グループFの第3戦、クロアチアはベルギーに勝ち、何が何でも勝って首位通過をしたかった。ラウンド16で対戦するグループEの首位はスペインだと信じており、それを避けたかったのだ。クロアチアはここ5年でスペインと3回対戦し、うち2回は敗れている。2018年ネーションズリーグでは0−6というスコアで打ちのめされ、昨年のユーロ(ヨーロッパ選手権)では5−3で敗れ、大会から敗退した。クロアチアにとってスペインは鬼門なのだ。

 だが結局、ベルギー戦は0−0に終わる。ベルギーも次に駒を進めるには勝利が必要で必死だったのだ。その結果、クロアチアは首位をモロッコに譲り、2位で決勝トーナメントに進出した。

 対戦相手を知るには4時間後のグループEの結果を待たなければいけない。そして予想に反してそれが日本だと知った時、クロアチア国内にはまるで宝くじに当たったかのような喜びが広がった。クロアチアのメディアには「幸運の女神は我々に微笑んだ」などと書く者もいた。


日本戦に向けてモチベーションを高めているクロアチア代表 photo by Fujita Masato

 ただもちろん、ドイツとスペインを破った日本を決して過小評価してはいけないという声はあちこちで聞かれる。そして何より選手もコーチもサッカー協会の幹部も、日本はリスペクトすべき相手であることは知っている。

「スペイン対日本戦を見た限り、日本は非常によくまとまり、統制され、責任感のあるチームだと感じた。そしてすばらしい闘争心を見せている。こうしたことは前から知っていたことだが、今回、あらためて実感した」

 監督のズラトコ・ダリッチは言う。

「正直、次の対戦相手を自由に選んでいいと言われたら、私は日本を選んだろう。しかし、それは我々にとって御しやすいチームだからというわけではない」

 そして日本と戦う方法について、こう述べている。

「スペイン戦とドイツ戦は、日本が決してあきらめないチームであることを教えてくれた。我々は何よりも我慢強さをもって対峙することが重要だ。また、試合立ち上がりのミスを少なくし、相手をクロアチアのリズムに巻き込まなくてはいけない。日本は8人の選手がブンデスリーガでプレーしているし、そのほかの選手も多くがヨーロッパでプレーしており、世界での戦い方を知っている。

「日本相手も驕らずにプレーを」

 日本はW杯を重ねるごとに成長し、目指すものも高くなってきている。彼らはこれまでに3度決勝トーナメントに進出しているが、特に忘れられないのはロシア大会でのベルギー戦だ。あの好調のベルギーを2−0とリードし3点目も奪うほどの勢いだった。またその後、2−2にされたあとでさえ、勝利を目指していた」

 そして日本戦への心構えをこう語った。

「まずグループリーグを突破することを目標に、我々はカタールにやってきた。つまり、ここまでで一応、目標は達成したことになる。決勝トーナメントは一発勝負。何より謙虚に、落ち着いてプレーすることが大事だ。だから日本相手にも驕らず、しかし強い気持ちを持ってプレーすることが大事だ」

 日本とクロアチアは過去に2回、W杯で対戦している。1998年のフランス大会ではダボル・スーケルのゴールで1−0の勝利、2006年のドイツ大会では0−0だった。

 クロアチアはユーゴスラビア紛争を経て独立、1996年のヨーロッパ選手権で初めて自国のユニホームを着て国際大会の舞台に立った。今回ベスト16に残った国のなかでは人口が380万人と一番少なく、選手ひとりひとりが自国の代表であることを強く意識している。これまでヨーロッパ選手権とW杯に合計12回出場し、2018年ロシアW杯ではあと一歩のところで優勝を逃がした。それだけに今大会にかけるモチベーションは高い。日本を破り、その後はブラジルを倒し、先に進みたいと思っている。

 ダリッチはクロアチアサッカー史上、最も成功した監督と言われている。最近ではチームをネーションズリーグのトップ4に導いている。卓越した戦術家であり、また周囲との関係を非常に重視している。彼のスタッフに、イビチャ・オリッチ、ベドラン・チョルルカ、マリエ・マンジュキッチ、マリジャン・ムリッチ(GKコーチ)と、4人のレジェンドが名を連ねているのも、彼の人望のおかげだろう。

 クロアチアはここまでまだ本当の強さを見せていないと思う。モロッコ戦はひどかったし、ベルギーとの引き分けは運のよさにも助けられた。一番の問題はチームに真のゴールゲッターがいないことだろう。

「まるでスズメバチみたい」

 そしてチームのキーマンは間違いなくルカ・モドリッチ。現在37歳だが、ゲームのメインクリエイターであり、守備の面でも自分を犠牲にしてプレーし、チーム全体に良い影響を与えている。

「我々はすべての面において、よく準備されたチームだと思う。何よりも大事なことは、ケガ人がいないことだ。ロッカルームの雰囲気も最高である」

 ダリッチ監督は続ける。

「代表チームは家族。これは我々のスローガンのひとつである。もちろんレギュラーの座を巡ってのライバル心はあるだろう、誰もがW杯でプレーしたい。しかし選手たちの関係はとても良好だ」

 クロアチアメディアは現在、いったい日本のどの選手が一番危険な存在なのか、分析に余念がない。日本でプレーした経験のあるふたりの選手、ミハエル・ミキッチ(元サンフレッチェ広島)とニーノ・ブーレ(元ガンバ大阪)はいまや引っ張りだこだ。特にミキッチはかつて森保一監督の下で5シーズンプレーをしているだけあって、誰もが彼の意見を聞こうとする。

 ミキッチは日本の一番の長所を端的に「疲労の極限まで続く粘り強さ」と言う。一方、クロアチアが日本より優れている点は「経験と選手のレベル」だと述べた。

「クロアチアは高さとジャンプ力を生かして、セットプレーを有効に使うべきだ」とも語る。一方、日本は非常に運動量が多いので、クロアチアの中盤の選手たちがその激しいアプローチにどう対処するかが重要だとも言っている。

 これまでの日本の試合でミキッチはサイドアタッカーの伊東純也と三笘薫が気に入ったようで、彼らと直接対峙することになるだろうヨシップ・ユラノビッチとボルナ・ソサに警告を発している。

 一方のニーノ・ブーレは、「最後まで戦い続ける試合になる」と予測。そして日本のサッカーを「日本は疲れを知らず、空いたスペースをうまく利用し、そこから突然、刺しにくる。まるでスズメバチみたいだ」と表現している。

 個々の日本選手の情報は、同じチームでプレーする選手からもダリッチ監督にもたらされている。例えば鎌田大地はクリスティアン・ヤキッチとフランクフルトで一緒にプレーしているし、前田大然はヨシップ・ユラノビッチとセルティックでチームメイトだ。

 日刊紙『ユータルニ・リスト』は、堂安律はピッチに革命を与えるジョカーだと紹介し、堂安に加えて鎌田、冨安健洋がクロアチアにとって最大の脅威だと分析している。

『スロボンダ・ダルマチア』紙は、吉田麻也がクロアチア代表におけるルカ・モドリッチの役割を担っているとしている。つまりチームに安定感を与える存在ということだ。長くヨーロッパでプレーする彼はサムライたちのキーパーソンで、彼の唱える「精神と連帯」は日本代表の根底にあるものだとしている。