激闘来たる! カタールW杯特集

3バック相手にプレスできない日本

 奇跡的なジャイアントキリングによって強豪ドイツを下した日本が、中3日で初戦を0−7で落としたコスタリカと対戦。しかし、日本はドイツ戦の大金星で得た勢いを持続できず、0−1で敗戦を喫することとなった。


日本はコスタリカ戦でもどかしい展開を強いられて敗戦

 なぜこのような失態を演じることになったのか。改めてこの試合を振り返ると、そこには、W杯本番用にモデルチェンジした日本の戦術的な要因と、勝ち点3を確保していた日本チーム内に潜んでいた「勝ちたいけれど、負けたくもない」という中途半端な心理的要因が存在していたのが、見て取れた。また、それが森保一監督の采配にも表れていた。

 逆に、スペイン戦ですべてを失ったコスタリカのこの試合における最大のテーマは、もう一度自分たちのサッカーを取り戻すという、原点回帰の姿勢にあった。その両者のメンタリティの違いにより、この試合は日本が受けて立つ側にまわり、コスタリカはチャレンジャーの立場として挑む、という明確な図式が自然と出来上がっていた。

 ドイツ戦からスタメン5人を入れ替えた日本の布陣は、4−2−3−1。対するコスタリカは、キックオフ時は最終ラインに4人が立った。ところが、4バックと見せかけながら、開始2分の自陣でのFKからビルドアップを開始する時には、当初中盤にいた19番(ケンドール・ワストン)がセンターバックの間に立って3バックを形成した。

 ちょっとしたトリックではあるが、これによってコスタリカは開始直後の日本のハイプレス回避に成功。以降、7番(アントニー・コントレラス)を1トップに配置する5−4−1を形成し、はっきりと弱者の立場に立って、日本の攻撃を受け止めることから試合を組み立てた。それは、プレーオフ経由でW杯のチケットをもぎ取った、コスタリカ本来の戦い方だった。

 一方、9月の代表ウィーク以降、ハイプレスからショートカウンターで攻撃を仕掛ける戦術に舵を切った日本にとって、対戦相手の布陣は、そのチーム戦術を機能させられるかを決定づける、極めて重要なファクターになる。とりわけ相手が3バックの場合は、ハイプレスを機能させられないという大きな課題を抱えており、それは4日前のドイツ戦でも証明されたばかりだった。

布陣変更が試合を難しくした

 ただし、この試合がドイツ戦と大きく違っていたのは、立場の違いだ。その試合で受けて立つ強者の側にいたのはドイツであり、日本は完全なる弱者の側。チャレンジャーの立場だったが、この試合では、日本はそのチャレンジャー精神を頭では忘れないように迎えながらも、ピッチでまったく反対の立場で戦うことを強いられた。

 自陣で「5−4」のブロックを作って守る格下の相手に対して、敵陣でボールを保持しながら縦パスによる中央攻撃と、サイドからのクロスを多用してゴールを攻略するサッカーは、日本がアジア最終予選前に何度も経験したシチュエーションだ。

 しかしW杯に挑む日本には、もはやその強者のサッカーが失われ、守備面でいかに前から相手をハメて、高い位置でボールを奪って速く攻めるかという、ショートカウンターを軸とした攻撃に変化している。

 それが顕著に表れたのが、前半30分の布陣変更だった。後方でボールを回してばかりで攻撃の姿勢を見せないコスタリカに対し、ほとんどチャンスを作れない戦況に必要以上の危機感を感じた森保監督は、布陣を3−4−3(3−4−2−1)に変更。最後尾に板倉滉、吉田麻也、長友佑都を並べ、右の山根視来と左の相馬勇紀をウイングバックに配置。堂安律、上田綺世、鎌田大地の3人が前線で相手の3バックにプレスをかけられるよう、ミスマッチ解消の作戦に出てしまった。

 結果的に、この采配が強者であるはずの日本の攻撃にブレーキをかけ、より試合を難しいものにしてしまったことは否めない。

 本来、強者は弱者に対して布陣のミスマッチを作って攻撃したほうが、遥かに相手の守備の混乱を引き起こしやすい。お互い4−2−3−1で臨んだドイツ戦でも、強者のドイツが日本を混乱させるために、前半途中から3バックに可変し、敢えてミスマッチの状況を作って日本をきりきり舞いにしたことは、記憶に新しい。

 にもかかわらず、森保監督はフィールド10人が完全にマッチアップする3−4−3に変更し、コスタリカにとって守りやすい状況を与えてしまった。7失点を喫したスペイン戦のように、自陣に押し込まれ、左右中央から多彩なアタックを仕掛けられることを何より恐れていたコスタリカにとっては、天の恵みとも言える日本の布陣変更だったと言える。

最後尾の人数を必要以上に余らせた

 0−0で迎えた後半、森保監督は長友に代えて伊藤洋輝、1トップの上田に代えて浅野拓磨を起用した。もし日本が、敢えて相手にボールを持たせてからカウンターを仕掛ける狙いがあったのだとすれば、その采配に整合性は生まれる。ところが、逆に日本は後半開始から敵陣での攻撃の圧力を強めるばかりで、カウンター攻撃をほとんど発動していない。従って、浅野の活躍の場はなく、最後尾で余った伊藤は相手の2列目4枚の右側に空いたスペースに張り出して、パス供給役を担わざるをえない状況となった。

 4−2−3−1のままであれば、おそらくその役割はダブルボランチの守田英正と遠藤航が担っていたはず。仕事内容と選手のキャラクターのミスマッチも起きてしまった。

 さらに日本の攻撃にブレーキをかけたのが、試合終盤に近づくにつれて、主に守備陣から垣間見られた「勝ちたいけれど、負けたくもない」という微妙なメンタリティだった。ほとんどカウンターの気配さえも見せない相手に対し、最後尾の人数を必要以上に余らせたのがその証左で、リスクをかけた縦パスを打ち込むことを必要以上に避けていた。

 同じ傾向は、ベンチワークからも見て取れた。後半の途中、森保監督は山根に代えて三笘薫を、堂安に代えて伊東純也をピッチに送り込んだものの、ドイツ戦のような玉砕覚悟の賭けに出るような采配は見せなかった。もちろん、状況からしても、最低でも勝ち点1は確保したいという心理が働くことは当然と言えば当然だ。

 そんななか、コスタリカは後半65分に前線にフレッシュな戦力を投入。75分にはこの試合で初めて、日本のビルドアップに対して前からプレッシャーをかけ、いよいよ攻撃的姿勢を見せ始めた矢先の81分、この試合の決勝点が生まれた。

 もし対戦相手がドイツやスペインだったら、この失点に関わった三笘、伊藤、吉田、守田のプレー選択は、もっと違ったものになっていた可能性は十分に考えらえる。そういう意味では、最後まで望まざる強者の立場で戦うことを強いられた日本にとって、生まれるべくして生まれたミスと言っていい。

 果たして、再び弱者の立場として挑むスペイン戦で、日本は再び奇跡を起こすことができるのか。少なくとも、強者として足元をすくわれたコスタリカ戦よりは、チームの意思統一や戦術のマッチングという点で、何らかの活路を見出すことはできるはずだ。