12月5日、カタールW杯ベスト8をかけたクロアチア戦。日本はルカ・モドリッチを相手にどう戦うか。

 モドリッチはいわゆるスーパースターであり、ドイツ代表、スペイン代表にはいなかったレベルの選手だ。

 レアル・マドリードに所属し、昨シーズンも欧州戴冠に貢献している。2018年にはバロンドール(世界最優秀選手賞)を受賞。リオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウドが過去10年間、交互に分け合ってきた牙城を崩した。インテリジェンスと技術、そして品格という点で、過去20年間ではシャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタに並ぶ最高のMFと言える。

 すでに37歳になるが、少しも衰えていない。旧ユーゴスラビアの紛争のなかを生き抜いたタフネスが光る、と括るのは、あまりに安易な理由づけだろう。しかし、そうでもなければ説明がつかないほどの水準を維持している。今シーズンも試合では神出鬼没。テンポを変えるだけで相手を翻弄し、味方を生かすパスだけでなく、自らもゴール前に入る。

「うまい」

 単純にそう言いたくなる選手だ。では、モドリッチ擁するクロアチアはどんなチームで、日本はどう戦うべきか?


カタールW杯でここまで3試合、ほぼフルで出場している37歳のルカ・モドリッチ(クロアチア)

 クロアチアは天才肌の選手を多く輩出していることから、どこか華やかな印象がある。モドリッチだけでなく、過去にもズボミニール・ボバン、ダボル・シュケル、ロベルト・プロシネチキなど、規格外のスキルとダイナミズムがあった。赤と白のユニフォームのデザインも派手さを演出している。

 しかし、チームの骨格はソリッドな守りと鉄血で結ばれたような連帯感にある。

 今回も、グループリーグの失点はわずか1。守備ブロックを作った時の堅牢さが際立つ。とくにセンターバックは頼もしい面子ばかりで、ドマゴイ・ビダ、デヤン・ロブレンはやや衰えが見えるが、20歳のヨシュコ・グヴァルディオルやイタリアで研鑽を積むマルティン・エルリッチが台頭。あらゆる攻撃を跳ね返す「いかつさ」だ。

 守備面では、それぞれの選手が持ち場を守る意識や技量が高く、ほとんど破られることがない。犠牲精神の強さが、難攻不落を作り出している。天才的なプレー一発でゴールを決められたら、勝利に近づくという算段だろう。前回のロシアW杯では、決勝こそフランスと打ち合って4−2と軍門に下ったが、守備力でそこまで勝ち上がった。

「気を抜くなんて、あり得ない」

 モドリッチは、そんな泥臭いサッカーに彩りを与える。

 モドリッチの異能は、どのポジションにいても、そこで必要とされるタイミングでアクションを起こせることにある。トップ下でも、アンカーでも、サイドでも、彼は周りを動かし、自らも輝く。どこでも100%の力を出せる「トータルプレーヤー」で、おそらくポジションの概念などないのだろう。それゆえ、意外性のあるプレーを繰り出せるのだ。

 性格的には寡黙なタイプである。少なくとも、決して饒舌ではない。天才アタッカーは自己顕示欲の強さが仇になるタイプも多いが、彼は常にチームプレーヤーとして振る舞う。といっても、おとなしいということではなく、激情の持ち主だけにゲームで敗れた後などはその本性が出る。

「Vinagre」

 レアル・マドリードのチームメイトからは、スペイン語でしばしばそう揶揄される。「ビネガー(酢)」が直訳になるが、転じて「怒りっぽい人」「不機嫌な人」を意味する。負けると仏頂面になって、いつも以上に寡黙になるからだ。

「自分には、いつも"もっとできる"という思いがある。サッカーに関しては、満足するなんてことはない。それは幼少期に、クロアチアで戦争を体験したからかもしれない。サッカー選手になって、気を抜く、緩めるなんて、あり得ないんだよ」

 モドリッチはこともなげに語っているが、その意味は深い。

 幼少期は過酷だった。紛争の勃発によって6歳で故郷を追われ、祖父を殺され、避難を続け、難民たちと肩を寄せ合ってホテルで暮らした。彼にとって、ホテルの裏でボールを蹴る時間だけが、つらさを忘れさせたという。いつしか、「サッカーによって自分が生かされた」という思いが芽生えたのだろう。

「自分にとって、プレービジョンやテクニックは自然にあったもの。(どうして自分のようなプレーができるのか)説明するのは難しい。その能力に恵まれたことに感謝し、ひたすら改善を重ねてきただけだよ」

 そのモドリッチと、日本代表でマッチアップすることになりそうなのは、遠藤航、守田英正、田中碧のいずれかになる。劣勢にはなるだろうが、対抗できなくはない。3人とも渡り合えるだけの実力者だ。

 今シーズンのチャンピオンズリーグでは、セルティックの旗手怜央がレアル・マドリードのモドリッチとマッチアップ。一歩も引かない互角の戦いぶりだった。ただ、チームとしては0−3とホームで完敗。何かが足りなかった。

 つまり、そこにバロンドーラーとの差はあるのだろう。

 前回のファイナリストで、バロンドーラーを擁するクロアチアと対決するのは、日本サッカーの栄誉と言える。歴史の分岐点にふさわしい。

「次のベスト8を目標にやってきた」

 スペイン戦後、ベスト16に駒を進めた日本代表選手たちは高らかに言っている。ドイツ、スペインを神がかった展開で下した日本サッカーの真価が、その一戦で問われる。英雄モドリッチも踏み越えられるだろうか。