清水梨紗×林穂之香(前編)

 FA女子スーパーリーグとは、今、世界の女子サッカー選手がチャレンジしたいと熱視線を送るイングランドのトップリーグである。チェルシー、アーセナル、マンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティ、リヴァプールなど12チームによってシーズンを戦う。世界に名だたる男子チームと同じ名前が勢ぞろいだ。女子においても各国の代表選手が揃う世界屈指のリーグと言っていいだろう。


ヨーロッパ遠征で、なでしこジャパンの現状を感じ、成長を誓った清水梨紗

 そのひとつ、ウェストハム・ユナイテッドには清水梨紗、林穂之香が所属している。先日、なでしこジャパンが行なった今年最後の海外遠征ではそのスーパーリーグで多くの選手が活躍するイングランドに大敗(●0−4)、新戦力でチーム構築中のスペイン(●0−1)も敗れるという厳しい現実を突きつけられた。特に今年のUEFAヨーロッパ女子選手権(Women's Euro)を制したイングランドとは対戦経験のある選手も多いだけに、チームとしての力量差にショックを隠し切れない2人がいた。

「悔しいし、もったいない試合にしてしまった......」とは清水。3バックの右ウィングバックとして臨んだイングランド戦。対人の場面では奪い切きれる回数も増え、個としての成長は見えたが、組織としての脆さは隠しきれなかった。

「外のレーンをひとりで守っている感覚になることが多かった。そこは自分の力を上げていかないといけないところだけど、そこに相手が2、3人いることもあって。自分が下がってみるのか、3バックの右が入るのか、ハーフタイムに監督やうしろの選手とも話をしたけど、気づいていたからこそ、もっとクリアにして臨むこともできたはず」(清水)と悔しさを滲ませた。

 右サイドバックとしてオリンピックやW杯などで、各国と対戦してきた清水だが、イングランドとの対戦は心に残っていた。そこから1対1の局面の強さにはこだわりを持って取り組み、昨夏からは念願のイングランドで研鑽を積んでいる。その成果は確実にプレーに現れているものの、それだけでは戦えないことも痛感した2連戦だった。

 一方的な展開をベンチから見ていた林が、ボランチで出場したのは続くスペイン戦。相棒となった猶本光(三菱重工浦和レッズレディース)とのバランスを取りながら、フィニッシュにつながる縦パスを狙っていたが、実は結ばなかった。

「ガチンコ勝負で現時点の実力差、レベル感がわかった。試合中により一層早くどこがうまくいってないのか、取りどころを見極める力、それを発信してチームみんなで共有して、向かっていくところはまだできてない」と振り返る林。


ボランチというポジションとしても世代としても繋ぐ仕事を担う林穂之香

 林は2018年に池田太監督のもとでFIFA U-20女子W杯を制したメンバーだ。セレッソ大阪堺レディースから2020年にスウェーデンへ移籍、今シーズンからスーパーリーグへと着実にステップアップしてきたが、チームの心臓部であるボランチとして、まだまだ吸収しなければならないことは多い。

「同じプレーでも自分が考えていること、他の選手と考えの差異は出てくるもの。前線はいけると思ってても、うしろは行きたくない。それを合わせていくのが自分の仕事です。前後だけじゃなく、左右もバランスを瞬時に正確に判断して周りに伝える質が自分は(世界レベルに)追いついてない」(林)

 ポジションとしても世代としても林はちょうど"真ん中"にいる。つなぐ役割はピッチ内外でも重要になってくるだろう。

「上の年代の人に頼るんじゃなくて自分たちの年代からも発信してチームを作っていかないといけない。ピッチのなかで言ってないことはないですけど、それが十分かと言われれば、やれることはもっとある」(林)

 この2人には海外レベルで、その課題に取り組むことができる環境がある。だからこそここからワールドカップまでの8カ月の2人の成長はなでしこにとって大きなカギとなる。

「ここからの時間で取り組みたいのは"ボールを獲る"こと。代表がこれから3バックでいくなら、不利な状況での1対1だったり、自分がガツっといかないと打開されたり、3バックの裏を取られるシーンがすごく多いし、危険です。自分がボールを獲るか獲らないかでチームの流れも変わってくる。そこはこの2連戦で自分に足りないと自覚したところ。いい環境にいるので習得していきたいです」と、清水は明確な課題を見つけたようだ。

「とにかく真ん中でアドバンテージを取れるようにならないと! 奪い切る守備とそこから瞬時に攻撃につなげる見極める力をスーパーリーグで磨きたいです」と林はボランチに必要不可欠な判断スピードの向上を目標に掲げた。

 ウェストハムでは清水のプレッシングにすかさず林がサポートに入って、相手ボールを奪う場面も多々あり、日本人選手の得意とするサポート力がパワー展開のなかでも通用することを彼女たちは日々証明し続けている。実際にウェストハムで2人が起こせる変化は数多くあるだろう。その変化の数々が、なでしこジャパンの成長につながっていくはずだ。後編では、ウェストハムで彼女たちが目指すものをより詳しく紐解いていく。

(後編:「イングランドで日本とは違う「ファウル」のすごさを実感。」)