激闘来たる! カタールW杯特集

驚異的なパス本数

 日本がグループリーグ最終節で対戦する相手、ルイス・エンリケ監督が率いるスペイン代表の最大の特徴は、ボールポゼッションだ。


いよいよスペイン戦。日本はペドリ(右)らの攻撃を抑え、伊東純也(左)らがカウンターを繰り出せるか

 4−3−3の布陣を一貫して採用するスペインは、ピボーテのセルヒオ・ブスケツを中心に、ピッチ上の至るところにトライアングルをつくって、スピーディーなパス回しによって相手の陣形を崩し、ペナルティーエリア内に進入する。今大会に出場する32チームのなかで、戦い方が最もはっきりしているチームと言っていい。

 そんなスペインの強みが最大限に発揮されたのが、初戦のコスタリカ戦だった。

 4−4−2でスタートしたコスタリカに対し、開始からボールを保持したスペインは、ブスケツ、ガビ、ペドリのバルサ勢で構成する中盤3人を中心に、得意のパス回しを展開。

 左右に張る両ウイング(ダニ・オルモ、フェラン・トーレス)に、機をうかがって攻撃参加する左サイドバック(SB)ジョルディ・アルバも加わり、コスタリカの「4−4」のブロックを左右に広げ、中央に空いたスペースを有効に使った。

 開始11分のダニ・オルモの先制点、続く21分のマルコ・アセンシオの追加点は、まさにその典型。その直後に得たPKをフェラン・トーレスが決めて、開始わずか30分でコスタリカを意気消沈させることに成功している。

 前半でいきなり3点を喫したコスタリカのルイス・フェルナンド・スアレス監督は、3失点目のあとに布陣を5−4−1に変更してしのごうとしたが、その策も奏功せず。結局、後半に4ゴールを加えたスペインが7−0で大勝した。

 決定力不足が課題とされるなか、その不安を払拭するかのようなゴールラッシュを見せつけた格好だが、しかしこの試合で注目すべきは、異例の7ゴールのほうではなく、スペインがその試合で記録したパス本数だろう。

 1966年イングランドW杯以降、初めて前半だけで500本を超えるパスを記録したスペインは、最終的に驚異的とも言える計1061本のパスを記録し、そのうち1003本のパスを成功させている。そもそも1試合で1000本以上のパスが記録されること自体が異例で、このスタッツからも、パス本数がスペインの調子を示すバロメーターであることがわかる。

 ちなみに、2試合を終えた時点でのスペインのパス本数は1708本。この数字は、今大会の優勝候補筆頭と目されるブラジルの2試合1150本を大きく上回っている。

攻撃の最後は左サイドから仕上げる

 そのスペインに対して、2戦目で対戦したドイツはどのような対策を打ったのか。

 ドイツの特徴を端的に表現すれば、縦に速いサッカーになる。ハンジ・フリック監督が就任した昨年8月以降と比べても、最近はさらに速くなった印象だ。中盤から前線の主軸の多くがバイエルンに所属していることもあり、そのバイエルンを指揮するユリアン・ナーゲルスマンが標ぼうするスタイルに似通ってきたと見ることもできる。いずれにしても、ドイツにとってスペインは、自分たちの強みを発揮しやすい相手と言えた。

 そんななか、フリック監督は、まずはスペインの中盤を抑えて自由にパスを回させないという作戦に出た。立ち上がりこそうまく機能させられなかったが、次第にその策は奏功した。

 具体的には、4−2−3−1の1トップ下に中盤のイルカイ・ギュンドアンを配置し、対峙するブスケツ経由のビルドアップを封鎖。ダブルボランチのヨシュア・キミッヒとレオン・ゴレツカが、ガビとペドリをマークして、少なくともピッチ中央の覇権を与えないという目的を、ほぼ達成することはできた。

