12月5日、アル・ジャヌーブ・スタジアム。カタールW杯決勝トーナメント1回戦で、日本代表はクロアチア代表とベスト8をかけて激突した。

「日本の攻撃は15番だ」

 外国人記者たちが、そう囁き合っていた。目利きの記者でも、そのプレーの虜になるという。噂になるほど、"スーパースターの前夜"の気配はあった。

 15番を背負った鎌田大地(フランクフルト、26歳)は今大会、トップ下、シャドーと言われるポジションに入って、攻撃を司っている。クロアチア戦も、エリア内でスルーパスを受け、角度のないところから際どいシュートを浴びせる一方、3列目に下がってボールを受け、ターンからのボールキープでリズムを作り出した。身体中で放つ予感のようなものが、バロンドール受賞者でクロアチア代表エース、ルカ・モドリッチと並びピッチ上で突出していた。

 しかし75分、鎌田は呆気なく交代を命じられる。守りを補強するチーム戦略なのだろうが、彼がいなくなった後、攻撃は緩急の変化を作れず、単調になった。もし勝利を目指すのだったら、鎌田を下げるべきではなかったが、そこで交代させられるのは、現時点での実力なのか、あるいは監督の不明なのか。

 試合は1−1のまま膠着。延長PKに突入し、日本は敗れ去った。


クロアチア戦に先発、75分に途中交代した鎌田大地

「言葉で表すのは難しい。何を言ったら正しいのか、わからないです」

 試合後、心境を聞かれた鎌田は、静かにそう振り返っていた。

 そのもどかしそうな表情に、今回もベスト8に進むことができなかった「今」が映し出されていた。

 クロアチア戦の鎌田は、今回のW杯で一番手応えを感じていた。たとえ守備陣形を作っても、相手に身を任せるのではなく、自分たちがボールを動かし、能動的に戦う。やっと「サッカー」に再会していた。

「やっている感じは、4試合で一番いい感じで、ボールを握るプレーをトライできたし、プランどおりにできたかなと」

 そう語る鎌田の口調は穏やかで、敗戦に昂ったりしていなかった。ピッチ上でのプレーだけが己を表現する。彼は「サッカー」に興味があるのだろう。

【最高の鑑だったモドリッチ】

 今回の森保ジャパン26人の中でも、鎌田は異色の存在だ。

 ポーカーフェイスで我が道をいくタイプにもかかわらず、今や代表の旗手的存在になっている。そもそも森保ジャパンが緊急的に採用した5−4−1のシステムは、昨シーズンのフランクフルトがヨーロッパリーグでFCバルセロナを下したときの編成で、鎌田のよさを最大限に引き出すためのものでもあったという。それほどまでに、チーム内での立場は上がっていた。

 しかし、本人は少しも満足はしていない。

「今回、強豪国のスペイン、ドイツとはまだレベルの差があるなと。だからこそ、トップを目指したいです。今回のやり方(完全に引いて守ってのカウンター)で戦ったとしても、先はない」

 鎌田の言葉は強烈だ。しかし、それも腹を決めているからだろう。

「多かれ少なかれ、(今回のW杯で)悔しさを感じた選手と、活躍を嬉しく感じる選手の差はあると思います。でも、みんな同じで、そういうところを見せず、チームのために戦っている。W杯だからこそ、やっているんです」

 彼の視線はフラットだが、情熱も透けて見える。

「スペシャルなものはない」

 鎌田はそう言うが、だからこそ周りを生かし、自らも輝けるプレーのディテールにこだわってきた。クロアチア戦もそうだったが、特に遠藤航、堂安律と近いポジションを取ると、連係から面白いように敵を凌駕。遠藤、堂安のプレーを際立たせた。

 その行き着く先はトータルプレーヤーか。ピッチのどこにいても最善の判断ができ、周りの選手を動かせる。チームを輝かせ、勝利に導くという点で、クロアチアのエース、モドリッチは最高の鑑だった。

「(モドリッチは)37歳であれだけ動けるのは驚きで、自分がたどり着くべき最大値なのかなと思っています」

 鎌田も言うように、そこに到達点はあるのかもしれない。

 今大会の鎌田は、試合ごとに波があった。ドイツ戦は殊勲者だったが、コスタリカ戦は絶不調。スペイン戦は奮闘していたが、クロアチア戦は途中交代を余儀なくされている。おそらく、森保ジャパンでの適性ポジションはインサイドハーフだった。一番周りの選手と関係性を結ぶことができ、サッカーセンスが際立った。だがシャドー、トップ下だと、押し上げが少ない前線では孤立した。

 それは凄まじいストレスで、彼のなかでうごめくものがあったはずだ。

「次の大会は、自分ができるだけいいクラブへ行って、代表として出場できるように」

 鎌田は高らかに言っている。はっきりと言える自信は、濁りのない虚栄心のようで、むしろ輝かしい。

「ビッグクラブでプレーする選手は余裕というか、落ち着きがありますね。ピッチの上での自信というか。それを身につけるには、そういう舞台で戦い続けていないと」

 鎌田は、ビッグクラブでのプレーも照準に据えている。今の日本サッカーを牽引する存在になるのだろう。そして彼の後にビッグクラブでプレーする選手が増えるほど、大舞台で「サッカーをする」のも不可能ではなくなり、スペインやドイツにも真っ向から戦えるようになる。

「自分はまだ未完成な選手です。出来上がっていない。これから4年で成長できるように(したい)。プロに入ってからずっと成長してきたので、その経験則を生かして」

 そう語る鎌田の存在が、次のW杯に向けた日本代表の指針になるかもしれない。