コスタリカ戦、日本代表で唯一の希望だった三笘薫。スペイン戦のカギを握るが、その起用法は?
11月27日、アフメド・ビン=アリー・スタジアム。カタールW杯のグループリーグ第2戦、日本代表はコスタリカ代表と対戦している。前半の入り方が驚くほどに悪く、それを修正できなかった。後半に入って片目を開けたが、得点はできず、幾つもの小さなミスを重ねた挙句、残り10分を切ったところで失点。0−1の敗戦は必然だったと言える。
初戦のドイツとの劇的勝利が嘘のように、拍子抜けする迫力のなさだった。
「向こうは大敗して(初戦でコスタリカはスペインに0−7の黒星)、球際からガツガツきたところで、もっと強くいかないといけなかった。なかなかブロックに入っていけず、単調になっていた」
主将の吉田麻也がそう振り返ったように、日本は半ば寝ぼけたような状態で試合に入った。
歴史に残るビッグゲームをやってのけた高揚感で浮き足だっていたのか、守りに入ったのか、単純に能動的サッカーができない化けの皮が剥がされたのか。ドイツ戦の集中力は感じさせなかった。ターンオーバーはひとつの戦略だろうが、そもそも鎌田大地や遠藤航という主力を休ませられなかったら本来の意味がなく、複数のポジションで物足りなさを感じさせ、空回りした。
ドイツ戦で大きく株を上げた森保一監督だが、臨戦体制を整えられなかっただけでも、「戦犯」と言えるだろう。こうした一戦ではモチベーターの力量が求められるが、戦うチームになっていなかった。それぞれの選手の特性も生かすことできず、主導権を譲られた時の戦いのパターンがなかったのだ。
そんななか、ただひとりだけ可能性を感じさせた選手がいた。後半17分、山根視来と交代で左ウイングバックに入った三笘薫だ。
コスタリカ戦の後半17分から投入された三笘薫
三笘は左サイドで交代出場すると、ふたりを相手に突破を試みるなど、脅威を与えている。相手が警戒しているのが伝わる一方、そのことでほかの選手の攻撃に余裕ができた。
「コスタリカはしっかりブロックを作ってきましたが、もうちょっと自分からアクションを起こして仕掛けられたはず」
適切ではなかったウイングバックでの起用
三笘は得点に結びつかなかったことを悔やんだが、限られた出場時間にもかかわらず、ほとんど独力で2度の決定機を作った。
後半43分、左サイドでボールを受けると、間合いだけで相手ディフェンダーを翻弄し、縦に切り込んでゴールライン近くから絶好のクロスを折り返した。浅野拓磨へのパスはすばらしい質だったが、これを合わせられず、こぼれ球を鎌田大地がシュートしたが、やはりブロックに遭う。しかし堅牢だったコスタリカの守備陣を崩していた。
アディショナルタイムにも、ふたりのディフェンスを置き去りにしている。マーキングを完全に無力化。スピードと技術を土台に、間合いを極めたドリブルは強力な武器だ。
「戦術・三笘」
森保監督がそう言って話題になった。彼個人が局面を制することで、チームが優位に立てる。本軍とは別の遊撃軍のように、独立した機動力を生かし、相手を脅かす。まるで疾風迅雷で敵に討ち入る騎兵のようだ。
しかし、その騎兵を森保監督はうまく使っているのか。
騎兵は持ち場を守ることには適していない。軽装備で相手の急所を突くため、自由に動くことでこそ致命傷を与えられる。塹壕に馬を入れ、重装備で持ち場を守るのでは、宝の持ち腐れだ。専守防衛で、わずかにカウンターを探る戦いならひとつの手だが......。
後半36分の失点シーンは象徴的だろう。三笘は左サイドで後ろに下がって守るべきところで、コンタクトがやや軽くなる。入れ替わられて起点を奪われると、味方のヘディングが中へのはっきりしないクリアになったり、コントロールが乱れたり、GKがフィスティングにいくべきところでキャッチングにいったりと、ミスが連鎖した。
「自分も(初めに)球際のところで負けてしまっていたわけで、あれがなかったら、失点はなかったと思っています。対人のところは気持ちのところが大きく、試合の入りからもっとできたかと。今は切り替えるしかないですが」(三笘)
もし、「戦術・三笘」を実現するなら、彼の攻撃力が最大限に生きる状況を作るべきだろう。その点、ウイングバックというアップダウンで攻守に働くポジションは適切ではなかった。コスタリカのように低い位置でセットして守る相手なら、ウイングとして用いるべきだったのだ。
森保監督はドイツ戦で3バックを奥の手のように使い、偶然的に奏功したシステムで「二匹目のドジョウ」を狙ったのだろう。しかし、付け焼き刃感が強く出た。たとえば左センターバックに入った伊藤洋輝は、後ろか横へのパスばかりで、本来なら1対1で勝ちきれる三笘にもっと早くパスをつけるべきだった。ただし、ふたりが左サイドで組むのはほぼ初の実戦なのだから、連係の難を語るのは酷だろう。
「もっとボールを受けられるようにするべきでした。後悔はあります」
三笘の証言には、懊悩が滲む。
強豪スペインが相手でも、そのドリブルは容易に止められるものではない。もしスカウティングが疎かだったら、ド肝を抜かれるだろう。チェルシーのセサル・アスピリクエタ、あるいはレアル・マドリードのダニエル・カルバハルが対面する選手になる可能性が高いが、どちらでも泡を食うはずだ。
「(決定機の)回数をどれだけ増やせるか。そして、最後のゴールの質。結びつけられなかったら、(チャンスを作っても)意味はないです」
そう語る三笘は、スペイン戦で勝敗を左右する存在になるだろう。ドイツ戦と同じく守備に重きを置くようなら、やはり左ウイングバックがいいのかもしれない。しかし、攻撃に特化した三笘こそが「戦術」だ。