「シーズン中よりお話しいただいていたWBCの出場に関しましては、栗山監督に出場する意思がある旨を伝えさせていただきました。各国のすばらしい選手や、5年ぶりに日本のファンの皆様の前で野球ができることを楽しみにしています!!」

 11月17日、エンゼルスの大谷翔平がSNSでこう記し、来年3月に開催する第5回WBCへの参加を表明した。

 その起用についてはまだ明らかにされていないが、"二刀流"ではなく、打者のみの出場が濃厚ではないかとの見方が強い。そこで話題に挙がるのが、「大谷は何番に入るのがいいのか?」ということだ。いろんな組み合わせが考えられるなか、大谷を何番に据えればもっとも打線が機能するのか。近鉄、ヤクルトなどで打撃コーチを歴任し、多くのスター選手を育てた野球評論家・伊勢孝夫氏に聞いた。


WBC参戦を表明した大谷翔平。気になるのはその起用法だ

打線の軸は大谷翔平と村上宗隆

「大谷は指名打者で2番に入るのでは?」という声をよく聞く。エンゼルスでは2番に入ることが多かったから、この打順がしっくりくるというのがおもな意見なのだろう。

 まず侍ジャパンの打線を考えた時、間違いなく軸になるのは大谷と村上宗隆(ヤクルト)のふたりだ。強化試合や栗山(英樹)監督のコメントなどを見る限り、4番は村上の可能性が高い。そうなると、2番・大谷、4番・村上は十分に考えられる。

 たしかに、大谷のような強打者が2番に入れば、打線は活発化するし、先制点のチャンスも広がる。ただ、どのチームも大谷を警戒し、場合によっては勝負を避けてくるケースも出てくるはずだ。となれば、村上のつなぎ役となる3番打者の重要性が高まってくる。

 では、3番に入るのは誰か? 先月行なわれた強化試合の起用を見ると、山田哲人(ヤクルト)、もしくは牧秀悟(DeNA)が候補に挙がる。なかでも強化試合で安定した実力を発揮した牧は、本戦でも主力として期待されている。

 牧は一発もあるが、持ち味は左右に打ち分けられるテクニックだ。とくに右打ちのうまさには定評がある。

 国際大会を見ていて感じることだが、メジャーを筆頭とした海外の投手はテイクバックが小さくタイミングがとりづらい。それでいて球威があるから差し込まれてしまう。おそらく海外の投手に慣れていない日本人選手の多くは苦労すると思うが、牧はしっかりボールを引きつけながらも、ポンとバットが出て逆方向に打てるタイプだ。

 こういうバッティングができる選手はチームにとってものすごく貴重で、個人的には牧を2番に据えたほうがつながりはいいのではないかと思っている。大谷、村上をあえて分断するという考えもあるが、彼らが並ぶほうがより相手にとって脅威となるはずだし、大谷と勝負をせざるを得ない状況も増えるだろう。

 当然、大谷、村上は左打者だから、5番はどうしても右打者が必要となる。タイプ的には山川穂高(西武)のような長距離打者がいい。そして6番に森友哉(オリックス)、7番に山田......。

 ちなみに、1番は相手投手との兼ね合いや状態の善し悪しで近本光司(阪神)、塩見泰隆(ヤクルト)らを使い分け、8番、9番に源田壮亮(西武)、近藤健介(日本ハム)あたりが入れば、より厚みが増すのではないか。

短期決戦の鉄則は固定しないこと

 ただ、短期決戦で勝ち抜くために重要なことは、"固めすぎない"ことだ。ジャパンのような選抜チームには、ベストオーダーというものは存在しないと思っている。要は、選手の好不調を探りながら、試合ごとにオーダーを変えてもいいということだ。これがシーズンを戦うペナントレースと大きく異なる点だ。

 シーズンなら、多少目をつぶってでも育てるべき選手を我慢して使い続けることもあるし、調子を落としている実績ある打者の状態が上向くまで待つということもある。だが、短期決戦ではそんなことをしている余裕はない。ひとつの判断ミス、決断の遅れが命とりになってしまう。とはいえ一戦の重みが増すほど、監督は決断を恐れ、つい打つ手が遅れてしまうものだ。

 その点、栗山監督は日本ハムというお世辞にも選手層が豊かでなかったチームを指揮し、日本一にまで導いた実績がある。言い換えれば、固定したくてもできなかったチームをなんとかやりくりして、勝利を求めてきたわけだ。

 しかも本拠地の札幌ドームはホームランが出にくい球場として知られており、だからこそどうすれば打線がつながり、得点する可能性が高いのかをずっと考えてきたはずだ。そんな経験がWBCの舞台で生きるような気がする。

 気になるのは、鈴木誠也(カブス)や柳田悠岐(ソフトバンク)といった経験ある打者が最終メンバーに入るのかどうかという点だ。当然のことながら、彼らが参加する、しないで打線は大きく変わってくる。その場合、大谷を何番に入れれば得点効率が上がるのかということは、必ずその根拠として栗山監督なりの理屈があるはずだ。

 はたして、WBC本番で栗山監督がどんなオーダーを組んでくるのか楽しみでならない。

伊勢孝夫(いせ・たかお)/1944年生まれ。現役時代は勝負強い打撃で「伊勢大明神」と呼ばれ、近鉄、ヤクルトで活躍。現役引退後はヤクルトで野村克也監督の下、打撃コーチを務め、ID野球を実践し3度の優勝に貢献。その後、近鉄や巨人でもリーグを制覇し優勝請負人として名高い。2016年からは野球評論家、大学野球部のアドバイザーとして活躍している。