今回のワールドカップにおいて、優勝に最も近い位置にいると目されているのは、ブラジルで間違いないだろう。他チーム垂涎のタレントを多数擁するサッカー王国には、2002年日韓大会以来20年ぶりとなる優勝の期待がかかっている。

 そんなブラジルは、グループリーグ2連勝。番狂わせの多い今大会にあって優勝候補筆頭が、3戦目を残して早くも決勝トーナメント進出を決めた。


スイス戦で決勝ゴールを決めたカゼミーロ(右)

 とはいえ、初戦でセルビアを2−0と退けたブラジルは、続く2戦目、スイスとの試合では堅い守備に手を焼いた。ブラジル代表を率いるチッチ監督は言う。

「スイスは最高のディフェンスをした。これを破るのはとても難しかった」

 ブラジルは試合序盤からボールポゼッション率を高め、攻撃回数を増やし、圧倒的にゲームを支配した。初戦のケガにより、FWネイマールを欠いていたにもかかわらず、である。

 ところが、スイスの堅守の前になかなかゴールが奪えない。前半の決定機は、右サイドからのFWラフィーニャのクロスに、逆サイドでフリーになったFWヴィニシウス・ジュニオールが合わせた場面くらい。攻撃回数に比して、チャンスの数は少なかった。

 今大会、アルゼンチンやドイツが対戦相手に金星を提供していることを考えれば、ブラジルにとっては心地よく進められたゲームでなかったに違いない。

 しかも、後半に入ると63分、ヴィニシウス・ジュニオールがスピードを生かしてDFラインを破り、最後は落ち着いてゴールを決めるも、その直前の中盤でのプレーでFWリシャルリソンのオフサイドがあり、VARで取り消しに。スタジアムに漂う不穏な空気は、さらに濃度を増していくかに思われた。

 だが、優勝候補筆頭の前評判はダテではなかった。後半83分、左サイドでのヴィニシウス・ジュニオールとFWロドリゴの連係に、後方から走り込んだMFカゼミーロが加わり、巧みなハーフボレーシュートを叩き込む。スタジアムの空気は一変した。

 こうなれば、あとは高度なテクニックを生かしたパスワークでボールをキープし、時折スピードアップした攻撃をちらつかせるだけでよかった。ブラジルは追加点こそなかったが、楽々と残り時間を費やし、1−0で勝ち点3を手にした。

「美しいゴールだったと言ってくれるのはうれしいが、重要だったのはチームの勝利をアシストできたこと」

 決勝ゴールを決めたカゼミーロは試合後、勝利に興奮する様子も見せずにそう語り、「大事なのはタイトルを獲ることだ」と先を見据える。

 この試合、ブラジルが勝利したとはいえ、かなり苦しんだことは事実である。だが、裏を返せば、そのことがチームとしての総合力の高さを見せつける結果になったとも言える。

 準々決勝でベルギーに敗れた前回大会のチームとの違いを問われたカゼミーロは、「多くの違いがある」と言い、こう続けている。

「新しい選手が加わり、幅広い選手を選べる状態にある。控え選手のオプションがかなり多いのは間違いない。その一方で、ディフェンス陣には経験がある。前回よりもかなり偉大なチームになっている」

 実際、スイス戦を振り返っても、ネイマール不在の影響がまったくなかったわけではない。初戦でネイマールが務めたトップ下のポジションには、MFルーカス・パケタが入ったものの、中盤でのコンビネーションが生まれにくく、攻撃に停滞が見られた。

 だが、チッチ監督は後半開始から「ケガによるものではなく、戦術的なオプションとして」ルーカス・パケタに代え、FWロドリゴを投入。すると、ブラジルの攻撃にスピード感が増し、ゴールへ向かう推進力が生まれた。

 チッチ監督が語る。

「カゼミーロも言ったように、今の我々には幅広いオプションがある。(前回大会から)4年間を費やして成長してきた。4年前のチームとはまったく違う」

「それに」とつないで、チッチ監督が続ける。

「私のそばには偉大なプロフェッショナルがついていてくれる」

 試合後会見の壇上に座る指揮官が指差す方向に目をやれば、現在はチームのスタッフを務める往年のブラジル代表選手、ジュニーニョ・パウリスタらがズラリと並んで会見の様子を見つめていた。

 かつてJリーグでも活躍し、現在は指揮官のサポート役を務めるセザール・サンパイオが、チッチ監督とともに試合後会見に登壇するのも、今や見慣れた光景だ。

 チッチ監督は誇らしげに、そしてうれしそうにこう語る。

「我々は全員がファミリーだ」

 ブラジル代表は20年分の借りを返すべく、チーム一丸となって王座奪還へと進んでいる。