遠藤航「ようやく世界と対等に戦える土台に乗った」。その先のベスト8進出へ、4試合で痛感した今の日本代表に足りないもの
ピッチ脇でのフラッシュインタビューから複数の取材を終え、活字メディア用のミックスゾーンに現れた遠藤航は、すでに通常モードに戻っているように見えた。試合直後の涙のあともなく、少なくとも表面上はすっきりとして見えた。
それでも遠藤は、心境を聞かれ、まず、ひと言答えた。
「悔しいですね、はい」
クロアチア戦で攻守にわたり活躍した遠藤航
120分を戦い終えて1-1。PK戦にもつれ込んだ。遠藤は5番手キッカーを希望していた。
「蹴りたい人から蹴っていって。浦和の頃から5番手で蹴っていたから。俺は蹴りたかったけど、蹴るなら5番手がいいと」
だが、出番はまわってはこなかった。 相手の4番手マリオ・パシャリッチが決め、勝敗は決した。クロアチア選手たちの喜ぶ姿を、遠藤は両手を腰にやり、やりきれない表情で見つめるしかできなかった。
「いやもう、蹴りたい人から蹴るところでも、仲間を信じるしかなかったんで。とにかく蹴った選手のことを責めないし、これはチームとしての結果なんでそれを受け入れなきゃいけないし、PK戦まで持ち込んでしまったというところが......うん、よくなかったって。まあ、よくなくはないですけど、お互いそこはまあしょうがないというか......PKは......しょうがない部分もあると思います」
そう言って、敗戦を受け入れる作業をしているようだった。
古傷がコスタリカ戦で悪化した右ひざの負傷もあり、グループステージ第3戦スペイン戦は87分からのプレーにとどまっていたが、クロアチア戦では先発復帰。負傷だけでなく疲労も回復したのか、前半から軽快な動きを見せた。
ボール奪取だけでなく、効果的な縦パスがこの日は効いていた。いくども遠藤のパスから攻撃が生まれた。デュエルに強いことが今や遠藤の代名詞となったが、攻撃につながるプレーはロシアW杯以降取り組んできたテーマだったという。
「そこは自分のよさでもあるっていうか、1対1の部分だけじゃなくて、ああいう縦パスだったり、攻撃に関わっていくところはもうずっと4年間やってきた部分ではあるので。それをシンプルに出したと思いますけど。
でもまあ、やっぱり、もうちょっとね。特に延長だったり、タフな試合の展開になった時に、もっとね......存在感を出せればなっていうのありました」
取り組みの成果は出せたが、試合の結果にはつながらなかった。
【遠藤が4試合で実感したこと】出場のなかったロシアW杯終了直後、遠藤はベルギーのシント・トロイデンに移籍した。W杯で1秒も出場機会がなかった悔しさと、ベスト8進出のために何が必要か考えた結果だったと、当時のブログで明かしている。
翌2019年からは当時ドイツ2部だったシュツットガルトにレンタル移籍し、1部昇格に貢献して完全移籍を勝ち取った。東京オリンピック後の2021-22シーズンにはチームの主将にも指名されて、シーズンを通して活躍。リーグ最終節には後半ロスタイムに得点し、チームを降格の危機から救った。
考えうるかぎり、最大、目一杯に経験を積んで臨んだカタールだった。だが、ベスト8進出は叶わなかった。
そんな自身の経験を踏まえて言う。
「こうやってクロアチア相手に対等にはやれたと思っているし、日本代表の選手たちもクオリティは高くはなっているし、それぞれいい経験を所属クラブでしているのかなとは思います。でも、これでようやく世界と対等に戦える土台に乗った、というところかなっていうのが個人的な見解です。
ここからヨーロッパでやる選手が、もっともっと増えなきゃいけない。20人、30人、2チーム分ぐらい作れるぐらいになれば、チームとしてまたさらに上にいけるのかな、っていうふうには思っています。そういう意味で、成長はしているけれど、まだまだベスト8に行くには足りなかったっていうところかと」
個々にいい経験はしているけれど、まだまだ勝負できるレベルにようやくたどり着いただけ。遠藤ひとりだけでなく、より多くの選手が欧州でプレーし、単にプレーするだけでなく、所属クラブで代表に還元できるような経験をすること──。それらが上を目指すにはまだ足りない、と実感したのが、この4試合だった。
その一方で、クロアチアとも対等に戦え、ドイツやスペインを破ることはできた。だからこそ、欲は出るし、悔しさは募る。
【4年後のW 杯では33歳】「ここまでの4年間は無駄ではなかったと思う。ただやっぱり、ベスト8に行きたかったっていうところはもちろん本音で。今までやってきた努力がここで終わるわけじゃないんで、ここから先の次のワールドカップに向けて、また新しいチャレンジが始まるという考えです」
この4年間以上の経験値を得ることは、簡単ではない。遠藤は、来年2月には30歳になる。
次回大会は、ベテランとして何をもたらせるか──。今回とはまったく違った貢献を求められることにもなる。だが、次こそはベスト8という決意とともに、また新しいチャレンジが始まる。
手がかかりそうで届きそうだったが、結局は届かなかったベスト8に4年後こそ到達するために......。ロシアからカタールの間に得た以上の経験値を得るべく、遠藤は再び歩み始める。