、お釣りは残していた状態と見ていいでしょう。
レースでは超スローペースのなか、終始他馬にフタをされる形。直線に入ってからも、勝ち馬ラヴェルに閉じ込められる状況を強いられました。その結果、そこから立て直して追撃したものの、コンマ1秒差の2着に終わりました。
トビが大きく、追ってから長くいい脚が使えるタイプ。アルテミスSでも、もう少し早く外に出せるか、前が開いていれば、勝っていた内容。ゴール前の脚勢とレースぶりからすれば、世代ナンバー1の評価は揺るぎません。2歳女王はもちろん、来春クラシックでの期待値もマックスです」
本誌競馬班
「新馬戦で上がり31秒4という驚異の末脚を繰り出して快勝。アルテミスSでは2着に敗れたものの、勝ち馬との差は、直線で前が壁になって仕掛けが遅れた分の差と見ます。スケールの大きさは世代屈指です」
3位は、新馬、オープン特別のコスモス賞(8月13日/札幌・芝1800m)と2戦2勝のモリアーナ(牝2歳/父エピファネイア)。阪神JFには、3カ月半の休み明けで挑む。
吉田氏
「コスモス賞の時点では、前腕のボリュームが目立ってトモがペタッとしており、今後はそこが膨らんでほしいです。前後のバランスが整ってくれば、もう1段階のレベルアップが可能でしょう。
つなぎが長く、柔らかさがあり、平均的なラップやタフなハイペースでの体力勝負でパフォーマンスを上げるタイプ。小回りの札幌で2番手から抜け出した競馬にセンスの高さを感じますが、長い直線でも前づけして、しっかりと脚を使えそうです。主導権を握り、自分でペースを作れる強みを生かしていけば、面白い存在になりそうです」
木南氏
「テンションの高さが課題になりますが、コスモス賞で破ったドゥアイズの戦績(その後、GIII札幌2歳Sで2着)からして、能力が高いのは間違いありません。阪神JFでは、輸送をこなして、自分の力を発揮できるかどうかがカギ。血統的にはハイクレアにさかのぼる一族で、奥があっていいはずです」
4位には、函館2歳Sの勝ち馬ブトンドール(牝2歳/父ビッグアーサー)が入った。続くGIIIファンタジーS(11月5日/阪神・芝1400m)でも2着と好走。阪神JFでは、距離延長をどうこなすかがポイントとなる。
伊吹氏
「11月27日終了時点の本賞金は5000万円で、牡馬を含めても単独トップ。2020年のセレクトセールにて購買された時の価格は2200万円(税込み)。すでに倍以上の賞金を稼いでいます。
母のプリンセスロックが現役時代にダート短距離を主戦場としていたこともあり、今後の大舞台では距離適性などを不安視されそうですが、前走のファンタジーSも着順以上に高く評価できる内容でした。これまでの実績を過小評価される場面があったら、積極的に狙ってみたいです」
5位には、同ポイントでデインバランス(牝2歳/父エピファネイア)、ドゥーラ(牝2歳/父ドゥラメンテ)、ムーンプローブ(牝2歳/父モーリス)の3頭がランクインした。
吉田氏
「アルテミスSでは4着に終わったデインバランス。同レースでは、4kg減の472kgでしたが、エピファネイア産駒らしい重厚感があり、トモのボリュームは2歳馬離れしていました。パドックでもテンションは高くならず、レースではすんなり前づけができたことも好感が持てます。
超スローペースと馬込みの競馬で、多少力んでしまった辺りは若さでしょう。リバティアイランド同様、この馬も直線では内に入ってスムーズに追えず、道中でポジションを下げる形になったことも誤算でした。好位で折り合い、長い直線でしのぐような競馬ができるようになれば、大きいところでも戦えそうです」
伊吹氏
「ドゥーラは、牡馬相手の札幌2歳Sを快勝している点を高く評価したいところです。現2歳世代のドゥラメンテ産駒は11月27日終了時点で、JRAのレースにおける勝ち馬率(1着となった経験のある馬÷出走した経験のある馬)が33%。他の2歳リーディングサイアーランキング上位勢と比べても、かなり優秀な数字です。この馬はもちろん、これから出世してくる同産駒にも注目しておきたいと思います」
土屋氏
「前走で1勝クラスの白菊賞(11月27日/阪神・芝1600m)を快勝したムーンプローブ。デビュー戦は5着でしたが、余裕残しの状態で、さらにスローペースからのヨーイドンの競馬になったことが敗因でしょう。
その後は、マイル戦を2連勝。特によどみのない流れのなか、上がり34秒8でまとめた未勝利戦の勝利には目を見張りました。派手さはありませんが、ちょっとモノが違うと思いました。モーリス産駒特有の"3歳春の伸び悩み"さえクリアできれば、先々面白い存在になると思います」
ハイレベルな2歳牝馬戦線は、8位以下もまだまだ僅差の争い。今後のレース次第ではガラッとランキングは変動していきそうだが、まずは有力馬がズラリと集う阪神JFの戦いに注目である。