ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 ある程度は予想していたことですが、秋のGIシリーズは外国人旋風が吹き荒れています。GIエリザベス女王杯に続いて、先週のGIジャパンCでも外国人騎手が上位を独占しました。

 僕も彼らの騎乗ぶりをじっくりとチェックしていますが、直線の追い方だけにとどまらず、位置取りや折り合い、仕掛けのタイミングなど、細かい部分でも「技術力が高いな」と感じます。彼らが上位を独占するのは、決して騎乗馬に恵まれているから、だけではないでしょう。

 ただ、日本人騎手もこのままやられっ放し、というわけにはいきません。GIチャンピオンズC(12月4日/中京・ダート1800m)では一矢報いてほしいです。砂上のバトルであれば、ダート経験が少ない欧州の騎手よりも日本人騎手のほうが一日の長がある分、なおさらです。

 さて、今年のチャンピオンズCですが、出走メンバーを見渡してみると、3歳〜4歳の若い顔ぶれが多いことに気づきます。賞金上位にいた一定層が引退したことによって、ダート路線はだいぶ若返りが進みました。ただその分、まだ「これから」という馬が多く、実績が乏しいというのは否めないですね。

 そうした状況もあって、昨年の覇者テーオーケインズ(牡5歳)の実績が断然際立っています。戦前の評価が"1強ムード"になっていることも頷けます。

 そして僕も、中心はテーオーケインズだと考えています。地方交流GIのJBCクラシック(1着。11月3日/盛岡・ダート2000m)から、ここへ向かうローテも昨年と同じ(昨年のJBCクラシックは金沢・ダート2100m。結果は4着)。中間の動きを見ていても、仕上がりはよさそうで、状態面での不安も感じません。至って順調と言えそうです。

 また、昨年のこのレースで2着に退けたチュウワウィザードも引退し、強豪オメガパフュームも出走しないことを考えれば、この馬より年長の馬に怖い相手は見当たりません。

 若い馬の上昇度に目を向けても、自己条件までは連勝を続けていても、重賞で一旦壁に当たっている馬が多く、人気を二分するライバルと呼べる存在はいません。となれば、連覇の可能性は高そうです。

 鞍上の松山弘平騎手は、この秋のGIでは1番人気の支持を受けた馬に2度騎乗(GI菊花賞のガイアフォースとエリザベス女王杯のデアリングタクト)しましたが、ともに掲示板外に敗れて悔しい思いをしているはず。それだけに、ここにかける思いには特別なものがあるのではないでしょうか。

 それでも、このテーオーケインズの逆転候補を探すとすれば、やはり同馬と未対戦の馬に魅力を感じます。

 なかでも、ダート路線に替えてから頭角を現してきたグロリアムンディ(牡4歳)、ジュンライトボルト(牡5歳)は、一度は土がついているものの、ダートではまだ完全に底を見せてはいません。GIの舞台で、能力がより引き出されれば、勝ち負けに加わってこれそうです。

 3頭出走する3歳馬も気になります。クラウンプライド(牡3歳)は前走のJBCクラシックでテーオーケインズに敗れていますが、この時期の3歳馬は日ごとの成長力が著しいため、その上昇度を軽視するのは禁物です。ノットゥルノ(牡3歳)、ハピ(牡3歳)を含め、これら3歳馬3頭も上位争いできる圏内にいると思います。

 テーオーケインズを中心にして、ここまでに名前を挙げた面々やその他有力馬たちの争いは激戦が予想されますが、強い馬が1頭いるレースでは、騎手の駆け引きや乗り方が大きく明暗を分けることがよくあります。今年は、特にその点に注意すべきではないか、と見ています。

 一番ありがちなパターンとしては、真っ向勝負で本命馬を負かしにいった馬が最後に力尽きて、序盤は勝負圏内にいなかった馬が漁夫の利を得るパターン。これまでのチャンピオンズCでも、そういったシーンをよく見てきました。

 そうなると、上位候補と目されている騎手の性格なども、よくチェックしておく必要があるように思います。

 そこで、真っ先に目が行くのは、外国人騎手に乗り替わるグロリアムンディとバーデンヴァイラー(牡4歳)。前者はライアン・ムーア騎手、後者はダミアン・レーン騎手が騎乗します。

 どちらの騎手もまもなく短期免許期間が終了となるため、このレースでは間違いなく"勝ちにいく姿勢"を見せるでしょう。うまく乗って着を拾う考えなどなく、真っ向勝負を仕掛けて捻じ伏せてやろう、という乗り方をしてくるはずです。

 他、ジュンライトボルトの手綱をとる石川裕紀人騎手も、自身のGI初制覇がかかっているため、強気の騎乗をする可能性が高いと見ています。

 そんな騎手の考えや思惑が全面に出るようなレースになってくれたら、とても白熱した攻防となり、見応えのある一戦になるのではないでしょうか。ぜひ、そういったレースになることを期待したいです。

 ただ、勝ちにいく意識がレース全体で高まった時に注意しなければいけないのが、大局を冷静な判断でとらえて一発を狙ってくるジョッキーです。そう、ここではハピに騎乗する横山典弘騎手がとても不気味です。


チャンピオンズCでの大駆けが見込まれるハピ

 2走前に同馬とコンビを組んで今回が3戦目。前任の藤岡佑介騎手から乗り替わりとなった理由は、「大きな舞台で勝ちきってほしい」といった陣営の思惑があってのことだと思いますが、2度の騎乗で横山典騎手も同馬のことをすっかり手の内に入れたはず。

 ハピは後方から鋭い脚を使える馬ですが、馬群をさばける器用さも持ち合わせており、横山典騎手ならロスなくインを突く、いかにも穴パターンの騎乗をしそうに思えてなりません。

「2頭出しは人気薄を狙え」という格言がありますが、大久保龍志厩舎所属の僚馬グロリアムンディが強気に乗れば乗るほど、ハピの差し込みの確率がアップすると見て、今回は同馬を「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。