清水梨紗×林穂之香(後編)

(前編:「なでしこジャパンの大敗に大ショック。海外でプレーする清水梨紗と林穂之香は何を思ったか」)

FAスーパーリーグで8試合を戦って、清水梨紗、林穂之香が所属するイングランドのウェストハム・ユナイテッドは4勝4敗で12チーム6位。ここからシーズンは中盤に差し掛かっていく。プレーの合間に懸命にコミュニケーションを取りながら、試合を重ねるごとにチームへの影響力を高めている2人に、今シーズンでのウェストハムでの戦いぶりを聞いた。


ウェストハムの試合後、インタビューに答えてくれた清水梨紗(左)と林穂之香(右)

――そもそもなぜお二人はウェストハムへの移籍を決めたんですか?

清水梨紗(以下、清水) イングランドに1番きたかったんです。やっぱりリーグとして1番魅力を感じてたし、他の国は2強とかが多いじゃないですか。イングランドは4強ぐらい。そのなかでも絶対に勝ち!っていう試合がないくらい拮抗してるのが面白い。他の国も探していたんですけど......自分は海外が初めてで、ビザの関係もあって、代表の試合数がすごく大事になってくるなかでの移籍だったから、チャンスがあればって感じで探していたところ、ウェストハムが声をかけてくれたんです。

――最初、ウェストハムには長谷川唯選手(現マンチェスター・シティ)がいて、少し重なる感じで清水選手が入り、長谷川選手が出てすぐに林選手が入ったという感じでしたよね。

林穂之香(以下、林) そうです、ちょっとややこしい(笑)。 私は、スウェーデンでプレーしてる時から、ステップアップしたいと考えていて、他のリーグも考えてた時にオファーをもらったんです。スウェーデンでもイングランドに行きたいという選手もいましたし、自分の移籍が決まった時も「私も行けるようにがんばる!」って言う選手もいました。だから、スーパーリーグの印象はよかったです。

――これまでにも対戦していた強いイングランドの選手たちが育ったリーグということで、いろいろな想像をしてきたと思います。その斜め上を行っていたことは?

清水・林 ファウル!!

――見事に揃いましたね(笑)

清水 これを言うと、ファウルを正当化していると思われるかもしれないですけど、そういうことではなくて、激しさのなかでのファウルってあるじゃないですか。国際試合で日本代表としてプレーしている時、チャンスなのに止められるシーンがあって、そのシーンに対して「今の、イエローじゃん」って思うもどかしさもありますけど、そこでガツンといけるんだっていう思いもあって、「なんでいけるのかな?」って思ってたんですけど、ここに来てわかりました。

――それはここで強くいってもファウルにならないと思ってるってことですか?

清水 それもありますけど、「いかれたらマズイところをファウルをしてでも止める!」という、もはや技術ですよね。いい意味でも悪い意味でもその技術が高いと思います。

――確かに。ガッツリいっても笛すらならないことありますよね。

清水 そうなんですよ。

林 でも、「ファウルしてでも止めないと!」とは思うんですけど、ファウルすらできないこともままあって、「こういうところやな......(しょんぼり)」って思いながら追いかけてます(苦笑)。今までそういうことをしてきてなかったからっていうのもあるし、ファウルできる間合いにも入れてない場合も多々あります。そうなるともう掴むことすらできない。

清水 時々、こんなん(腕振り回す)なって走ってる時あるよね(笑)

林 あるある(笑)。そこでガツンといきたいというか、いかなきゃいけない時があるじゃないですか。パスで抜かれて運ばれるんだったら、真ん中で予防的ファウルというのも身につけないといけない。

清水 世界大会になるとそういう厳しくいく大事さ、重要さがわかる。

お互いの良さを生かし、ボールを奪う場面では清水と林の協力が際立つ

――リーグも中盤に差し掛かろうとしている時期です。もっとチームメイトにお互いのこういういいところを理解してもらえたらよくなるのに、という点はありますか?

清水 ビルドアップの時は組み立てから、他の人が蹴り出しても自分はホノちゃん(林)のことを見てるし、ホノちゃんにつけたら展開できたり、つなげるっていうのはここ数試合で意識してるところなんです。ホノちゃんを使うからこそ空いてくるスペースっていうのがあるから。

林 めっちゃうれしい!

