日本代表はスペインのわずかな穴をつけるか。カギはスピード系FWと怒涛の戦術的交代
スペイン対ドイツ。ブックメーカーの大会前の予想で優勝争いの5番手につけるスペインと、6番手につけるドイツの戦いは、グループリーグ全48試合中、1番の好カードだった。記者席の満杯率は、この数時間前に終わった日本対コスタリカ戦の比ではなかった。
サッカーでは試合終了後、両軍の監督が歩み寄り、挨拶をかわすのが慣例だ。しかし、ドイツ対スペインをピッチ脇で撮影していた知人フォトグラファーの写真に目をやると、ドイツ代表監督ハンス・ディーター・フリックとスペイン代表監督ルイス・エンリケはウマが合うのか、抱擁したり、握手をしたり、話し込んだり、通常よりはるかに長い間、コミュニケーションをとっていたことが判明した。
フォトグラファーの話によれば、両者はいったん別れたあと、再び歩み寄り、小声で何か話し始めたという。表情からうかがう限り、お互いの健闘を讃え合っただけでなく、ドイツ監督がスペイン監督に「よろしく」と、念押ししたことは容易に想像できる。ルイス・エンリケが日本戦で主力メンバーを落として戦う可能性は低い。両者が親密そうに会話をかわすシーンは、お互いが揃って決勝トーナメントへ進出することを固く誓う姿と考えるのが自然だろう。
コスタリカに大勝すると、ドイツには1―1で引き分けたスペイン代表
試合のスコアは1−1。スペインが後半15分、左SBジョルディ・アルバの折り返しを、交代出場したばかりのアルバロ・モラタがニアで合わせて先制すれば、ドイツも終盤、負けじと粘りを見せ、やはり交代出場したニクラス・フュルクルクの同点弾が決まり、そのままタイムアップの笛を聞いた。
力関係は両者ほぼ互角に見えた。視角が急なアルベイトスタジアムの記者席から、両軍が繰り広げる攻防はクリアによく映えて見えた。
日本戦同様、4−2−3−1で臨んだドイツは、日本戦の先発から戦術的交代を駆使して3人を入れ替えていた。1トップをカイ・ハフェルツから日本戦で1トップ下として先発したトーマス・ミュラーに変え、1トップ下に第1戦で守備的MFとして先発したイルカイ・ギュンドアンを一列上げ、守備的MFにはレオン・ゴレツカを入れた。そして日本戦でCBとして先発したニコ・ショロッターベックを外し、SBにティロ・ケーラーを入れ、第1戦で右SBとして先発したニクラス・ズーレを玉突きでCBにコンバートした。日本にまさかの敗戦を喫したわりには地味な変更だった。
スペインはドイツより技術でやや上一方、初戦同様4−3−3で臨んだスペインは、右SBをセサル・アスピリクエタからダニエル・カルバハルに代える僅かひとりの交代にとどまった。初戦のコスタリカ戦に7−0で勝利を収めたにもかかわらず、控え目だった。先発5人を入れ替えてコスタリカ戦に臨んだ森保一監督の采配が際立つ格好になった。スペイン、ドイツ両国は、それだけこの直接対決を重視していたということなのだろう。
スペイン、ドイツ両国のサッカーは、かつては水と油の関係にあった。スペインは攻撃的でドイツは守備的だった。クラブサッカーでも、攻撃的サッカーを売りにしたレアル・マドリード、バルセロナに対し、ドイツの雄、バイエルンは守備的サッカーで対抗した。それは2000年前後の話になるが、ドイツ代表のサッカーはその後、2006年自国開催のW杯頃から、バイエルンのサッカーともども攻撃的サッカーに大きく舵を切った。ユーロ2008、2010年南アフリカW杯では優勝したスペインと直接対決。決勝と準決勝でそれぞれ惜敗したが、両者のコンセプトが近づいていることは鮮明になった。
スペインとドイツが国際的な舞台で直接対決するのはこれが2010年以来、12年ぶりだった。2008年、2010年はスペインが技術でねじ伏せた格好だったが、今回も途中まで、55対45ぐらいの関係で、スペインがわずかにリードしていた。後半15分、モラタの先制ゴールが決まった瞬間は、両者の優劣が最も鮮明になった瞬間だった。
だが、そこからドイツがジワジワ盛り返していく。それと、後半25分に交代出場したレロイ・サネの存在は密接に関係していた。日本戦をケガで欠場した左利きのアタッカー。ドイツ戦の日本に運があったことを再認識させられた試合でもあった。
スペインはユーロ2012年を制した後、2014年ブラジルW杯ではグリープリーグ落ち、ユーロ2016はベスト16、2018年ロシアW杯ベスト16と低迷が続いている。前回のユーロ2020でベスト4入りしたが、はたして上昇傾向に転じたのか、判断が難しい問題だった。
スピード系のFWたちにかかる期待低迷した原因は「中盤サッカー」にあった。優秀な中盤選手がピッチの真ん中に乱立。悪い位置でボールを奪われ、反撃を食らうというパターンを繰り返してきた。今回はどうなのか。ペドリ、ガビ、そしてベテランのセルヒオ・ブスケツで構成するバルサの3人組MFはうまい。今大会でナンバーワンの中盤かもしれない。だが、かつてのように真ん中サッカーに陥っているわけではなかった。
フェラン・トーレスあるいはニコ・ウイリアムズ(右)、ダニ・オルモ(左)の両ウイングが両サイドの高い位置に張り、ピッチを広く使うサッカーを展開する。フランスのキリアン・エムバペ、ウスマン・デンベレの両ウイングに比べるとスケール感に欠けるが、バランス的には上々だ。ジャマル・ムシアラ(左)、セルジュ・ニャブリ(右)を左右に配すドイツのウイングとの比較でも同様。バランスという点で勝っている。日本が警戒しなくてはならないポイントだ。
コスタリカ戦の直後に書いた原稿で、筆者は次戦のスペイン戦では、1トップは鎌田大地でいくしかないと記している。コスタリカ戦では上田綺世が力量不足を露呈させ、交替で出場した浅野拓磨も、遅攻を強いられた試合展開に適合できなかったからだが、スペイン対ドイツの試合を見ると、スピード系の選手たちにも十分活躍の目はありそうな気になる。
日本は中盤をバルサの3人組に制せられ、サイドでも後手を踏む可能性が高い。となると浅野、前田大然、伊東純也など、スピード系FWに期待が高まる。ドイツ戦では実際、スペインのGKウナイ・シモンが、最終ラインとコンビネーションが合わず、2度ほどアタフタしたプレーを見せていたのだ。
しかし、日本に問われているものの本質は、試合を通してのメリハリであり、コントラストだ。スピード系のFWだけで90分、押しきることはできない。ドイツ戦同様、戦術的な交代を駆使した怒濤のメンバー交代で、風をムリヤリ吹かせるしか、相手を幻惑させる方法はないと考える。
鎌田の1トップもそうしたなかで探りたい。5バックになりやすい守備的な3バックで、後方の守備を固め、カウンターに及ぶのではなく、高い位置からプレスを掛けたい。4−2−3−1か5−2−3かの2択ではなく、三笘薫、鎌田、伊東純也を3トップに据えた4−3−3も考えたい。
ドイツよりわずかに手強そうに見えるスペインとの一戦。さまざまなアイデアを駆使し、好勝負を挑んでほしい。