カタールW杯で使用されているスタジアムはいずれも個性的で、来場者の観戦意欲をかき立てる独得の形状をしている。なかでも筆者の心を掴んで離さないのが、フランス対デンマークの舞台となったスタジアム974だ。

 974はカタールの国際電話の国番号なのだが、このスタジアムは輸送用のコンテナをそのまま積み重ねたような構造になっていて、そのコンテナの総数が974個なのだ。これまで幾多のスタジアムを見てきた筆者だが、ネーミングを含めた斬新さという点で、このスタジアムに勝るものはない。モダンでポップでカラフルで、一見の価値ある建築物である。

 フランス対デンマークは、結果を言ってしまえば2−1。勝利を収めたフランスは、グループリーグの成績を2戦2勝とし、ベスト16に真っ先に名乗りを挙げた。ニュース性の高い試合となったが、それ以上に試合そのものがシンプルに面白かった。先進的なスタジアムを舞台に行なわれた"当たり"の試合。この試合には翌日(27日)のコスタリカ戦を観戦する日本人も多く来場していたが、スタジアムを含めたサッカーの魅力に酔いしれたものと思われる。

 デンマークは試合には敗れたが、好チームだった。ブックメーカー各社が大会前、ブラジル、アルゼンチンの次に優勝候補に推していたフランスを相手にしても臆することなく、がっぷり四つに組み、互角に渡り合った。

 デンマークのサッカーから見習うべきは冷静さだ。攻め込まれても、劣勢になっても慌てない。パニックにならない。アタフタすることがないのだ。自ら崩れることがないタイプで、敗因は力負けになる。とはいえ今回は、内容はせいぜい53対47ぐらいで、惜しい試合を落としたという印象だ。


デンマーク戦で2得点のキリアン・エムバペ(右)とアントワーヌ・グリーズマン

 後半16分、キリアン・エムバペが、左サイドバック(SB)テオ・エルナンデスの折り返しをプッシュ。先制したのは強者フランスだったが、デンマークは落胆することなくその直後から反撃を開始。7分後の後半23分、同点弾を叩き込む。

クラブでのプレーよりいいグリーズマン

 クリスティアン・エリクセンが蹴ったCKを、ニアでヨアキム・アンデルセンが高い打点のヘッドで落とすと、ファーサイドに詰めていたアンドレアス・クリステンセンがプッシュ。1−1というスコアはその時、両チームの優劣を示す適切なスコアに見えた。

 試合はそこから俄然、盛り上がった。後半33分、フランスがアントワーヌ・グリーズマンのCKにオーレリアン・チュアメニが飛び込み、あわやというシーンを作れば、デンマークは後半36分、カスパー・ドルベリのCKにマルティン・ブライスワイトが合わせたボールはポストをわずかにかすめていた。

 決勝ゴールが生まれたのは後半41分。グリーズマンが右から上げたクロスボールを逆サイドで詰めたエムバペが太ももで押し込むという泥臭いゴールだった。

 選手のデキについて採点をしようとした時、先制点と決勝ゴールを叩き込んだこのエムバペが最上位(マン・オブ・ザ・マッチ)にくるのは当然として、2番手は誰なのかという視点に立つと、浮上するのは2点目のアシストを記録したグリーズマンになる。4−2−3−1の1トップ下というポジションがなによりハマっていた。

 1トップにオリヴィエ・ジルー、左ウイングにエムバペ、そして右ウイングにウスマン・デンベレの3人を、その中心的なポジションから操るゲームメーカー。それをプレッシャーの弱い低い位置でなく、高い位置で行なうことができる高度な技術が光った。かつてのバルサ、そして現在所属するアトレティコで見るプレーより、格段によかった。チームにハマり機能していた。アシストは1に終わったが、それに近い決定的なプレーは4、5本に及んだ。

 フランスの前線でプレーする4人の選手には立体感があった。それぞれの距離が遠く離れていてもチャンスが生まれそうなダイナミックさがあった。

最大のライバルはブラジルか

 エムバペとデンベレの両ウイングがワイドの高い位置に、まさに張るように構えている点に目が奪われた。両ウイングがここまで開いているチームも珍しい。左のエムバペがスピードに乗る加速に怖さを発揮するのに対し、デンベレは止まった状態からフェイントを駆使しながらのダッシュ力が光った。

 終盤デンベレと交代で入ったキングスレイ・コマンも典型的なウインガーだ。ウイングサッカーはオランダの専売特許だったが、今回のオランダはひどく守備的でウイングを置く余力がない。そこにこだわるようなサッカーをするフランスは、その分だけ目立つ。所属のパリ・サンジェルマンでは、ポジションレスのような動きをするエムバペが、このフランス代表では典型的な左ウイングとしてライン際を疾走する姿に、ディディエ・デシャン監督のこだわりが透けて見えるのだ。

 故障で離脱したカリム・ベンゼマの代役として1トップを務めるジルーは、このなかに入ると少々力不足だが、1トップ下、グリーズマンとのコンビで言うと、ベンゼマより良好と見る。多芸なベンゼマに対し、ジルーはやれることが限られているタイプだ。プレーが濃いグリーズマンには、同じくプレーが濃い目のベンゼマより、あっさり系のジルーのほうがコンビとしていい関係が築けるのではないか。

 オーレリアン・チュアメニ、アドリアン・ラビオの守備的MFコンビ、さらには左右の両SBジュール・クンデ(右)、エルナンデス(左)も高次元で安定している。

 先述のオランダをはじめ、ベルギー、イングランド、ドイツ、ポルトガルなどよりフランスは上だ。スペインとの力関係は定かではないが、最大のライバルはブラジルではないかと筆者は考える。カギを握るのはエムバペというより、グリーズマンでありデンベレであるような気がしてならない。

 また、敗れたデンマークもこれで1分1敗となったが、決勝トーナメントを戦う力はある。次戦はオーストラリア。好チームに再びチャンスは巡ってくると見る。