「すばらしい試合だった。何より戦術的なディシプリンは瞠目に値した。かなりの犠牲的精神が必要だったはずだ」

 スペイン人指導者、ミチェル・エチャリはそう言って、日本がスペインを2−1の逆転で下した試合を振り返っている。

 エチャリはフランシスコ・デ・ペドロ、ホセバ・エチェベリア、シャビ・アロンソなど名だたるスペイン代表選手の成長を手助けしたことで知られる。監督養成学校のマスターでもあり、元ヴィッセル神戸監督のフアン・マヌエル・リージョは秘蔵っ子のひとりである。バスク代表(FIFA非公認)監督も10年以上務め、非公式ではあるが、破格の戦歴を残している。

「日本とスペイン、どちらもベスト16に進むことができて本当によかった。日本はそれに値する戦いをした。交代のタイミングはこれ以上ないほど適切だったし、ゲームマネジメントは満点だ」

 エチャリは90分の戦いを評価し、詳細を語り始めた。


ミケル・エチャリがスペイン戦のベストプレーヤーに選んだ守田英正

「日本は5−4−1を選択し、試合に入っている。ライン間をコンパクトに保ち、実に整然とブロックを組んでいた。7分にはボール奪取から伊東純也がシュートを狙うなど、『堅守カウンター』の狙いがはっきりしていた。

 一方のスペインは"通常運転"だった。自分たちがボールを握り、スペースを作りながら攻め込む。敵のラインを押し下げ、その前にポイントを作り、決定的なプレーをする。12分には、まさにその展開から、セサル・アスピリクエタが右からアーリークロスを送り、ゴール前でマークを外したアルバロ・モラタがヘディングで叩き込んでいる。
 
 そこで私が着目したのは、失点後の日本のアクションだった。守りきるはずだったプランが崩れる形でゴールを奪われ、少しでも動揺が出ていたら、たたみ込まれたはずだろう。しかし日本の選手たちは、それまで以上に整然とブロックを固めている。ラインはほとんど乱れず、粘り強く寄せ、与えるスペースは最小限だった。
 
 これによって、スペインは攻めながらも追加点を奪えなかったのである。

「持たれる」のではなく、「持たせる」に

 守田英正はこの日のベストプレーヤーと言えるだろう。抜群の戦術センスで、攻守のバランスを取っていた。スペースをマネジメントし続け、それゆえにパスカットにも成功している。

 また、伊東もボールへの反応が良かった。カウンター戦術を一番理解していたのも彼かもしれない。そして板倉滉もすばらしかった。モラタの得点シーンでは吉田麻也とのマークの受け渡しがうまくいかなかったが、前に出るディフェンスが非常によく効いていた」

 エチャリは3人の選手への評価を惜しまず、後半の怒涛の展開についても賞賛した。

「後半、日本の出足が良くなった。48分、GKウナイ・シモンまでプレスで追い込むと、左サイドでもキープを許さず、次々にプレスをかける。完全に嵌め込み、ウナイ・シモンがやや乱れたパスを左サイドのアレハンドロ・バルデに送った時、伊東が体ごとぶつけるようなチャージで奪い返すと、拾った堂安律が左足でゴールを撃ち抜いた。

 日本はシステムを見事に使いながら、交代選手を入れた立ち上がりのタイミングだけ強度を高め、スペインを一気にパニックへ追い込んだ。同点弾の3分後には、堂安が右サイドから入れたクロスを三笘薫がラインギリギリで折り返し、田中碧が飛び込んで押し込む。これで逆転に成功したのだ。

 スペイン国内でこのゴールは議論の的になっている。VARの判定に異議も出た。しかし、これは議論の余地がない正当なゴールである。ルールを知らない人間が流布させた判定への不服を、日本の方々は聞く必要などない。

 逆転した日本は、その後、再び守りを固める。タクティカルゲームに持ち込む。敵ボールホルダーがトライするようなボールを出せないようにしていた。その加減がとにかく抜群で、『持たれる』のではなく、『持たせる』に仕向けていたのである。

 スペインの選手たちは、ボールを持ちながらも、トライして失うのが怖く、手を出せない有様だった。

 70分には、三笘がカウンターですばらしいコントロールから抜け出し、左を駆け上がる。際立ったタイミングで横に流し、それを受けた浅野拓磨は絶好機だった。しかし浅野はトップスピードだっただけにコントロールを誤ったのか、もしくは明らかなシュートミスだったのか。

 追加点はならなかったが、日本は選手たちが最後まで戦術を運用できていた。最終的には、それが勝利につながった」
 
 エチャリはそう言って、クロアチア戦に向けて日本代表にエールを送っている。

「本当にすばらしい勝利だった。グループリーグを振り返って、W杯優勝国二つを破ったのだから、賞賛に値するだろう。クロアチア戦も犠牲精神を持った戦いを挑むことで、道は開かれるはずだ」