清水 そういうのをチームメイトに見せていたら、右のCBのFISKとかがホノちゃんにボールを入れ始めたんですよ。だからできるんだぞっていうのを言葉で説明するのは難しくても、プレーで見せることによってホノちゃんも生きるし、ウィンウィンの関係になれると思います。

林 梨紗さんは気が利くんですよね。左から右に展開して梨紗さんのオーバーラップのタイミングでもっと梨紗さんと前の選手とのコンビネーションで崩せる回数を増やせるように右に持って行きたいと思ってるんですけど、それがまだ全然できてなくて......すごくもったいない。多分、中で取ったりするポジショニングもわかってるから、右でもっと崩して攻めるのを増やしたいです。

――それはどんなことで変えられそうですか?

林 自分がめっちゃボールを呼び込んで、変える!

清水 お〜よろしく(笑)

――先日の試合では、清水選手が駆け上がって右サイドに預けてなかに入った瞬間にすかさずパスが戻ってきましたよね。ああいう形はすぐに生まれたんですか?

清水 Lisaですね。彼女はコミュニケーションをすごく取ってくれるんです。開幕戦からずっと一緒に組んでいるので、Lisaのストロングポイントもわかってきて、そのなかで自分がインサイドを取っていいとチームでも言われているので、「それじゃローテーションしよう!」って。中に梨紗が入っていくっていうのをいろんな選手がわかってきてくれた。ああいうプレーは練習中に出てくるようになってきました。

林 2番目に出てきた"りさ"は梨紗さんでいいんですよね(笑)?

清水 そうそう(笑)Lisaは発音も同じなんだよね。

――プレーの合間によくチームメイトと話をしてますが、お2人もう英語は----

清水 無理です!

――清水選手、食い気味すぎます(笑)。林選手はスウェーデン時代からコミュニケーションは英語ですよね?

林 そうなんですけど、そっちは全然成長しません......。

清水 でもみんなすごく優しいから、単語をつなげれば何とかなるよね。もっと英語もがんばるけど、今はそこからできる限り伝えるようにしています。

――清水選手は岩渕真奈選手(アーセナル)の試合もよく見に行くと言ってましたが、ロンドン市内でも多くのビッグクラブが男女ともにあって、少し動けば極上のサッカーに触れることができるという環境はいかがですか?

清水 サッカーの試合を観に行く回数が増えました。ウェストハムの男子のスタジアムも近いし、毎週ホーム戦はチケットももらえるんです。初めて見た試合がウェストハムとトッテナムの試合で、衝撃を受けました。何万人も入るスタジアムに自分は行ったことがなかったので、日本にはないサッカー文化に触れてます。サポーター同士がけんかしたりもしてますし(苦笑)。熱い人たちがいるっていうのはいいですよね。声も大きいから、少なくてもそう感じない時もあります。

林 試合後にアウェイでもホームでもピッチ脇でサイン対応するんですけど、私は日本にいた時は育成年代だったっていうこともあるんですけど、ほとんどやったことがなかったので、ああいうのをもっと日本でもできたらいいなって思います。

――代表でのステップアップを望めば、当然ウェストハムでのステップアップにつながります。今シーズンウェストハムで掴みたいものとは?

清水 今のところ、上位チームに勝ててないっていうか、最初得点するけど逆転されることも多いので......ウェストハムとしてもっと上位に食い込みたいです。この前の最下位のレスター・シティ戦も押されながら勝った。そういう試合が多くなってくるチームではあると思うんですけど、どう勝ち点を獲っていくか、同勝ちにつなげていくか。そういう戦い方が代表にもつながってくると思うので、こだわっていきたいです。

林 相手の優位に持ち込まれることもあるんですけど、最後に点を獲って勝つとか、セットプレーから得点とかそういうパターンがあるチームでプレーするのは初めてだったので、やっと雰囲気を掴めてきてます。梨紗さんも言ったように上位チームに勝ちたいので、中盤の連係をもっと深めてボールを持って展開をしていきたいです。

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 世界最高峰と称されるスーパーリーグには現在、清水・林の他に岩渕、長谷川ら代表選手が活躍している。アーセナルは先日の試合でホームに4万人を集めていた。そんなホットなサッカー文化にもまれながらW杯までの8カ月でどう変貌を遂げるか、彼女たちの成長が、なでしこジャパンの希望に直結している。