 しかし、その程度の対策でめげないのがスペインだ。次第にドイツが優勢になっていくなか、0−0で迎えた後半62分、敵陣でロストしたあとにボールを即時回収し、10本のパスをつないでからアルバロ・モラタがフィニッシュし、1点をリードしている。

 そのシーンでは、ドイツのティロ・ケーラーが自陣ボックス内でクリアしたボールを、敵陣でエメリク・ラポルトが回収し、一度左に展開してから、今度は右に展開。さらに右からブスケツ経由で左のジョルディ・アルバにパスを回すと、ニアに入れたボールをモラタが合わせている。

 その左右の揺さぶりに、ドイツはついていけなかった。とくにスペインの攻撃の武器とされる左SBジョルディ・アルバの攻撃参加に対し、中盤とDF4枚のスライドが間に合わなかった。

 スペインの攻撃を検証すると、とりわけアタッキングサードでの攻撃が左サイドに偏っていることがわかる。たとえば、コスタリカ戦では50%が左サイドからの攻撃で、中央は13%、右サイドが20%(左中央=7%、右中央=10%)。ドイツ戦でも中央が9%、右サイドが22%に対して、左サイドは52%にもおよんでいる(左中央=13%、右中央=4%)。

 つまりこのデータからは、左SBのジョルディ・アルバ、もしくは途中出場で左SBを務めるアレハンドロ・バルデの攻撃参加が、スペインの崩しにおける"ファイナルピース"になっていることが見て取れる。スペインと対戦する場合、それは見逃せないポイントだ。

 もっとも、前半途中から優勢だったドイツは先制点を許したものの、終盤に途中出場のニクラス・フュルクルクのゴールで追いつき、最終的にはシュート11本(枠内4本)を記録。7本(枠内3本)のスペインを上回るなど、ポゼッションサッカーに翻弄されてはいなかった。もともと両チームの実力が拮抗していたことを考慮すれば、1−1は妥当な結果と言えるだろう。

中盤の3人を分断し、DFラインの背後を狙いたい

 では、日本はスペインに対して、どのように戦えばいいのか。

 まず、ドイツが教えてくれたポイントのひとつは、ポゼッションサッカーの心臓部にあたる中盤3人を分断することだ。スペインメディアの報道によれば、幸いピボーテのブスケツは、イエローカード1枚をもらっているため、日本戦ではベンチスタートになる可能性が高い。また、ドイツ戦でケガを負ったガビの出場も危ぶまれている。

 これまでのスペインは、ブスケツの代役は、今大会ではセンターバック(CB)でプレーするロドリが務めてきたので、日本戦ではエリック・ガルシアが右CBとして先発するかもしれない。また、右SBには攻撃的なダニエル・カルバハルより、久保建英や三笘薫を意識して守備力の高いセサル・アスピリクエタがスタメンを飾る可能性のほうが高いだろう。

 日本にとっての狙い目は、スペインの弱点とされる、DFラインの背後にできる広大なスペースだ。自陣で守る時間帯では、伊東純也や前田大然、あるいは浅野拓磨といったスピード系の駒を有効活用し、DFラインの背後を狙いたい。

 また、ミドルサードからアタッキングサードでショートカウンターを繰り出す時は、アスピリクエタのいる左サイドではなく、ジョルディ・アルバのいる右サイドを攻略するほうが、日本のアジリティーを生かせるかもしれない。

 いずれにしても、「強者=スペイン、弱者=日本」という明確な構図は揺るがない。日本としては、弱者の立場を利用したカウンター主体のサッカーで挑むことになるだろう。

 最後に、ルイス・エンリケ監督が率いるスペインは、ポゼッションだけでなく、ボールを奪ってからの速いカウンター攻撃も兼備していることを付け加えておく必要があるだろう。すなわち、早い時間帯で失点を喫して日本が前に出ようとすると、逆にカウンターの餌食になる可能性も排除できない。日本にとっては、痺れるような試合になることは必至だ。